派遣元労働者によるパワハラに対する使用者責任

人事労務
小笠原 耕司弁護士 小笠原六川国際総合法律事務所

 派遣労働者を受け入れている場合、派遣元の管理職が派遣労働者に対してパワハラ行為を行った場合には、派遣先会社も使用者責任を負うことになるのでしょうか。

 派遣先会社は、当該パワハラ行為を行った派遣元管理職を指揮監督している状況にあってはじめて、当該派遣元管理職の行為について使用者責任を負うことになります。

 また派遣元の管理職による派遣労働者に対するパワハラについて、派遣先会社の安全配慮義務違反と認められるのは、①当該ハラスメント行為の内容、②当該ハラスメント行為が行われた具体的状況、③そこに至る経緯、④具体的な予見可能性、および⑤派遣先会社とハラスメント行為者との関係等の諸要素を勘案した上で、派遣労働者の身体等に対する危険を防止する義務があると認められる場合に限られます。

解説

目次

  1. 問題の背景事情
  2. 関連判例
  3. 論点解説

問題の背景事情

 派遣労働者を受け入れている場合において、派遣先従業員が派遣労働者に対して加えられたパワハラ行為に対して、派遣先企業が使用者責任を負担することは当然の帰結です。

 それでは、派遣元における派遣労働者の上司等が、派遣労働者に対してパワハラ行為を行った場合に、派遣先会社は、いかなる責任を負うのでしょうか。

関連判例

判例
ヨドバシカメラほか事件(東京地判平成17年10月4日労判904号5頁)

[認容額]
X1に対する慰謝料として、
第3暴行:Y2、GおよびI が連帯して31万500円
第4暴行(謝罪強制):Y2およびI が連帯して100万5,770円

[事案の概要]
X1は、Y1社との間で雇用契約を締結し(平成15年1月1日以降は、Y2社との間で同様の契約締結)、平成14年11月15日よりY4社上野店で、同年12月12月20日からは、錦糸町店において、Y1社・Y2社がそれぞれY3社から受託したPHS端末販売業務を遂行した。
本件における当事者は多数に及ぶが、簡略化すると次のとおりである。
Y1社・Y2社
  • いずれも労働者派遣事業等を目的とする有限会社
  • Y1社代表者が業務を担当できなくなったため、GがY2社設立
  • Y1社の従業員であったI・J・X1共に、Y2社との間で雇用契約締結
Y3社
  • PHS通信サービス会社
  • Y1社・Y2社との間で委託業務契約締結
  • Kは、Y4社上野店における営業を担当
Y4社
  • 大手家電量販店
  • Y3社との間で代理店基本契約締結
  • 被告Dは、上野店においてマネージャーとして勤務

本件は、第1~第4暴行、ならびに謝罪強制行為について不法行為に当たるとして損害賠償請求をなすものであるが、ここでは第3暴行、ならびに第4暴行および謝罪強制行為について、実行者を直接雇用していないY4社の使用者責任の成否についてのみ検討する。
第3暴行 平成15年3月13日、X1は指示された入店時刻に遅刻したにもかかわらず、虚偽の電話連絡を行ったため、I がX1をY2社事務所に呼び出し、Gが所在する中で、I がX1左の頬を手拳で数回殴打し、右大腿部を膝を使って蹴り、頭部に対して肘や拳骨で殴打する暴行が合計30回に及んだ。
第4暴行 第3暴行を受け、X1はY2社を退職することを決意し、翌3月14日は出社しなかったところ、I がX1を訪ねるため赴き、X1の実家において、X1の態度に激高し、X1をソファーの上に四つんばいの状態にさせ、手拳や肘で殴打したり、足や膝で蹴るという暴行を合計約30回にわたって加えた。
謝罪強制 その後、I はX1に強く促し、Y3社の営業所においてY3社担当者に対して遅刻および入店時刻虚偽連絡について謝罪させた。

[裁判所の判断]
  1. Y4社のJおよびI に対する指揮監督
    (1)まず、以下の事実について認定を行った。

     ア 「被告Dが平成14年11月下旬、Kに対し、X1の接客時における表情について笑顔が不十分である旨伝えた」

     イ 「Kはこれを被告I に伝え、Y2社においてX1の会話練習を行わせた」

     ウ 「被告Dが、平成14年12月13日、Kに対して、X1のY4社上野店における就労を同月15日までとし、Y3社の商品を担当する人員を他の人員に変更するよう依頼し、X1のY4社上野店における就労は平成14年12月15日を最後に終了した」

     エ 「Y4社が、Kに対し、X1の就労状況の改善等について要請をし、この要請に応じるためにY2社がX1に会話練習をさせた」

    (2)「しかし、上記要請の相手方は、」Y3社の「従業員であるKであり、被告J及び被告I ではなく、その内容も、被告J及び被告I によるX1に対する教育方法について具体的に指示したものではない。また、前記」認定「事実によれば、Y1社及びY2社におけるX1に対する研修は、両社において独自に作成した資料・マニュアルにより行われており、本件第1暴行が行われた会話練習も被告Jが発案したもので、その内容についてY2社関係者以外の第三者が関与又は指示した事実は全く窺われず、Y2社が派遣社員に対して行う研修・教育内容についてY4社の関与は認められない。さらに、Y2社は、Y3社と相談して、被告DによってY4社上野店から排除されたX1を、ほとんど時間的な間隔を置かず、また接客態度等について新たに特別の教育をすることなくY4社錦糸町店で就労させることとし、Y4社はこれを受け入れている。」
    「以上によれば、Y4社が、Y2社及びY1社の教育を担当する従業員に対して、X1の教育について指揮監督をしていた事実を裏付けるに足りる事情は認められないというべきである」(下線は筆者による)
  2. Y4社およびY3社の安全配慮義務
    「本件において、安全配慮義務が問題となっている本件第1暴行、本件第3暴行及び本件第4暴行の内容、それらが行われた具体的状況、そこに至る経緯具体的な予見可能性の有無、並びにY4社及びY3社と被告J及び被告I との関係を考慮すると、前記認定した諸事情を考慮しても、仮にY4社及びY3社が何らかの安全配慮義務を負うとしても、上記各暴行に関して、X1の身体等に対する危険を防止する義務があったとまで認めることはできない
    「本件謝罪強制についても、被告I がX1をX2宅からY3社東京営業部に赴かせ、Y3社従業員のL及びMに対し謝罪させたという行為の内容、その行為の行われた場所及び被告I の意図からすると、Y4社に本件謝罪強制に関して、X1の身体等に対する危険を防止する義務があったと認めることはできない
    「Y3社においても、被告I がX1をY3社東京営業部に赴かせた点についてはもとより、Y3社東京営業部に赴いたX1が被告Iにより謝罪を強制されたこと自体についても、これによる危険を防止するということが、Y3社の安全配慮義務の内容に含まれると認めることはできない」。(下線は筆者による)

[事案の結果]
X1に対する慰謝料として、第3暴行についてY2社、GおよびI が連帯して31万500円、第4暴行(謝罪強制):Y2社およびI が連帯して100万5,770円の損害賠償を負うことを認容した。

論点解説

 上記判旨においては、明確な言及がなされていませんが、①本件では特に第4暴行について刑事事件に発展するほど苛烈なものであった点、②当該暴行がX1の実家というY3社やY4社の預かり知らない領域で行われていること、③本件暴行がX1の態度にI が激高した結果、突発的に行われたものであること、④それゆえにY3社やY4社としても当該暴行について具体的予見可能性を有していなかったこと、および⑤I に対してY4社が直接指揮・監督を行っていなかったという本件特殊事情に即した判断である点には留意が必要です。

 例えば、派遣先において、派遣労働者が派遣元の上司からパワハラ行為を受けている場合に、派遣先従業員が制止できたにもかかわらず傍観しているような事例においては、判断が異なる可能性が考えられます。

ワンポイントアドバイス
 派遣労働者に対するいじめが社会問題となって久しいですが、派遣先従業員による派遣労働者に対するパワハラは、派遣先企業に対して使用者責任が課されるのみならず、深刻なイメージダウンにもつながりかねません。派遣労働者が、派遣労働者以外の者のストレスのはけ口とならないように、徹底する必要があります。

※本記事は、小笠原六川国際総合法律事務所・著「第3版 判例から読み解く 職場のハラスメント実務対応Q&A」(清文社、2020年)の内容を転載したものです。

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