中国・新型コロナウイルス感染拡大と現地日系企業の法的対応(3)- 不可抗力
国際取引・海外進出新型コロナウイルスの感染拡大による営業再開の延期により、契約を履行することができなくなりました。不可抗力を主張できるか教えてください。
不可抗力を援用し、契約不履行を免責できる場合とできない場合があります。以下の解説で詳しく説明します。
解説
目次
感染が拡大する新型コロナウィルスに対する中国の法的対応や、現地法人の労働者等が「濃厚接触者」に該当性するか否かの判断基準、「濃厚接触者」であると判断された場合にどのような対処を受けるのかなどについては、『中国・新型コロナウイルス感染拡大と現地日系企業の法的対応(1)− 濃厚接触者への対応等』をご参照ください。
春節休暇期間の延長に関する賃金の支払い、営業の再開期間延長に関する賃金の支払い、さらに、医学観察を受けているなどの原因により通常勤務ができない労働者に対する賃金の支払いについては、『中国・新型コロナウイルス感染拡大と現地日系企業の法的対応(2)− 賃金の支払い』をご参照ください。
新型コロナウイルスの感染拡大により、契約の履行ができなくなった場合、不可抗力に該当するか。また、不可抗力によって、契約不履行の責任は免除されるのか
まず、新型コロナウイルスの感染状況が不可抗力に該当するかを検討する必要があります。「中華人民共和国民法総則」180条および「中華人民共和国契約法」(以下、「契約法」という)117条2項の規定によれば、不可抗力とは、予見不能、回避不能かつ克服不能の客観的状況をいいます。一般的に、不可抗力には、地震、洪水のような自然災害、戦争、暴動、テロ行為のような社会異常事件が含まれます。今回の新型コロナウイルスの感染状況は、不可抗力の特徴を有し、不可抗力事態にあたると考えられます。契約法117条1項によれば、不可抗力により契約の履行ができない場合、不可抗力の影響に基づき一部またはすべての責任が免除されるとされています。
しかし、契約関係において、不可抗力を援用し、契約履行できないと主張するためには、不可抗力と契約上の義務履行ができないこととの間に因果関係がなければなりません。また、不可抗力を主張する場合、実務上は以下の点に留意する必要があります。
- 不可抗力を主張し、契約を解除する場合、不可抗力の発生により、契約目的の実現ができないという結果をもたらすことが必要である(契約法94条1項1号)。
- 不可抗力により、契約履行できない場合、遅滞なく相手方に通知し、相手方にもたらす恐れのある損害を軽減しなければならない(契約法118条)。迅速に通知しなかったことにより、本来相手方に軽減できたはずの損害部分は不可抗力を主張できず、免責できない。
- 不可抗力を主張するためには、合理的な期限内に関連性の証明を相手方に提出しなければならない(契約法118条)。
- 契約の遅延履行後に不可抗力が発生した場合、不可抗力による免責はできない(契約法117条1項)。
今回の新型コロナウイルス感染拡大により、履行できない契約の類型は、特に、売買契約、運輸契約、賃貸借契約、労務契約、旅行契約、建設施工契約、大型イベント契約等が想定されます。また、契約不履行による契約解除、損害賠償請求等の紛争が多発し、裁判まで発展するケースは多くなると考えられます。このような裁判の結果をある程度予測するために、SARSの時期における中国国内の同種の裁判例などが参考となります。
特に、2003年6月11日に中国最高裁判所は、「伝染性非典型肺炎の防止治療期間における人民裁判所の裁判および執行に関する通知」を公布し、3条3項において、不可抗力による契約不履行の裁判における取扱い基準を定め、SARSの時期に中国の各裁判所に引用され、判断基準とされていました。しかし、残念ながら、2013年2月26日に、同通知は失効となっています。今後、同様の通知が発行される可能性が高いと考えられます。
以上のように、不可抗力を主張し、契約不履行の責任を免除できるか否かは、非常に複雑な問題であり、事実関係を明確にしたうえで、個別に判断する必要があります。
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、期限までに製品の引渡しができなくなった場合、不可抗力の証明は発行できるか
たとえば、日系企業の中国現地法人が下記のように損害賠償請求を求められた場合、中国において不可抗力の証明は発行できるのでしょうか。
- 当社は日系企業の中国現地法人
- 新型コロナウイルス感染拡大の影響により、契約で定められた期限までに海外の納入先への製品の引渡しができない
- 海外の納入先から不可抗力であることの証明の提出が求められた
- 提出できない場合、契約に基づき損害賠償が請求される
上記のようなケースでは、不可抗力の実態が発生した事実を証明する必要があり、中国の商事証明領域における事実性証明が必要となります。中国国際貿易促進委員会によりこの種の不可抗力の証明の発行ができます。同証明の発行により、不可抗力によって被った当事者の関連契約における契約不履行、遅延履行の責任を部分的またはその全部を免除でき、世界約200の国および地域の政府、税関、商会ならびに企業に認められています
具体的な手続は、中国国際貿易促進委員会のウェブサイトを通じて行うことになります。
また、中国の各地方の貿易促進委員会の連絡先は、こちらのウェブサイトで確認することができます。

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