ベンチャー投資におけるDrag-Along Right(ドラッグ・アロング・ライト)とは

ベンチャー

 ベンチャー投資契約に含まれるDrag-Along Right(ドラッグ・アロング・ライト)とは、どのような権利でしょうか。また、ドラッグ・アロング・ライトについては、どういった点が交渉のポイントとなるのでしょうか。

 Drag-Along Right(ドラッグ・アロング・ライト)とは、一定の範囲の株主がベンチャー投資のエグジットとして行われるベンチャー企業の売却に賛成する場合に、これに賛成しない株主に対しても自己の有する株式の売却などを強制することを可能にする権利です。
 ドラッグ・アロング・ライトについては、その発動要件、発動される場合の対価、発動時期などが重要な交渉のポイントとなります。

解説

目次

  1. Drag-Along Right(ドラッグ・アロング・ライト)とは
  2. ドラッグ・アロング・ライトが必要になる理由
  3. ドラッグ・アロング・ライトに関する規定の交渉のポイント
    1. ドラッグ・アロング・ライトの発動要件
    2. ドラッグ・アロング・ライトが発動される場合の対価
    3. ドラッグ・アロング・ライトが発動される時期
  4. その他の留意点

Drag-Along Right(ドラッグ・アロング・ライト)とは

 ベンチャー投資のExit(エグジット)方法には、大きく分けて、①株式の上場と②投資対象であるベンチャー企業の第三者への売却(以下では、株式譲渡を想定します)の2つが考えられます。
 Drag-Along Right(以下、「ドラッグ・アロング・ライト」といいます)は、このうち②投資対象であるベンチャー企業の第三者への売却を実行する際に、一定の範囲の株主が当該売却に賛成する場合には、これに賛成しない株主に対しても、自己の有する株式を当該第三者へ売却するよう強制できる権利です。

 仮にある株主が売却に反対している場合であっても、売却に賛成する一定の範囲の株主が反対する株主をDrag Alongする(無理やりに連れて行く)ことを可能にすることから、このような権利は、ドラッグ・アロング・ライトと呼ばれています。また、このような機能に照らして、日本語訳としては、強制売却権や同時売却請求権などの文言が用いられています。

ドラッグ・アロング・ライトが必要になる理由

 ベンチャー企業を買収する第三者は、すべての株式の取得を想定していることが多いですが、ある程度の数の株式を取得した後に、残存する少数株主を何らかの方法によって締め出すのではなく、そのような手続を行う負担等を避ける理由から、そもそも、買収時点においてすべての株式の取得を希望することが一般的です。
 しかしながら、仮に株式の譲渡を全株主の自由な意思決定に委ねるとすると、投資家株主(以下では、経営者株主ではない、純投資または事業上のシナジーを目的としてベンチャー企業に投資している株主を指すものとします)のうちの少数株主や経営者株主が株式譲渡の対価や時期に満足しないなどの理由により、株式譲渡に応じず、結果として、当該ベンチャー企業を買収する第三者が希望する形での買収が不可能になる可能性があります。

 そこで、このような事態の発生を防ぐために、一定の範囲の株主(下記3-1のとおり、通常は、過半数または3分の2以上の優先株主)が売却に賛成する場合には、これに賛成しない株主に対しても自己の有する株式の売却を強制することを可能にする仕組みが必要になるのです。  

ドラッグ・アロング・ライトに関する規定の交渉のポイント

 ドラッグ・アロング・ライトについては、主として①発動要件、②対価、③発動時期が重要な交渉のポイントとなります。

ドラッグ・アロング・ライトの発動要件

 ドラッグ・アロング・ライトの発動要件の最も基本的な形は、優先株主(通常は、投資家株主が該当します)の過半数または3分の2の賛成を要するという要件です。これについては、将来的な会社の売却によるエグジットを見据える投資家株主の立場からすると、自らの持分割合を含めた優先株主の株主構成等を踏まえて、優先株主のどの程度の割合の賛成を得られることが可能かをあらかじめ検討して、賛成を要する優先株主の割合を決定する必要があります。

 もっとも、このような発動要件だけでは、経営者株主の立場からすると、今後の会社のあり方に関する自らの意向にかかわらず会社の売却を余儀なくされることになります。そのため、経営者株主からは、上記のような優先株主の一定割合の賛成のほかに、取締役会の承認と普通株主(通常は、経営者株主が該当します)の過半数の賛成を発動要件として加えることなどの要望が出されることがあります 1。投資家株主の立場からすると、取締役会や普通株主の構成等を検討したうえで、このような提案を受け入れることが可能かを決定する必要があります。

 さらに、経営者株主からは、自らが主体となってドラッグ・アロング・ライトを発動できる旨の規定を求められることがあります。このような場合、投資家株主としては、自らの想定しているエグジットの計画と両立可能なものであるかという観点から、当該条項そのものを受け入れられるかを検討するとともに、受け入れる場合であっても、下記3-2のように、売却の対価の下限を設けるよう求めていくことになります。

ドラッグ・アロング・ライトが発動される場合の対価

 ドラッグ・アロング・ライトが発動される場合の対価に関しては、対価の種類や下限が交渉のポイントとなります。
 まず、対価の種類については、ドラッグ・アロング・ライトを発動する側の立場からすると、対価の種類を限定せず、様々なスキームによるベンチャー企業の売却を可能とする余地を残したいと思われます。その一方で、売却を強制される株主の立場からすると、換価が困難な株式等が対価となることを避けるため、現金のみを対価とする旨の限定を加えることを希望することが考えられます。
 また、対価の金額についても、売却を強制される株主の側から、対価の下限を定めるよう求めることが想定され、この点も交渉のポイントのひとつになります。

ドラッグ・アロング・ライトが発動される時期

 多くの場合、経営者株主は、ベンチャー企業の上場(IPO)を目標として会社の経営を行っており、その目標に向けた途中の段階で会社の売却を余儀なくされる事態を避けようとします。そのため、特に、投資家株主によってドラッグ・アロング・ライトが発動される場合に備えて、一定期間の経過後(通常は、上場の目標時期として合意された時点の経過後)でなければ、ドラッグ・アロング・ライトを発動できない旨の修正を経営者株主から求められることがあります。

その他の留意点

 ドラッグ・アロング・ライトに関する重要な交渉のポイントは、上記のとおりですが、ベンチャー投資契約に含まれる他の条項(具体的には、株式の譲渡に関する先買権などの条項や、対価の分配に関するみなし清算条項など)との関連にも注意しながら交渉を行う必要があります。


  1. NVCA(National Venture Capital Association)が公表しているVoting Agreementのモデル(ダウンロード)の第3.1条においても、優先株主の一定割合の賛成に加えて、取締役会の承認と普通株主の過半数の賛成が選択的な条項案として提示されています。 ↩︎

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