中国産ゲームのローカライズに絡む優良誤認表示等の問題点
競争法・独占禁止法昨今、海外のスマートフォン用ゲームアプリがローカライズ(翻訳)され、日本でリリースされる事例が増えています。アプリをリリースする際、運営企業として気をつけるべきポイントを教えてください。
日本のアプリ市場に関係する法律としては、特定商取引法、不当景品類及び不当表示防止法(以下、「景品表示法」)、消費者契約法、ゲーム内に有償通貨(前払式支払手段)が存在する場合は資金決済法などがあげられます。昨今、ローカライズの誤訳に絡んだ多くの違反事例が出ている景品表示法における優良誤認表示等の問題を中心に解説します。
解説
中国のゲーム市場
中国のゲーム産業の売上は3兆円を超え、世界最大規模の市場となっています 1。一方で、それだけゲームにのめり込むユーザーも多く、ゲームに関する規制も議論されています。中国では、過激な内容・表現等のゲームは取締りをされており、ゲームをリリースするために政府の審査を経る必要があるため、たとえば、日本ですでにリリースされているゲーム内キャラクターの外見を、露出が少ないものに変更して審査に出すなど、審査の実情に応じた施策をとっていることも少なくありません。
また、2018年3月頃からはゲームをリリースするための中国政府の審査が事実上凍結され、大きな話題となりました。
現在、中国政府は未成年者のオンラインゲーム時間規制を検討しており、香川県のゲーム時間を規制する条例案とも似通った状態となっております。
中国産ゲームを日本向けにローカライズしてリリースする場合の注意点
このようにゲーム大国となった中国からのローカライズ作品も年々増加し、2019年には、日本のゲームアプリの売上トップ100に20作品以上の中国産ゲームがランクインしています
2。
「荒野行動」「アーチャー伝説」「第五人格」「放置少女」などの中国産ゲームは、広告で見かけたり、プレイしたことがあるユーザーも少なからずいるのではないかと思います。
上述したゲームや日本の著名な漫画・アニメIPのゲームが今や世界トップ市場となった中国で先行リリースされ、数か月から1年遅れて、日本にローカライズ(翻訳)されて輸入される現象がここ数年、顕著になっています。
しかし、中国で展開されているゲームを日本に輸入する場合、単にアプリを日本語にローカライズしてリリースすればよいというわけではありません。アプリを使って日本市場でビジネスをする場合、特定商取引法、景品表示法、消費者契約法、ゲーム内に有償通貨(前払式支払手段)が存在する場合は資金決済法などの法律に合致するように、アプリを設計しなければなりません。
たとえば、ゲーム内で有償通貨(前払式支払手段)が存在する場合、資金決済法の適用を受け、サービスを終了する場合に払戻の措置等が原則必要となります。しかし、何ら予告なくサーバーを停止し、ゲームがプレイできない事実上のサービス終了状態にもかかわらず、払い戻しをしない事例や、資金決済法・特定商取引法に基づく販売者の表示を行っていない事例など、海外企業が運営するゲームで日本の法律が遵守されていないケースが少なからず存在します。
優良誤認表示
そして、近年問題となっているのがローカライズの誤訳における優良誤認表示です。優良誤認表示とは、商品・サービスの品質を、実際よりも優れていると偽って表示(宣伝)したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に優れているわけではないのに、あたかも優れているかのように偽って表示(宣伝)する行為を言います。
実際に消費者庁から景品表示法に基づく措置命令を受けた事例として有名なものは、2018年のパズル&ドラゴンズに対するものでしょう 3。これは、同ゲームの公式生放送などで紹介されたキャラクターが「究極進化」というパワーアップ可能な強力キャラクターであると説明されていたにもかかわらず、実際には、ガチャ(ゲーム内通貨を使ったキャラクターが入手可能な抽選のこと)という役務提供を通じて消費者が入手したキャラクターが、究極進化しないものであったことから、優良誤認表示(景品表示法5条1号)と判断されたものです。
究極進化すると説明されていたキャラクターが、実際にはそうではなかったため、商品・サービスの内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示す表示があったとされたわけです。
一方、ゲームのなかには、入手したキャラクターが後日、ゲームバランス調整のために弱体化(ナーフ)されると利用規約で明記している場合があります。この場合は、ガチャ等の役務提供を通じて入手した時点では、説明どおりの性能だったわけですから、優良誤認の問題とはならない可能性が高いです。
前述の「パズル&ドラゴンズ」と類似の事案がローカライズに絡んで昨今、少なからず見受けられます。ある海外産のゲームアプリでは、ガチャ等の役務提供を通じて入手するキャラクターの説明として以下のような事例がありました。
- キャラクターの説明に「1回必ず復活」と明記されているにもかかわらず、入手時点では必ず復活する性能ではなかった。
- キャラクターの説明に「味方の必殺技耐性」を増加させると記載されていたが、後日、誤表記として「防御型格闘家の必殺技耐性」を増加させると修正された。
(※すべての味方キャラクターを強化する性能と説明されていたにもかかわらず、実際は一部の味方キャラクターを強化する性能であった) - キャラクターを強化した場合の性能として「最大3回まで致死ダメージを耐える」とゲームの公式ページで説明していたが、後日、誤表記であったとして、「1回まで耐える」内容に変更が行われた。
上記の例では、そもそも誤表記を理由として、消費者は、実際に説明通りの強力な性能のキャラクター等を入手することはできなかったため、訂正前の説明が、訂正後のものと比べて「著しく優良である」と認められれば、優良誤認表示として景品表示法違反となる可能性が高いとみられます。
ゲームアプリの公式説明では、表示不具合として、表示が誤っていた・誤表記であるとアナウンスをしていますので、海外からローカライズする際に誤訳され、表示されたものではないかと思われます。
景品表示法違反と思われる案件に対する消費者庁の対応
では、このような景品表示法違反と思われる案件があった場合、消費者庁がただちに動くかというと、そうではないと思われます。筆者も、問題があると思われる案件を消費者庁に情報提供していますが、「実際に消費者が被害にあったのか」という点が重視されます。したがって、形式的に違法性があるというだけではなく、誤表記によって実際にどの程度の数の消費者がどれくらいの損害・影響を受けたのかという具体的事実がなければ、措置命令等まで発展する可能性は低いとみられます。
たとえば、「パズル&ドラゴンズ」の例では、日本のアプリゲーム市場で売上トップ10にランクインする大人気ゲームであり、公式生放送などで、実際より優良なキャラクターの説明を繰り返し行い、それなりの消費者に影響があったと思われる点などが考慮され、景品表示法に基づく措置命令に至ったものと思われます。
以上のような観点から、ゲーム事業者が海外産ゲームのローカライズを行う場合、単に翻訳を行うだけではなく、前述のように日本の法律に適合しているかのチェックも行われるべきです。本来であれば、そこに専門家も加わり、ローカライズが行われるのが望ましいですが、コスト等の問題から最低限の人員でローカライズが行われる場合、ユーザーが課金して入手するゲーム内の有償通貨に関する資金決済法に基づく規制の遵守や、有償通貨を利用して入手するキャラクターやアイテム等の説明表記や入手手段(ガチャ等)に関係した表記については正しい表示・表現がされるようにするべきと考えます。
日本では、オンラインゲームに関する自主規制団体も存在し、冒頭のようにゲームに関する規制も議論されています。一部の法律を遵守していないと思われるアプリゲームが消費者に不利益を与える運営を継続すれば、よりいっそうの規制議論が進む可能性もあります。健全・自由なアプリ市場を維持するため、引き続き筆者も、法律を遵守していないアプリの調査・報告等を続けていきます。
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日本貿易振興機構「中国ゲーム市場の攻略法」(2018年5月7日、2020年3月27日最終閲覧)、日本経済新聞「熱狂、中国ゲーム市場、世界最大3兆円に拡大 テンセントなど、スマホを主役に」(2017年8月8日、2020年3月27日最終閲覧) ↩︎
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36Kr Japan「2019年Q3日本スマホゲーム市場、売上トップ100に中国製ゲーム22タイトルがランクイン」(2019年12月19日、2020年3月27日最終閲覧) ↩︎
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消費者庁ニュースリリース「ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社に対する景品表示法に基づく課徴金納付命令について」(平成30年3月28日、2020年3月27日最終閲覧) ↩︎

弁護士法人東京フレックス法律事務所
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