コロナウイルス感染症の拡大に伴い、中国の裁判所から公表された契約の停止と中断に関する見解

国際取引・海外進出
周 加萍 隼あすか法律事務所 中国弁護士

 新型コロナウイルス感染症の問題が、中国で行われる取引の契約解釈へ与える影響について、上海の裁判所から、見解が公表されたと聞きました。内容につき、教えてください。

 上海高級裁判所は、新型コロナウイルス感染症の拡大について、どのように法律を適用すべきかに関する考え方をQ&A方式で公表し、本稿執筆時点(2020年3月)までに民事訴訟手続や契約法解釈に関する考え方を示しています。
 契約法に関しては、不可抗力免責や契約解除の可能性などについて説明しており、そこからは、契約の経緯や類型、目的などを理解のうえ、個別具体的な事実関係に基づいて検討する姿勢が読み取れます。

解説

目次

  1. 中国法上の契約解除原因、免責事由
  2. 上海高級裁判所による法適用に関するQ&A
  3. 不可効力や契約目的達成不能など、契約法上の問題に関する考え方
    1. 新型コロナウイルスの事象は、不可抗力にあたる
    2. 不可抗力事由の開始時期や終了時期は、政府による対応宣告を基準に判断する
    3. ただちに不可抗力免責を主張できるわけではなく、債務者の義務への影響を見る必要がある
    4. 建物賃貸借での賃料減免は、建物の正常な使用が可能かどうかをみて判断する
    5. 感染防止措置は、建築施工を遅延させるものであるが、ただちに建築工事全体についての免責は認められない
    6. 旅行契約については解除可能だが、払戻しは主張できない
    7. 商店、ホテル、船、飛行機等の経営を請負う契約では、感染防止措置を理由に契約の変更を要求できる可能性がある
    8. 芝居・演芸などの上演、コンサート、スポーツ大会等の中止の場合、イベント主催者は責任を負わないが、消費者は、チケット代の払戻しを請求できる
  4. まとめ

中国法上の契約解除原因、免責事由

 中国は、新型コロナウイルス感染症を重大な公衆衛生事件に認定し、平時に比べて政府機関の運営も滞る状況が続いています。民間企業にも影響が出ており、事実上、商取引が停止・中断している会社も生じています。
 このような状況で契約上の義務を履行できないことについて責任を問われるかどうかは、中国の契約法上では、不可抗力免責(同法117条)の適用を受けられるかどうかによって変わってきます。
 また、不可抗力による契約目的達成不能は契約の解除原因とされているので(契約法94条1号)、取引の停止・中断が続く状況をとらえ、契約を解約する余地もあります。

上海高級裁判所による法適用に関するQ&A

 上海高級裁判所は、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大に関して、どのように法律を適用すべきかに関する考え方をQ&A方式で情報提供しています(以下、「Q&A」)。「上海高級裁判所による新型コロナウイルスに係わる法律適用問題のシリーズ回答」と題して、本稿執筆時点までにシリーズ回答1および回答2が発行されており、民事訴訟手続への影響や契約法解釈の問題について示されています。
 契約法以外の問題に関する部分も含め、Q&Aの原文については、以下のリンクからご確認いただけます。

不可効力や契約目的達成不能など、契約法上の問題に関する考え方

 上海高級裁判所がQ&Aで示している内容で、不可抗力免責や契約の目的達成不能など、契約法上の問題に関連するものを、以下、ご紹介・解説します。

新型コロナウイルスの事象は、不可抗力にあたる

 契約法117条では、免責事由としての不可抗力を予見可能性・回避可能性・克服可能性のない客観的事由と説明しています。上海高級裁判所は、新型コロナウイルスによる感染症を重大な突発的公衆衛生事件と認定したことや政府による統括管理措置の採用について、これらの要件を満たし、不可抗力にあたるとしています。そこで、契約の履行遅滞や不能がそれらを原因とするものであれば、影響の程度に応じて、契約上の責任を免除されます。

不可抗力事由の開始時期や終了時期は、政府による対応宣告を基準に判断する

 契約法117条では、不可抗力事由が生じたとしても、それが履行遅滞発生後のことであれば、その責任は免責されないとしています。このように債務不履行の免責があるかどうかは、不可抗力事由との発生時期の先後関係によって異なってきます。

 Q&Aでは、今回の新型コロナウイルスの感染症の事象については、中国政府が感染症について対応宣告を開始または終了した時点を基準に不可抗力事由の発生と終了を確認するとしており、また、各地域の政府によって対応宣告の時期が異なり得ることから、契約履行地または当事者所在地の政府による対応宣告を基準とすべきとの考えを示しています。

ただちに不可抗力免責を主張できるわけではなく、債務者の義務への影響を見る必要がある

 Q&Aでは、新型コロナウイルス感染拡大防止期間中に履行遅滞等が生じた場合、不可抗力免責が働くかどうかは、具体的状況に照らして債務者の義務への影響を判断する必要があるとしています。
 そのうえで、金銭債務については、金融市場の営業停止等の特段の事情がある場合を除き、新型コロナウイルス感染拡大防止措置をもって一般的に免責を主張することはできないとしています。これに対して、非金銭債務については、売主の商品引渡義務を例に、新型コロナウイルス感染拡大防止措置による業務停止、隔離措置、国家徴用等が原因で正常な履行が出来なければ、不可抗力免責を主張できるとしています。これは、日本の民法419条が金銭債務について不可抗力免責を認めないように、金銭債務か非金銭債務では取り扱いが異なることを指摘するものといえるでしょう。

建物賃貸借での賃料減免は、建物の正常な使用が可能かどうかをみて判断する

 Q&Aでは、新型コロナウイルスの感染防止措置の影響で建物を正常に使用できない場合や賃借人がウイルスに感染し入院治療や隔離措置等で建物を使用できない場合は、賃借人は賃料の減免を主張できるのに対し、建物の使用には影響がなく、来客の減少等を言うのみであれば、家賃の減免を主張することができないと整理しています。これは、建物賃貸借契約において、感染防止措置の賃料支払義務への影響をどのように判断すべきかを示したもので、不可抗力免責の理論の適用の一例として参考になります。

感染防止措置は、建築施工を遅延させるものであるが、ただちに建築工事全体についての免責は認められない

 新型コロナウイルスの感染拡大防止措置により建築工事が中止し、またはその再開が遅延した場合、Q&Aでは、注文者に対して中断や再開遅延の証明を速やかに提出すべきとしています。これは、感染拡大防止措置が不可抗力事由にあたることから、契約法118条に基づき、債務者側に相手方に対する不可抗力事由の通知や証明を求めるものだと理解できます。
 また、Q&Aは、感染拡大防止措置によって竣工期限の徒過については免責されるものの、工事全体を取消された等の場合でない限り、施工全体について免責されるものではないとしています。この回答は、建築施工契約の例で、感染拡大防止措置の債務者の履行への影響をどのように評価するべきかを示すものと捉えればよいでしょう。

旅行契約については解除可能だが、払戻しは主張できない

 Q&Aでは、コロナウイルス感染拡大防止のために計画していた旅行の実施をできなくなった場合、基本的には、不可抗力による契約の解除を主張することができるとしつつ、ビザ申請費や海外施設の予約費用等の現に支出した実費等の負担については、当事者間で相互に誠実に協議して解決すべきとしています。

 まず、前段部分については、契約解除の法的構成を明示していないものの、企画旅行の催行を内容とする契約において旅行そのものが中止になれば契約目的達成不能であることは間違いないでしょうから、不可効力による契約目的達成不能の場合にあたることを前提に法定解除を認めたものと推測できます。そして、後段のビザ申請費等の実費については、旅行契約の対象とする本質的な債務とは関わらない周辺費用であることを前提に(例、旅行者が独自に観光施設のチケットを予約した場合の予約費用)、その補償等をするかどうかはもっぱら当事者間の話合いに委ねられることを明らかにしたものと考えられます。Q&Aは、前提条件や費用の取扱いについての理論構成を明示していませんが、事実関係によって説明が変わってくるため、一般論を示すにとどめたものと推測されます。

商店、ホテル、船、飛行機等の経営を請負う契約では、感染防止措置を理由に契約の変更を要求できる可能性がある

 Q&Aは、商店、ホテル、船、飛行機等の運営が本質的に営利を目的とするものであることから、新型コロナウイルス感染防止措置で休業または顕著な顧客減少を生じた場合、原則的には当事者間で協議して解決すべきであるとしています。もっとも、請負人側が明らかに一般的な事業上のリスクを上回るリスクを負担することになるなどの状況では、契約の継続履行が明らかに不公平であることを理由に、対応する期間の請負費用の減免、または状況に応じた契約の変更を要求することができるものとしています。

 前提条件や理論構成は明らかにされていないものの、少なくとも当事者間の公平を損なうような事情の変更があった場合に契約の変更を認めるべきという価値判断を示しているといえるでしょう。また、請負費用がどのようなものを指しているかも不明であるものの、想定している状況の下では、契約どおりの履行を認めるべきでなく、実質的に契約目的が達成不能の状態に等しいとの評価が可能であることを示唆しているものと思われます。

芝居・演芸などの上演、コンサート、スポーツ大会等の中止の場合、イベント主催者は責任を負わないが、消費者は、チケット代の払戻しを請求できる

 Q&Aでは、これらのイベントが一般大衆の集まるものであることを理由に、新型コロナウイルス感染症の発生は、契約の履行にとっての不可抗力を構成し、双方は解約による違約責任を負わないとしています。ただし、チケット購入者は主催者側に払い戻しを請求できるものとしています
 こちらは、一般大衆が集まるという性質上、感染症の発生はイベントの開催を不可能にする直接的な事由であると評価し、それらイベントの契約については、不可抗力免責、および契約目的達成不能であることを理由とした解除を認めるものだといえるでしょう。チケット代金の払い戻し請求について、Q&Aでは法律構成は明らかにされていないものの、こちらも日本法であれば、イベントを開催できないことの危険を主催者側が負担することになるのと同様の価値判断を採用していると理解すればよいでしょう。

まとめ

 Q&Aでは、不可抗力免責その他の法律問題について、契約の経緯や類型、目的などを理解のうえ、個別具体的な事実関係に基づいて検討する必要性があることを示しています。自社の取引・契約についての対応を考えるにあたっても、そのような視点を持って臨むことが大事であるといえます。

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