パキスタンへ進出する際の進出形態に関する留意点
国際取引・海外進出最近、当社の海外における新たな市場を開拓すべく、パキスタンへの進出の可能性を検討することになったのですが、パキスタンの法律はどのような特徴があるのでしょうか。また、企業の進出形態としてはどのような選択肢がありますか。一般的な進出形態についての組織と運営についての留意点も教えてください。
パキスタンの法体系は、英国コモンロー(判例法)を基礎としています。パキスタンでは連邦制が採用されており、連邦政府および州政府のそれぞれに法令制定権限があります。また、イスラーム文化圏であり、シャリア法(イスラーム宗教法)も適用されます。基本法令は英語で法典化されており、日本からでも主要法令はインターネットで確認が可能です。
企業の進出形態は、株式会社(非公開会社)、支店、駐在員事務所およびLLP(limited liability partnership)の各形態がありますが、現状では株式会社(非公開会社)が一般的です。LLPは近年導入されたばかりであり、実務運用はこれからという状況です。
一般的な進出形態である株式会社(非公開会社)は、株主総会と取締役会により運営が行われるという基本的な建付は日本と共通していますが、たとえば、株主総会の特別決議の要件(議決権の4分の3以上の賛成を要する)や、取締役の資格(原則として株主である必要がある)・選任方法(累積投票を定款で排除できない)などの違いがあります。現地の企業と合弁会社を設立する場合など、合弁会社のコントロールを確保するにあたって留意する必要があります。
解説
目次
パキスタン法の特徴について
パキスタンは、1947年の独立まで英領インドに属していたため、法体系としても英国のコモンロー(判例法)を基礎としています。また、連邦制が採用されており、連邦には国民議会、各州にはそれぞれ州議会が置かれています。国民議会のみならず、各州にはそれぞれ法令制定権限があり、かつては連邦と州が重層的に立法できる事項が定められていましたが、現在では連邦と州の立法における管轄は区分されています。
たとえば、銀行、金融、税務、通信、為替管理規制、資本市場といった分野の立法は国民議会の専権です。もっとも、印紙税については州議会によって定められ、州によって規制が異なっています。また、労働に関する事項は州議会によって定められる点には留意が必要です。
パキスタンは、その正式名称がパキスタン・イスラム共和国(Islamic Republic of Pakistan)であり、2億777万人(2017年)の人口のうち96.4%がイスラム教徒であることからシャリア法(イスラーム宗教法)の適用があります。また、法律がイスラームの命令に抵触していないかを判断する権限を持つ、連邦シャリア裁判所も設置されています。
法体系としてはコモンロー(判例法)が採用されているものの、主要な法令は英語で法典化され、インターネットで確認することが可能です。
参考:
企業の進出形態について
外国企業の進出形態としては、①株式会社(非公開会社)、②支店、③駐在員事務所および④LLP(limited liability partnership)が想定されます。
株式会社(非公開会社)
パキスタン法の下、パキスタン法人としての株式会社(非公開会社)を設立して進出する形態であり、同国への外国企業の進出形態としては現状において最も一般的です。設立に要する期間は、すべての提出書類の準備が調っており、当局より特段の異存が出されなければ、おおよそ2~3か月程度です。取締役を最低2名選任し、株主も最低2名置く必要があります。なお、株主については名目的株主を置くことが可能です。
支店
外国企業がパキスタンで支店を開設して進出する形態です。投資庁(Board of Investment)(以下「BOI」といいます)の許可が必要になります。支店は、特定の契約を履行するための活動のみが認められる形態であるため、実務上、航空・海運、銀行、石油、ガス探鉱会社など、プロジェクトベースで期間が定められている場合に限定して利用されます。許可を取得できる期間は1~5年間ですが、当該期間は更新が可能です。
駐在員事務所
外国企業がパキスタンで駐在員事務所を開設して進出する形態です。駐在員事務所の開設にもBOIの許可が必要となり、許可を取得できる期間および更新が可能である点は支店の開設と同様です。また、駐在員事務所は商業活動を行うことが認められておらず、事業調査等の補助的な活動を行うことができるに留まります。
LLP(limited liability partnership)
2017年有限責任事業組合法(LLP法)により導入された進出形態です。2名以上のパートナーを置く必要があるものの、パートナーの有限責任を確保するとともに、株式会社と比してより組織の柔軟性を確保することを意図したものですが、実務運用はこれからという状況です。
以上をまとめると、以下の表のとおりです。
進出形態 | 特徴 |
---|---|
株式会社(非公開会社) |
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支店 |
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駐在員事務所 |
|
LLP (limited liability partnership) |
|
株式会社(非公開会社)の組織と運営について
以下では、一般的な進出形態である株式会社(非公開会社)の重要な意思決定機関である株主総会および取締役会について、日本法と比較して特徴的といえる点について解説を加えます。
株主総会
株主総会においては、普通決議は議決権の過半数の賛成によって成立しますが、定款を変更する際などに必要となる特別決議(special resolution)は議決権の4分の3以上の賛成が必要です。この点、日本では特別決議は議決権の3分の2以上の賛成で成立するのと異なります。
取締役会
(1)取締役の資格
取締役に就任するには、原則として会社の株主である必要があります。もっとも、たとえば会社の従業員であれば、株主でなくとも常勤の取締役に就任することが可能です。また、会社のチーフエグゼクティブであれば、株主でなくとも取締役に就任することができるなど、例外規定も定められています。なお、取締役の資格に居住者要件はありませんので、日本の居住者が取締役となることも可能です。
(2)取締役の選任
取締役は株主による投票により選任されますが、投票の方法として、累積投票が規定されており、定款に別異の定めを置いてこれを排除することはできません。累積投票は、各株主がその保有株式数と選任される取締役の員数の積に等しい数の議決権を有し、その議決権のすべてを1人の候補者に集中的に投票することも、任意に分散して投票することも可能とする制度です。累積投票を行うことで、少数派も持株割合に比例した取締役の席を確保できるため、少数派株主の保護に厚い投票制度が採用されているといえます。

西村あさひ法律事務所

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