アメリカのカルテル規制の域外適用

競争法・独占禁止法
吉村 幸祐弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 近年、多くの日本企業がカルテルにより米国司法省(DOJ)による摘発を受けていると聞きますが、日本でのカルテルを理由に米国司法省が日本企業を摘発することはあるのでしょうか。

 米国司法省は、たとえ日本でのカルテルであったとしても、当該カルテルによるアメリカに対する影響等を踏まえ、摘発することがあります。

解説

目次

  1. 規制の概観
  2. 輸入取引を含む行為について
  3. 輸入取引を含む行為ではない、外国との取引を含む行為について
  4. さいごに

規制の概観

 アメリカでカルテルを規制しているシャーマン法1条は、「各州間の又は外国との取引又は通商を制限するすべての契約、トラストその他の形態による結合又は共謀は違法であると宣言される」1 と定めています。
 アメリカの領域外の行為に対するシャーマン法の適用(いわゆる「域外適用」)のルールを規定するのが外国取引反トラスト改善法(Foreign Trade Antitrust Improvements Act of 1982(FTAIA法))です。FTAIA法は、概ね、外国との取引を含む行為(ただし、輸入取引を含む行為を除く)については、以下の場合にシャーマン法が適用されると定めています。

  1. 当該行為が直接的、実質的および合理的に予見可能な効果(a direct, substantial, and reasonably foreseeable effect)をアメリカに及ぼし、
  2. その効果がシャーマン法上の請求権を発生させる場合

 他方で、FTAIA法は、輸入取引を含む行為についてはFTAIA法の適用対象外であると定めています。そのため、輸入取引を含む行為については、FTAIA法は適用されず、判例法の下でシャーマン法の適否が判断されると考えられます。
 なお、連邦取引委員会法にも同様のルールが設けられています。また、FTAIA法は、価格差別、不当な排他条件付取引等を規制の対象とするクレイトン法の域外適用については明示的に定めるものではありませんが、クレイトン法においても同様のルールが適用されるものと考えられます。

輸入取引を含む行為について

 輸入取引を含む行為のシャーマン法の適用について、以下のケースを題材に考えてみましょう。

  1. 日本において製品甲を製造・販売するA社とB社が、製品甲の値上げを合意し、製品甲を全世界の(アメリカを含む)消費者に向けて販売する場合
  2. 日本に所在する、国際配送サービスを提供するA社とB社が、国際配送サービス(アメリカに対する複数の配送サービスを含む)の値上げを合意する場合

(米国司法省(DOJ)・連邦取引委員会(FTC)「反トラスト法の国際的執行及び協力に関する指針」(2017年1月13日)に掲載された例をアレンジしたケースです。以下のケースも同様です。)

 ①のケースは、製品甲はアメリカの消費者に向けても販売されています。仮にA社・B社間の値上げの合意がアメリカに対する販売を対象とすることを明示的に特定していない場合や、全世界規模でみたときにアメリカに対する販売が占める割合が相対的に小さい場合であっても、米国司法省としては、輸入取引を含む行為に該当すると主張する可能性が十分に考えられます。

 ②のケースでは、アメリカへの商品の輸入取引に密接に関連した国際配送サービスを対象としていますので、輸入取引を含む行為に該当し得ると考えられます。
 そして、輸入取引を含む行為に対してはFTAIA法ではなく判例法が適用され、「実質的及び意図した効果がアメリカに及ぶ」場合にシャーマン法が適用されると解されます 2。この「実質的および意図した効果がアメリカに及ぶ」基準は、以下で確認するFTAIA法の基準より緩やかであり、シャーマン法が適用される範囲が比較的広いと言えます。

輸入取引を含む行為ではない、外国との取引を含む行為について

 上記1のとおり、輸入取引を含む行為を除き、外国との取引を含む行為に対するシャーマン法の適否を判断するにあたっては、FTAIA法により、①当該行為が直接的、実質的および合理的に予見可能な効果をアメリカに及ぼすか、②その効果がシャーマン法上の請求権を発生させるかを検討する必要があります。
 以下のケースで考えてみましょう。

日本において電子製品に用いる部品乙を製造するA社とB社が、完成品メーカーに対する部品乙の販売価格の値上げを合意したところ、当該完成品メーカーは日本または第三国で部品乙を完成品に組み込んだうえ、当該完成品をアメリカで販売した場合

 この場合、A社とB社はアメリカに対して部品乙を販売していません。したがって、上記2で確認した、「輸入取引を含む行為」には該当しないと考えられます。
 そこで、FTAIA法に基づきシャーマン法が適用されるかが問題となります。
 ①の要件(当該行為が直接的、実質的および合理的に予見可能な効果をアメリカに及ぼすか)について検討すると、A社とB社の販売する部品乙がすべて日本などのアメリカ以外の国に所在する完成品メーカーに向けて販売されていたとしても、部品乙が組み込まれた完成品がアメリカで販売されていますので、米国司法省は、「直接的」な効果の存在を否定することはないと考えられます。また、仮に当該完成品がアメリカで販売されることにA社とB社が関心を有していなかったような事情があったとしても、米国司法省がアメリカにおける「実質的」で「合理的に予見可能」な効果の存在を否定する可能性は低いように思われます。
 他方で、「反トラスト法の国際的執行及び協力に関する指針」において、当該完成品における部品乙が占めるコストの割合が極めて小さいというような事情は、「直接的、実質的および合理的に予見可能な効果」を否定し得る事情であると示唆されています。もっとも、それがどの程度の割合であればシャーマン法の適用が否定されるのかは明らかではありません。

 次に②の要件(その効果がシャーマン法上の請求権を発生させるか)ですが、この要件を満たすには、アメリカにおける取引に生じる効果が有害であり、かつ、当該効果が請求者の損害を近接的に生じさせたことが必要であると考えられています。上の事例において、アメリカの消費者による請求権を想定すると、たとえば、A社とB社の合意によりアメリカにおける完成品の価格上昇という有害な効果が生じる場合であれば、その効果がアメリカの消費者の損害を近接的に生じさせたものとして、②の要件を満たす可能性が高いと考えられます。

 なお、FTAIA法に基づきシャーマン法が適用され得るケースとしては、完成品がアメリカの消費者に販売されるケースに限られません。たとえば、以下のようなケースでも、シャーマン法が適用される可能性があります。

鉱物丙について、日本に所在するA社・B社と、アメリカに所在するC社が発掘しており、アメリカ以外の国においてはA社とB社が、アメリカにおいてはC社が鉱物丙を供給している状況において、A社とB社がアメリカ以外での当該鉱物の販売量を減らすことを合意し、その結果、C社がアメリカ以外にも鉱物丙を供給するようになり、アメリカにおける鉱物丙の価格も上昇した場合

さいごに

 以上のとおり、米国司法省は、日本のカルテルであっても、当該カルテルによるアメリカへの影響等を踏まえ、摘発する可能性があります。そのため、たとえば日本のカルテルを発見し、公正取引委員会に対する課徴金減免申請を検討する場合、そのカルテルがアメリカにも影響する可能性があるときには、アメリカでリニエンシー制度を利用するか否かについても、速やかに検討することが求められます。


  1. 公正取引委員会ウェブサイト参照 ↩︎

  2. Harford Fire Insurance Co., et al v. California et al, 113 S. Ct. 2891(1993). ↩︎

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