新型コロナによる業績不振で内定取消しを行う際の留意点
人事労務 当社は今年、新入社員の採用活動を行い、学生に採用内定の通知を行いました。しかし、新型コロナウイルス感染拡大や外出自粛などに伴い当社の業績は著しく悪化しており、学生に対する内定を取り消すことを検討しています。
このような業績不振を理由とする内定の取消しができるのはどのような場合であり、その際にはどのようなことに留意する必要があるでしょうか。
内定は、「始期付解約権留保付の労働契約」であり、内定の取消しは、使用者による一方的な解約として、解雇にあたると解されています。そのため、内定取消しは「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇」(労働契約法16条)である場合には、解雇権の濫用として無効となります。
また、内定者に対して、業績が回復するまでの間において自宅待機を命じる場合であっても、「使用者の責に帰すべき事由による休業」(労働基準法26条)であると認められれば、平均賃金の60%以上を休業手当として支払う必要があります。
解説
はじめに
昨今の新型コロナウイルス感染拡大、政府による緊急事態宣言、休業要請等の影響により、各業界においては売上の減少等の業績不振が生じており、採用活動を行い内定を通知していたとしても、やむを得ず内定を取り消すことを検討している企業が存在しています。
本稿では、このように業績不振からやむを得ず内定の取消しを行う際の留意点について解説します。
内定とは
「内定」とは法律上において定義されている言葉ではありません。最高裁の判例(大日本印刷事件、最高裁昭和54年7月20日判決・民集33巻5号582頁)によれば、内定は「始期付解約権留保付の労働契約」と解されています。ここで、「始期付」とされているのは、内定対象者が就労を開始するのが、大学等の卒業後であるためです。また、「解約権留保付」とされているのは、学生が大学等を卒業できなかったなどの場合の解約権を企業が留保しているためです。そして、「労働契約」であるとされているのは、大学生等は特定企業との間において採用内定の関係に入れば、他企業への就職の機会と可能性を放棄するのが通例であるため、採用内定者の地位は、就労の有無という違いはあっても、一定の試用期間を付して雇用関係に入った試用期間中の地位と基本的に異なることはないと考えられるからです。
このように内定が労働契約の締結としての意味を持ち、企業と内定者との間において労働契約が成立していると考えられている以上は、会社の業績不振等の企業側の事情により一方的に内定を取り消す場合には、後述する整理解雇の4要素を満たさなければ「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇」となり、解雇権の濫用として無効となります。
なお、採用内定通知書や誓約書等において、内定の取消事由が記載されていたとしても、このような取消事由は「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」(前掲判例)とされていることに注意が必要です。また、使用者が恣意的な内定取消しをした場合には、債務不履行(誠実義務違反)または不法行為(期待権侵害)に基づく内定者からの損害賠償請求が認められる可能性もあります。
整理解雇に必要な要素
使用者が、不況や経営不振などの理由により解雇せざるを得ない場合に人員削減のために行う解雇を整理解雇といいます。これは使用者側の事情による解雇ですから、次の事項に照らして有効性が厳しく判断されます。
整理解雇の有効性判断の4要素
① 人員削減の必要性 |
人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること |
② 解雇回避の努力 | 配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと |
③ 人選の合理性 | 整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること |
④ 解雇手続の妥当性 | 労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと |
近時の裁判例では、上記4項目を「要件」(1つでも欠ければ解雇が無効)として扱うのではなく、整理解雇が解雇権の濫用となるかどうかの総合的判断に際しての判断「要素」として扱うものが多く、また、①の要素は緩やかに判断される傾向がある一方、②、③の要素は特に厳格に審査されているようです(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務』(青林書院、2017)261頁)。
内定者への配慮について
政府も、各種経済団体に対して、新型コロナウイルスの影響による内定の取消しを可及的に防止するための経営努力および取消しがなされた場合の就職先確保への努力を要請しています。
内閣官房から2020年3月13日に「新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえた2020年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動及び2019年度卒業・修了予定等の内定者への特段の配慮に関する要請について」という文書が出ています。
当該文書においては、次の2点が要請されています。
- 採用内定の取消しを防止するため、最大限の経営努力を行うなどあらゆる手段を講じること
- やむを得ない事情により採用内定の取消し又は入職時期の繰り下げを行う場合には、対象者の就職先の確保について最大限の努力を行うとともに、対象者からの補償等の要求には誠意を持って対応すること
また、「青少年の雇用機会の確保及び職場への定着に関して事業主、特定地方公共団体、職業紹介事業者等その他の関係者が適切に対処するための指針」(平成27年厚生労働省告示406号)において次のとおり規定されており、内定取消しに対して配慮をすることを求めています。
事業主は、採用内定者について労働契約が成立したと認められる場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない採用内定の取消しは無効とされることについて十分に留意し、採用内定の取消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講ずること。
また、やむを得ない事情により採用内定の取消し又は入職時期の繰下げを行う場合には、当該取消しの対象となった学校等の新規卒業予定者の就職先の確保について最大限の努力を行うとともに、当該取消し又は繰下げの対象となった者からの補償等の要求には誠意を持って対応すること。
自宅待機命令について
企業が内定者に対して、業績が回復するまでの間、自宅待機を命じることも考えられますが、このような自宅待機命令は、企業の責任で労働者を休業させるものであると認められれば、休業手当の支払が必要となります。
労働基準法26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」ことを定めています。
そのため、新型コロナウイルスによる内定者に対する自宅待機命令が、使用者の責めに帰すべき事由によるものであると認められる場合には、休業手当を支払わなければなりません。
たとえば、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合や、労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させたような場合には、使用者の責に帰すべき事由による休業とされるものと考えられます。
おわりに
内定の取消しを行う際には、整理解雇の4要素や上記の要請文書および指針を参考にして、慎重に検討する必要があります。仮に内定の取消しをすることになったとしても、内定者からの納得を得るために、企業からの真摯な説明が必要であり、内定者の就職先確保や金銭的な補償等についても十分な配慮をする必要があるといえます。

小笠原六川国際総合法律事務所