内部告発に端を発した社内調査とパワハラ防止

人事労務
小笠原 耕司弁護士 小笠原六川国際総合法律事務所

 管理職であるAの不正を告発する内容の文書が上層部に回付され、上長からAに対して数時間にわたって詳細な事情聴取がなされた後、その真偽が明らかにされないままAは、配置転換となりました。その直後にAが自殺を図った場合に、会社による一連の行為は、パワハラと認められることがあるでしょうか。

 長時間かつ細部にわたる糾問的な態様の事情聴取は、対象者に強いストレスを与えるものといえます。

 また、その後の配置転換は、仮に真偽が明らかにされておらず、「左遷ではない」との建前のもとに行われたとしても、事情聴取との近接性(異動の時期)、他の異動者との関係、配置転換に至る経緯から不正の疑いとの関連性が明らかといえる場合が多く、対象者の心情に大きなダメージを与えるおそれがあります。特に、事実無根の誹謗・中傷による場合や長年慣れ親しんだ職場を離れる場合はなおさらです。

 したがって、事情聴取および配置転換のいずれについても、パワハラとならないように、適切な対応が求められます。

解説

目次

  1. 問題の背景事情
  2. 関連判例
  3. 論点解説

問題の背景事情

 昨今、コンプライアンス相談窓口を設置している企業も多くなりましたが、その対応を間違えると、労働者の一方的な誹謗中傷を助長する結果を招き、使用者自らパワハラを行ったとの誹(そし)りを受けることになりかねません。

関連判例

判例
小田急レストランシステム事件
(東京地判平成21年5月20日判時2059号146頁)

[事案の概要]
本件は、小田急レストランシステム(R社)に雇用されていた亡Tがうつ病を発症して自殺したのは業務に起因するものであるとして、Tの相続人等が、渋谷労働基準監督署長に対して、労災保険法による遺族補償給付の請求をしたところ、不支給処分を受けたため、その取消しを求めたものである。

  1. Tの業務内容
    Tは、R社入社後、一貫して営業第2部の給食事業部門(O百貨店の社員食堂での給食事業を中心的に取り扱う)に配属され、平成7年に給食事業料理長に就任した後も、その傘下の新宿第2店員食堂の店長を兼務するなどしていた。Tの主な業務は、傘下の数箇所の各店舗を巡回し、各店舗の調理面からのチェック、指導、メニューの決定等を行うことであった。
  2. 平成9年ビラ問題
    R給食事業部門の新宿第1店員食堂で稼働する従業員Zは、その処遇に不満を持ち、平成9年2月、Tが、(1)食券を再利用して売上げを着服している、(2)同人が管理する金庫から1万5,000円を盗んだ、(3)部下の女性職員に対するセクハラをした、(4)O百貨店の酒売場倉庫から窃取されたビールを飲んだ、(5)Tの部下であるVが、従業員と不適切な関係をもったり、商品を駅長室に持ち出して駅長から切符をもらったり、調味料を盗んでいる等の内容を含む、R社の職員を中傷するビラ(以下「本件ビラ」という)を、O百貨店の労働組合に持ち込んだ。
    O百貨店および同労働組合から店員食堂の規律について強い疑念を示されたR社では、内部調査をすすめ、懲罰委員会において、T、U、V等から事情聴取を行った。その結果、Vが調理場で作った焼きそばを社外に持ち出した事実は確認したが、それ以外の事実は確認できなかった。
    Tは、現金管理・食券管理に関する報告書を提出し、さらにO百貨店および同労働組合に対する信用毀損に対する始末書を提出した。
    その後、R社はTが兼務していた新宿第2店員食堂店長職および町田店員食堂店長職を解任し、同職をUが兼任することとした他、下表①のような処分を実施した。Tに対する懲戒処分は実施されていない
  3. 平成10年ビラ問題
    その後、平成10年3月になって、Zは雇用契約更新にあたり、再度本件ビラをR社の上層部へ送付して、これを蒸し返した。
    その結果、Tに対しても、再び、R社からの事情聴取がされ、その後、Tは、入社以来30年間勤務した給食事業部から、同年4月16日付けでレストラン事業部へ配置転換された。(その他の異動については、下表②のとおり。)
  4. Tの自殺
    Tは、平成10年4月24日、自宅を出た後、前記配置転換後に勤務することとされていたイタリア料理店に出勤しないまま所在不明となり、そのころ、長野県内の雑木林において縊死した。

[裁判所の判断]
Tの心理的負荷の強度に関して次のような認定を行っている。
  1. うつ病発症前の業務による心理的負荷[事情聴取]
    「ZがO百貨店労働組合に本件ビラを持ち込んだことで、顧客であるO百貨店からR(社)の給食事業の管理責任を問われることに発展し、平成9年には、上司のU支配人や部下のVが懲戒処分を受けるとともに、Tも自らが疑われた金銭の管理に関する事項を含む始末書を提出させられた上、」「給食事業料理長の地位には変化はなかったが、当時兼務していた店長職を解任されているし、平成10年3月には、Tが店員食堂改善案を提出しているところ、これはO百貨店から給食事業の委託を打ち切られかねない状況のなか、Tが、R(社)の給食事業の委託の継続に向けての責任の一端を負わされたものであるということができる」
    「そして、営業第2部長らの事実聴取は、本件ビラの内容が事実でないとしながらも、約2時間にわたり、逐一詳細にTに尋ねており、かつ、その質問内容も本件ビラに直接的に記載されていないものにも及んでいる上、その態様も相当に糾問的であったといわざるを得ない」。(下線は筆者による)
  2. うつ病発症後の業務による心理的負荷[配置転換]
    配置転換について、Rの総務担当者やUは降格や左遷ではないとするが、平成10年3月の事情聴取の後に行われた人事異動であること、同時期にされた給食事業支配人のUの配置転換は監督不行届を理由とした降格であったこと、当時社内には3名しかいなかった事業料理長から事業付料理長という例外的地位への異動であったこと、Tが長年従事してきた給食事業(の管理業務)から外れ長年離れていた現場作業(調理)を担当することになったこと、異動理由が明確に告げられておらず、将来的に管理業務に戻ることが予定されていたことも告げられていなかったこと、上層部が給食事業を担当していた者を疎ましく思うような態度を示していたことからして、組織上・人事管理上はともかく、少なくとも職種、職場における立場、経験が類似の労働者からみて、「左遷」と受け止めても不自然ではない異動であったと認めるのが相当である。

[事案の結果]
裁判所は、Tの業務とTの精神障害発症・自殺との間に相当因果関係が存在することを認め、遺族補償給付の不支給処分を取り消した。

論点解説

 不正行為が疑われる社員に対する事情聴取は、とかく当該事実があったものと決めつけ、糾問的になる傾向があります。①聴取担当者を別の指揮命令系統に属する管理職に行わせたり、あるいは顧問弁護士等の外部の専門家に委ねる、 ②長時間にわたることを避け、適宜休憩をとる、③まずは対象者の言い分にじっくりと耳を傾け、回答に矛盾や明らかに不合理な点がある場合に限って、追及を厳しくする等聴取方法にも一定の配慮が必要となります。

 また、不正行為が行われたか否か真偽不明な場合であっても、本件のように取引先との関係で責任者を交代させる必要性に迫られる場合もあります。その場合には、対象者に事情を説明し納得してもらった上で、異動先でのキャリアパスを示したり、様々な支援を行うことが求められます。

ワンポイントアドバイス
 労働者に対する処分は、①反論の機会を与える等適正手続を履践した上で、②当該処分が違反行為との関係で相当性が確保されていること、および③他の者との関係において、公平性が確保されていることが必要とされます。

※本記事は、小笠原六川国際総合法律事務所・著「第3版 判例から読み解く 職場のハラスメント実務対応Q&A」(清文社、2020年)の内容を転載したものです。

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