中国・新型コロナウイルス感染拡大と現地日系企業の法的対応(2)- 賃金の支払い
国際取引・海外進出春節休暇期間が延長され、さらに、地方により営業の再開期間が延長されました。この期間の労働者に対する賃金の支払処理、また、医学観察を受けて勤務できない労働者に対する賃金の支払処理を教えてください。
春節休暇期間の延長に関する賃金の支払い、営業の再開期間延長に関する賃金の支払い、さらに、医学観察を受けているなどの原因により通常勤務ができない労働者に対する賃金の支払いに関する法律規定は少なくとも40個以上あり、以下において、詳しく説明します。
解説
目次
感染が拡大する新型コロナウィルスに対する中国の法的対応や、現地法人の労働者等が「濃厚接触者」に該当性するか否かの判断基準、「濃厚接触者」であると判断された場合にどのような対処を受けるのかなどについては、『中国・新型コロナウイルス感染拡大と現地日系企業の法的対応(1)− 濃厚接触者への対応等』をご参照ください。
新型コロナウイルスの感染拡大による営業再開の延期により、契約を履行することができなった場合に、不可抗力による免責を主張できるか否かについては、『中国・新型コロナウイルス感染拡大と現地日系企業の法的対応(3)− 不可抗力』をご参照ください。
春節休暇期間延長に伴う賃金支払い等の問題に対して、どのように対応すべきか
中国国務院弁公庁は1月26日に「春節休暇の延長に関する通知」を公布し、春節休暇期間(1月24日(金)から1月30日(木)まで)が、2月2日(日)まで延長されました。 一方で、中国各地方では個別に規定を公布し、以下のような特定業界を除き、営業の再開はさらに延長されています。
- 都市運営に必要な水道、電気、ガス、電力および通信等の業界
- 新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために必要な医療機器、医薬品、防護用品の生産、運輸および販売等の業界
- 市民生活に必要なスーパーマーケット、食品生産および物流配送等の業界
- その他国民生活に重大な影響を与える企業
また、広東省、陝西省、貴州省、河南省、山東省、江西省、福建省、内モンゴル自治区、江蘇省、浙江省、雲南省、広西壮族自治区、湖南省、安徽省、吉林省、遼寧省、黒龍江省、河北省、北京市、上海市、重慶市は、さらに、2月3日(月)から2月9日(日)に営業再開を延期しました。湖北省は、特殊な事情により、2月3日(月)から2月13日(木)まで営業再開を延期しました。
以上のような春節休暇の延長期間、営業再開の延長期間は、法定休日(祝日など)もしくは休日(土曜日、日曜日等)に該当するか否かで労働者に支払うべき賃金の額が変わってくるため、問題となります。北京市 1、四川省 2、広東省 3 等の地域では、明確な規定があり、1月31日から2月2日までの春節休暇の延長は、法定休日ではなく、休日にあたるとされています。
この間、正当な理由で労働者に勤務させた場合、後日、代休を取得させる必要があり、代休の取得ができない場合、労働者に対し通常賃金の2倍を労働者に対し支払う必要があるとされています。
また、2月3日から2月9日の期間につき、上海市の規定では、法定休暇日ではなく休日にあたるとしたうえで、賃金の取り扱いについて上記の春節休暇期間延長の取り扱いと同じとしています。河南省 4、江西省 5、貴州省 6 等の地域では、労働契約に基づき、営業再開の延長期間においては通常の賃金を支払うことになっています。
隔離治療期間中の新型コロナウイルス感染者への賃金の支払い等について、どのように対応すべきか
地域の規定によりますが、北京市 7、天津市 8、広東省 9、青海省 10、山東省 11、江西省 12、福建省 13 の場合、賃金の全額を支払うことになります。四川省 14 および河南省 15 の場合は、病気休暇の基準に基づく賃金の支払いとなります。
感染疑いのある労働者、濃厚接触者、隔離治療期間中または医学観察期間中の労働者、政府による隔離措置またはその他の緊急措置により通常勤務できない労働者に対して、どのように賃金を支払えばよいか
一般的に通常の賃金を支払うべきとされています 16。
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北京市人力資源および社会保障局「疫病状況予防・抑制期間における北京市人力資源および社会保障関連措置の実施に関する通知」(2020年1月31日公布) ↩︎
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四川省人力資源および社会保障庁「新型コロナウイルス肺炎疫病状況予防・抑制期間における労使関係問題処理に関する通知」(2020年1月28日公布) ↩︎
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広東省人力資源および社会保障庁「春節休暇延長期間および営業再開の延長期間に関する賃金の支払に関する回答」(2020年1月30日公布) ↩︎
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河南省人力資源および社会保障庁「疫病状況予防・抑制における人力資源および社会保障関連措置の実施に関する通知」(2020年1月26日公布) ↩︎
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江西省人力資源および社会保障庁「新型コロナウイルス肺炎疫病状況予防・抑制期間における労使関係問題処理に関するガイドライン」(2020年1月31日公布) ↩︎
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貴州省人力資源および社会保障庁「新型コロナウイルス肺炎疫病状況予防・抑制期間における労使関係問題処理に関する通知」(2020年2月1日公布) ↩︎
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北京市人力資源および社会保障局「疫病状況予防・抑制期間における北京市人力資源および社会保障関連措置の実施に関する通知」(2020年1月31日公布) ↩︎
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天津市人力資源および社会保障局「新型コロナウイルス肺炎疫病状況予防・抑制期間における労使関係問題処理に関する通知」(2020年1月25日公布) ↩︎
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広東省人力資源および社会保障庁「春節休暇延長期間および営業再開の延長期間に関する賃金の支払に関する回答」(2020年1月30日公布) ↩︎
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青海省人力資源および社会保障庁「新型コロナウイルス肺炎疫病状況の積極対応および労使関係問題処理に関する通知」(2020年1月27日公布) ↩︎
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山東省人力資源および社会保障庁「新型コロナウイルス肺炎疫病状況の積極対応および労使関係問題処理に関する通知」(2020年1月27日公布) ↩︎
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江西省人力資源および社会保障庁「新型コロナウイルス肺炎疫病状況予防・抑制期間における労使関係問題処理に関するガイドライン」(2020年1月31日公布) ↩︎
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福建省人力資源および社会保障庁、福建省財政庁、福建省衛生健康委員会「新型コロナウイルス肺炎疫病状況予防・抑制における労働保障の実施に関する通知」(2020年1月29日公布) ↩︎
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河南省人力資源および社会保障庁「疫病状況予防・抑制における人力資源および社会保障関連措置の実施に関する通知」(2020年1月26日公布) ↩︎
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河南省人力資源および社会保障庁「疫病状況予防・抑制における人力資源および社会保障関連措置の実施に関する通知」(2020年1月26日公布) ↩︎
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人力資源および社会保障部「新型コロナウイルス肺炎疫病状況予防・抑制期間における労使関係問題処理に関する通知」(2020年1月24日公布)の1条によれば、新型コロナウイルスによる肺炎感染者、感染の疑いのある者、濃厚接触者がその隔離治療期間中または医学観察期間中にあるか、政府による隔離措置またはその他の緊急措置により通常勤務できない労働者に対して同期間における賃金を支払わなければならないとされています。
しかし、以上の通知では、使用者が労働者に対し支払うべき賃金額が明確でないため、多くの地方政府は、地方規定を公布し、同期間につき通常の賃金額を支払うべきと明確に定めています。たとえば、以下の地方規定が公布されています。
【北京市】 【天津市】 【広東省】 【青海省】 【貴州省】 【山東省】 ↩︎

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