パワーハラスメントとは
人事労務当社の社員から、「妻が看護師として働いている病院で新型コロナウイルス患者を受け入れているのだが、そのことがわかると同僚のみんなが自分を避けるようになり、口をきいてくれなくなった。毎日会社に行くのが辛い。これはパワハラではないのか」との相談を受けました。このようなケースはパワハラにあたるのでしょうか。
相談のような事実がある場合、パワハラ(人間関係からの切り離し)にあたる可能性が高いと考えられます。
解説
目次
パワーハラスメントとは
2020年6月1日、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」といいます)が施行され、同法に基づき定められた「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(以下「指針」といいます)が適用されることとなりました。
労働施策総合推進法では、職場におけるパワーハラスメント(以下「パワハラ」といいます。)について、以下の3つの要素のすべてを満たすものとし、その防止のために雇用管理上必要な措置をとることを事業主に義務付けています。
要素② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
要素③ 就業環境を害すること
パワハラの具体的な内容
指針では、労働施策推進法があげる3要素のそれぞれについて、以下のとおり具体的な説明がされています。
優越的な関係を背景とした(要素①)
職務上の地位が上位の者によるものだけでなく、同僚または部下による言動でも、業務上必要な知識や経験がある者による言動で、その者の協力が業務遂行に必要である場合や、集団による行為で抵抗等が困難であるものなどはパワハラにあたるとされています。
業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により(要素②)
業務上明らかに必要性のない言動や業務の目的を大きく逸脱した言動、業務遂行手段として不適当な言動、行為の回数や行為者数等が社会通念上許容される範囲を超える言動などがこれにあたるとされ、様々な要素(当該行為の目的や労働者の問題行動の有無・内容・程度、業務の内容、労働者の心身の状況、行為者との関係性など)を総合的に考慮することが適当であるとされています。
就業環境を害すること(要素③)
「平均的な労働者の感じ方」を基準に、就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指すとされています。
【パワーハラスメントの3要素】
パワハラの行為類型
指針は、パワハラの行為類型を6つに分け、それぞれについて該当すると考えられる例、該当しないと考えられる例をあげています。
【パワーハラスメントの6類型】
参考になると思われるものを以下に抜粋します。
- 身体的な攻撃(暴行・傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
該当すると考えられる例- 人格を否定するような言動(性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む)
- 他の労働者の面前で大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと
- 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を、当該相手を含む複数の労働者宛に送信すること
- 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意しても改善されない労働者に対し一定程度強く注意すること
- その企業の業務の内容や性質に照らして重大な問題行動を行った労働者に対し一定程度強く注意すること
- 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
該当すると考えられる例- 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり別室に隔離したり、自宅研修させたりすること
- 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること
- 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
該当すると考えられる例- 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること
- 業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること
- 繁忙期に、業務上の必要性から、通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること
- 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
該当すると考えられる例- 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること
- 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
該当すると考えられる例- 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること
- 機微な個人情報について、当該労働者の了解を得て、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと
パワハラ該当性について
設例では、社員から「同僚のみんなが自分を避けるようになり、口もきいてくれなくなった」との相談がされています。これが事実であれば、集団による行為(要素①)で、業務上の必要性を欠くもの(要素②)であり、人間関係からの切り離し(行為類型③)のパワハラに当たり得ます(指針において該当すると考えられる例としてあげられる「一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること」に相当する行為です)。
このことを受け、社員は「毎日会社に行くのが辛い」と精神的なダメージを受けており、「配偶者が新型コロナウイルス患者を受け入れている医療機関に勤務していること」という当人にとってはどうしようもないこと(しかも、本来社会的に評価されて然るべきこと)を理由とする無視という状況は、平均的な労働者において就業上看過し得ない支障が生じたと感じるもの(要素③)といえます。
すなわち、社員の相談どおりの事実があった場合、労働施策総合推進法のパワハラの3つの要素が満たされる可能性が高いと考えられます。このような相談があった場合、会社においては、早急に事実確認のうえ、社員の精神状態への配慮(産業医との面接を設定し、場合によっては産業医から受診を促してもらうなど)や行為者への厳重注意その他の対応を行う必要があります。

三宅坂総合法律事務所
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