アメリカによる日本企業へのカルテル摘発と、日本にいる役職員個人の身柄引渡しリスク

競争法・独占禁止法
吉村 幸祐弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 日本でのカルテルを理由に米国司法省(DOJ)が日本企業を摘発した場合、個人の刑事責任は現実に問われるのでしょうか。

 米国司法省は、カルテルの場合、個人の刑事責任を問う姿勢を示しており、個人の刑事責任が問われるリスクは現実的なものと言えます。なお、日本にいる役職員個人がアメリカに対する身柄引渡しの対象となる危険性も否定できません。

解説

目次

  1. カルテルによる個人処罰のリスク
  2. アメリカへの引渡しのリスク
    1. アメリカへの引渡しの可能性
    2. 米国司法省の姿勢
  3. さいごに

カルテルによる個人処罰のリスク

 日本でのカルテルであったとしても、当該カルテルによるアメリカに対する影響等を踏まえ、米国司法省が摘発をする可能性があります(「アメリカのカルテル規制の域外適用」参照)。また、一定の要件を満たす場合には、カルテルの場合には、刑事事件として訴追するのが米国司法省の基本的な方針とされています(「諸外国におけるカルテル規制と執行状況」参照)。
 そして、アメリカでのカルテルへの制裁の特徴としては、刑事訴追の対象として、会社(罰金刑)だけでなく個人(禁固刑または罰金刑)も含まれる点があげられます。

 米国司法省は、カルテルの事案において、被疑企業・被疑者との間で司法取引を行うことが多々あります。この司法取引において、企業側は、裁判所で有罪答弁(Guilty Plea)を行うこと等と引き換えに、当該法人の役職員個人が免責されるように交渉することになりますが、米国司法省は、カルテルに積極的に関与した役職員個人等を、免責の対象から除くことがあります(カーブ・アウト)。カーブ・アウトされた役職員個人は、米国司法省から訴追される可能性が存続することになります。

 実際、多くの役職員個人がカルテルを理由とする刑事訴追を受けています。たとえば、日本のメーカーが多数摘発された自動車部品のカルテル事件では、65名の自動社部品メーカーの役職員個人が刑事訴追されているとのことです(2017年2月2日時点) 1。このなかには、日本でのカルテルによりアメリカで刑事訴追され、アメリカで服役している役職員個人も含まれているものと考えられます。
 なお、自動車部品のカルテル事件に限定するものではありませんが、米国司法省が発表する統計資料によれば、2010年から2019年の個人の平均収監期間は18か月とされています。

出典:米国司法省ウェブサイトをもとに編集部作成

出典:米国司法省ウェブサイトをもとに編集部作成

アメリカへの引渡しのリスク

 カルテルを理由に日本の役職員個人がアメリカで収監された事案は、当該役職員個人がアメリカの裁判所に出頭して服役したものと考えられます。
 それでは、日本にいる役職員個人が、アメリカに引き渡され、アメリカでの服役が強制されることはあるのでしょうか。アメリカへ渡航さえしなければ、アメリカでの服役を強制されることはないのでしょうか。

アメリカへの引渡しの可能性

 まず、日本にいる役職員個人がアメリカに強制的に引き渡され得る法律上の根拠を確認します。

 この点について、アメリカと日本は、逃亡犯罪人引渡条約(日本国とアメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約)を締結しています。そのため、アメリカ政府は、日本政府に対し、同条約に基づき犯罪人の身柄の引渡しを請求することが可能です。
 日本における具体的な犯罪人引渡しの手続等は、逃亡犯罪人引渡法で定められています。この逃亡犯罪人引渡法は犯罪人の引渡しに際しての種々の制限を定めており、その1つが「逃亡犯罪人が日本国民である」場合です(逃亡犯罪人引渡法2条9号。自国民不引渡原則)。もっとも、上記の「日本国とアメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約」の5条において、「被請求国は、自国民を引き渡す義務を負わない。ただし、被請求国は、その裁量により自国民を引き渡すことができる」と定められていますので、日本国民であることをもって常に引渡しの可能性が否定されるわけではありません。すなわち、日本国民についての犯罪人の引渡しが認められるか否かは、最終的には、日本政府の裁量に係ることになります。

米国司法省の姿勢

 前提として、米国司法省は、アメリカの裁判所に任意の出頭をしない役職員個人を、インターポール(国際刑事警察機構)において国際的に指名手配(Red Notice)をする姿勢を示しています。そのため、日本を離れ、当該役職員が指名手配(Red Notice)によって仮拘禁を実施する可能性がある国に渡航することがあれば、そこで仮拘禁され、そのままアメリカに対する引渡しが実施される可能性があります。

 また、米国司法省は、カルテルを理由に、逃亡犯罪人引渡条約に基づき役職員個人の身柄の引渡しを請求する姿勢を示しています。実際、カルテル等を理由にドイツでイタリア人役職員個人の身柄が拘束され、アメリカに身柄が引き渡された2014年4月のケース 2 を皮切りに、カルテルを理由に役職員個人の身柄がアメリカに引き渡されたケースが複数あり、たとえば、2020年3月には、自動車部品のカルテル事件において、ドイツで身柄拘束された韓国人がアメリカに引き渡されたことが公表されています 3

 アメリカ政府が日本政府に対して犯罪人の引渡しを求める場合の判断基準等や、日本政府がアメリカ政府による犯罪人の引渡し請求に応じる場合の判断基準等は不明です。しかし、カルテルを理由とするものではありませんが、たとえば2019年4月にも、2名の日本人の犯罪人が日本からアメリカに引き渡された旨が公表されていることからもわかるとおり、強制的な引渡しがなされる事例は確かに存在します 4。現時点において、アメリカ政府が日本政府に対してカルテルを理由とする役職員個人の引渡しを請求したとの報道に接したことはありませんが、上記の近年の米国司法省の傾向からしますと、そのリスクはかつてに比べると大きくなっているものと考えられます。

さいごに

 以上のとおり、日本におけるカルテルを理由に役職員個人が刑事訴追を受けるリスクは現実のものとして存在しますので、そのリスクを十分に認識することが求められます。
 また、このリスクは個々人に直接的に生じるものです。そのため、このリスクを従業員に伝えることは、カルテルの危険を身近に感じさせ、より充実したコンプライアンス教育につながるものと考えられます。

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