配転命令とパワハラ

人事労務
小笠原 耕司弁護士 小笠原六川国際総合法律事務所

 顧客との間のトラブルを頻発するAについて、会社としても営業職に就けておくわけにはいかず、対人折衝のない部署への異動を命じました。しかし、従前から予定していた人事異動ではないため、異動先ですぐにAに担当してもらう業務もありません。Aは、この異動には合理性がなく、嫌がらせのために閑職に追いやったと主張していますが、果たしてパワハラとなるのでしょうか。

 会社としては、一定の効果が確認できたところで、営業現場に復帰してもらおうと考えていますが、そうすると今度は短期間での異動命令を捉えて、パワハラと言われないか、不安です。

 業務上の必要性が高く、人事異動に合理的理由があると認められる場合には、パワハラには該当しません。他方、対象者へのいやがらせの目的がうかがわれる場合には、たとえ業務上の必要性があるとしても、違法な配置転換であるとしてパワハラと認定される可能性があります。

 営業現場への復帰について、欠員が生じた場合には、直接の業務に就いていない労働者を優先的に充てることには一定の合理性もあり、また一定の研修・教育効果が確認できた後に営業現場へ復職させることは、Aの利益にも適うことといえますので、原則としてパワハラには該当しないと考えられます。

解説

目次

  1. 問題の背景事情
  2. 関連判例
  3. 論点解説

問題の背景事情

 本設問のように、特定の労働者を再教育する目的で実施する配転の場合には、業務の必要性に基づく人材の適正配置という要素は乏しく、むしろ外形のみから判断すると、あたかも閑職に追いやり仕事を与えない、あるいは短期間の異動を繰り返しているように捉えられる場合があります。著名なトナミ運輸事件は、内部告発に対するいわば報復措置としてのパワハラ行為が認定されています(富山地判平成17年2月23日労判891号12頁)。したがって、労働者に対する懲罰等の不当な動機・目的によって実施されたものであるか否かが、特に重要な争点となります。

関連判例

 配置転換が、いやがらせやパワハラに当たるか否かが争われた事案としては、以下の判例があります。

判例
損保ジャパン調査サービス事件(東京地判平成20年10月21日経速2029号11頁)

[認容額]
請求棄却

[事案の概要]
保険調査会社Y社の従業員Xが、上司Y2からのパワハラによってPTSDに罹患して休職を余儀なくされたとして、Y2に対して不法行為に基づき損害賠償を求め、Y社に対しては雇用契約に基づく契約関係の確認、同契約上の安全配慮義務違反ないしはY2の不法行為に対する使用者責任に基づく損害賠償責任を求めた事案である。
Xは、堺サービスセンターへの転勤について、Y社における定期異動ランクアップ試験の受験勉強の機会をあえて奪うものであると主張した。

柏サービスセンター Xは当時、対内外の対人トラブルを多数起こして、始末書も多数回提出していたため、平成11年11月ころには、柏地区のディーラーや修理工場に嫌われて、ほとんど仕事ができない状態となっていた
  ⬇️ 平成12年4月異動
東京車両技術調査室
  ⬇️ 平成14年4月異動
能力開発第一部
(能開南港)
主に従業員の研修を扱う部署で、部員はXを含めて3名で、X以外の2名は講師役で、Xは研修準備と講師補助を担当
  ⬇️ 平成15年9月異動
堺サービスセンター
(堺SC)
[裁判所の判断]
損害賠償請求に対する判示事項として、以下の点を認定した上で、堺SCへの人事異動命令が適法であるとした。

(1)「この異動は不定期ではあったが、堺SCでは、その年の4月に1名が退職し、さらに同年10月にも1名の退職が予定されていたため、早急に人員を補充する必要があり、そのために原告に異動を命じたものであること」

(2)「そのような場合の補充要員の優先順位としては、現場で業務に就いている者よりも、能開南港のような、直接の業務に就いていない者を充てるのが通常であること」

(3)「同所のような部署では、これまでも通常の時期と異なる短期間で異動した者があったこと」

(4)「原告が能開南港に来たのは、柏や東京では原告の姿勢が高圧的にすぎて現場は担当させられないとの判断があったことは上記認定のとおりであるが、原告のこのような姿勢も、大阪の堺のような土地柄では活用する余地があったと考えられたこと」

(5)「能開南港では、上司の次長が、原告への対応に参っており、同次長のためにも原告を異動させてやる必要があるとY社の人事部で考えたもので、この異動には、原告に対する懲罰的な意味は一切存しなかったこと」

(6)「もっとも、原告は精神疾患に罹患したということで赴任せず、結局同年10月の定期異動で補充が行われたこと」
 「したがって、上記異動には、人事上の措置として、十分合理的な理由が認められ」「そのほかこの異動が原告に対する不法行為等を構成するような事実は認められない」

【事案の結果】
Xに対する不法行為を構成する行為は認められないとして、請求棄却となった。

論点解説

 上記判旨部分においては、①人員補充の必要性・緊急性、②補充要員の優先順位に関する慣例の合理性および運用実績、③異動先に対する対象者の適性、④使用者の意図等を総合的に勘案した結果、人事異動が適法であると判断されています。設問の事例では、業務上の必要性に出たというよりも、むしろ対象者本人の再教育の効果を期するものであり、異動も元の職場に復帰させるもので、本人にとっても利益になることから、パワハラには該当しません。

 さらに、上記関連事件では直接の争点とはなっていませんが、柏サービスセンターから能開南港への異動については、内外の対人トラブルを多数起こして、取引先にも嫌われて、ほとんど仕事ができない状態になったことが認定されており、このような状況において、さらなる営業上のトラブルを回避するためには、対人折衝のない部署へいわば緊急避難的に異動させることも、業務上の必要性が認められるものと思われます。

 したがって設問の事例において、たとえ異動先において十分な業務量が確保されていないとしても、原則として人事異動に合理的理由があり、パワハラには該当しないというべきです。

 上記判例においては、就業開始後2年経過した柏サービスセンターに在籍していた際に、Xに対して退職強要が行われたか否かも争点となっていますが、これについても、入社後2年経過しない程度の新入社員を退職させようとすることは考えにくいことや、勤務評価においてXについて「良いものを持っており時間をかけて教育したい」とのコメントがなされていることが摘示された上で、退職強要の事実があったとは認められないとの判断が示されています。

 このように、新卒の一括採用により入社した総合職の場合は、複数の部門や事業場を定期的に異動することで経験を積ませることが一般的であり、また若年労働者についてはその可塑性ゆえに積極的な研修・教育について、業務上の必要性があるものとして判断されることが一般的といえます。ここが専門職として中途採用した労働者とは、決定的に相違する点と言えます。

ワンポイントアドバイス
 労働者に対する再教育の必要性が高い場合には、嫌がらせ等の不当な動機・目的が認定されるリスクは相対的に小さいと言えます。もっとも教育を主たる目的とするのであれば、対象者に対しては事前に十分な説明を実施し、納得してもらうことが、教育効果を発現させる上でも有効です。

※本記事は、小笠原六川国際総合法律事務所・著「第3版 判例から読み解く 職場のハラスメント実務対応Q&A」(清文社、2020年)の内容を転載したものです。

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