海外子会社の不祥事発見!初動の判断力を高めるポイント

国際取引・海外進出

 海外子会社の不祥事の兆候を早期に発見するために、日本の親会社は何をすべきでしょうか。また初動の判断力を高めるためにはどうすればよいでしょうか。

 海外子会社の不祥事の兆候を早期に発見するためには、平時から典型的な不祥事について理解しておくことが重要です。日本の親会社としては、海外子会社に対して不祥事に関する教育を実施し、不祥事の兆候を発見できるようにしておくとともに、海外子会社で発見された不祥事の兆候を吸い上げるシステムを作っておく必要があります。また不祥事が発見された場合、まずは当該不祥事のインパクトレベルを考え、それに応じて調査主体や調査方法を決定することが重要です。

解説

目次

  1. 不祥事の兆候を見抜くシステム作り
    1. 海外子会社に対する不祥事教育
    2. 中国子会社における典型的な不祥事
  2. 情報収集ルートの確保
    1. 管理者ミーティング
    2. 内部監査
    3. 内部通報窓口
  3. 親会社による初動判断
    1. 海外不祥事のインパクトレベルの判断
    2. 調査主体や調査方法の決定
    3. 外部専門家への相談
    4. 早急な再発防止策の実施
  4. おわりに

不祥事の兆候を見抜くシステム作り

 海外子会社のことは、日本から派遣している管理者や、管理能力の高い現地スタッフに完全に任せているという日本の親会社も少なくないと思います。海外子会社の運営を、現地をよく知る海外子会社に任せることは重要ですが、完全に任せきりにしていてチェック機能が全く働いていないということであれば、万が一、海外子会社に不正の温床があった場合にはその発見が遅れ、グループ全体に大きな被害を与える可能性があります。
 したがって、不祥事の早期発見のため、海外子会社に不祥事の兆候があった場合に、それを早期に見抜くことができるシステム作りが重要です。

海外子会社に対する不祥事教育

 まずは海外子会社の管理者、財務担当者およびその他の重要な従業員に対して、典型的な不祥事のパターンを伝えておくことが重要です。典型的な不祥事のパターンを伝えておくことにより、日常の業務の中でそのような不祥事につながりうる兆候を発見しやすくなります。また不祥事を行った者に対する処分を伝えておくことにより抑止効果を働かせるとともに、不祥事の兆候を発見した場合の報告ルートを明確に伝えておくことで、従業員相互による監視監督機能を働かせることができます。

中国子会社における典型的な不祥事

 中国における典型的な不祥事は大きく分けて、①従業員が自己または第三者のために会社の資産を横領する不祥事と、②海外子会社のノルマ達成等のために行われる粉飾決算があげられます。筆者の経験上、売上連動によるボーナス制度を採用している会社においては、上記2つが連動しているものも見受けられました。
 なお中国子会社における不祥事を研究するためには、中国子会社に関する日本の親会社の第三者委員会報告書を読み込んでおくことが有用です。

(1) 横領に関する典型的な不祥事

場面 不正行為 不正の内容
仕入 キックバック 仕入担当者が、仕入先から原材料を購入する代わりにキックバックをもらっている。
親族経営の会社を介した取引 管理者や仕入担当者が、親族が経営する会社を通じて仕入を行うよう手配し、利益を搾取する。
架空取引 実際には存在しない仕入を行ったことにして、架空会社や取引先と共謀して会社から仕入代金を得る。
販売 販売先に対する贈賄 顧客から発注してもらえるよう、販売先に対して贈賄行為を行う。
親族経営の会社を介した取引 管理者や販売担当者が、親族が経営する会社に転売目的で購入させ、利益を搾取する。
その他 偽造領収書による精算 従業員が営業費用の精算に際して、偽造領収書を使用して、会社から金銭を得る。
親族等に対する給料の支払 親族や架空の人物を雇用していないにもかかわらず、雇用していることにして、会社から給与の支払を得る。
スクラップの販売代金の着服 生産会社においてスクラップが生じるような場合、担当者が販売代金を会社に入れずに着服する。
在庫の横流し 正規ルートによらず在庫を横流しして利益を得る。

(2) 粉飾決算に関する典型的な不祥事

 粉飾決算では、売上を過剰計上する場合と、在庫の水増し、評価損の過少計上が典型的な方法になります。
 売上を過剰計上する方法としては、本来であれば計上できない次年度以降の売上を前倒しで計上する方法と、実際には存在しない取引を計上する方法(グループ会社間の循環取引も含まれます)があります。また在庫を水増ししたり、在庫の評価損を会計基準に従って行わなかったりすることにより、実際よりも多くの資産があるように見せかける方法があります。

情報収集ルートの確保

 海外子会社に対する不祥事教育によって、海外子会社の管理者、財務担当者およびその他の従業員が不祥事の兆候を見抜くことができたとしても、特に管理者が不祥事に関与している場合、海外子会社内における自浄効果を望むことは難しいと思われます。そこで、日本の親会社に対して不祥事の兆候を報告するルートを確保しておくことが重要になります。

管理者ミーティング

 多くの日本の親会社は、海外子会社の管理者と定期的にミーティングを開催していると思います。このような管理者ミーティングにおいて、海外子会社からの報告事項の中に、「コンプライアンス」や「不祥事の兆候」という項目を入れておくことが重要です。たとえば海外子会社で発見された仕入担当のキックバックや財務担当の横領等、このルートによれば、海外子会社の管理者が関与していない不祥事であれば、定期的に吸い上げることができます。不祥事のレベルによっては海外子会社に解決を委ねることも多いと思いますが、日本の親会社として、海外子会社の不祥事の兆候とそれに対してどのように対処しているのかは最低限知っておくべきだと思います。

内部監査

 日本の親会社は、定期的に海外子会社の内部監査を実施していることが多いと思います。内部監査で不祥事の兆候を発見するためには、広く関係者からヒアリングを実施するとともに、海外子会社におけるルールや手続が遵守されているかどうかを確認することが重要です。このルートによれば、海外子会社の管理者が関与しているケースであっても、その不祥事の兆候を親会社が知ることができる可能性があります。
 ヒアリングでは、誰が親会社に通報したのかがわからないよう、部門別ではなく担当者別にヒアリングを実施すると効果的です。またせっかく不正防止のためのルールや手続を定めていても、それが守られていなければ天網之漏として不正行為の温床となるため、ルールや手続が適切に遵守されているかどうかの確認が重要となります。

内部通報窓口

 日本の親会社が海外子会社の不祥事を知ることが難しい要因の1つは、海外子会社の従業員が報復を受けることを恐れて不祥事の報告をしないことにあります。特に海外子会社の管理者が関与しているケースでは、海外子会社内部に対する報告は期待できません。そこで日本の親会社または外部の法律事務所に内部通報窓口を設置し、通報者が直接通報しやすいルートを設置することが重要です。このルートによれば、海外子会社の管理者が関与しているケースに関する通報や、内部監査では接触できない従業員からの通報を期待することができます。
 ただし海外子会社の従業員間のいわゆる足の引っ張り合いのため、直接日本の親会社に虚偽の報告をして、ライバルの人事評価を下げる方法として使用されるリスクもありますので、内部通報の内容については十分な調査と証拠に基づいた判断が必要となります。

親会社による初動判断

 日本の親会社が、上記の情報収集ルートを通じて海外不祥事の兆候を得た場合に、どう対応するべきか。具体的な初動対応については、松井衡弁護士による「海外子会社の不正・不祥事リスクへの初動対応」をご覧いただきたいと思いますが、本稿では初動の判断力を高めるため、考慮すべき要素をお伝えします。

海外不祥事のインパクトレベルの判断

 日本の親会社が、海外子会社の海外不祥事の兆候を入手した場合、まず考慮しなければならないのは、当該不祥事によるインパクトがどこまで及びうるのかという点です。兆候が発見されただけですので、事態の全容がわからない場合もあると思います。しかし、その海外不祥事が最悪の場合には、損害やリスクがどこまで及ぶのか、インパクトレベルを判断することが重要です。たとえば海外子会社の社内の評価に影響するだけなのか、あるいは事業継続に関わるのか、日本の親会社のレピュテーションや会計監査にも影響を与えうることなのかといった点を判断します。

調査主体や調査方法の決定

 海外不祥事のインパクトレベルの判断を行ったら、次に考えなければならないのは、調査主体と調査方法についてです。最終的には日本の親会社の株主が納得しうる調査主体や調査方法による必要があります。
 調査主体は大きく分けて、海外子会社か日本の親会社かに分かれます。海外子会社内部のハラスメント行為等は海外子会社が自ら調査すれば足りると思いますが、日本の親会社にまで影響する不祥事や、海外子会社の管理者が関与する不祥事は、日本の親会社が主導する必要があります。また管理者が関与している可能性のある海外不祥事等、社内調査の一環とした調査で株主が納得しないような場合には、第三者委員会を立ち上げて調査を実施する必要があります。

外部専門家への相談

 日本の親会社が不祥事の兆候を入手したにもかかわらず調査を実施せずに放置した場合、日本の親会社の取締役の責任が問われる可能性があります。社内でどう対処すべきかわからないという場合も多いと思いますが、不祥事の兆候を入手した時点で、早期に弁護士等の外部専門家に相談することは初動の判断力を高めるうえで有効です。

早急な再発防止策の実施

 不祥事の兆候が発見された場合で、さらなる被害拡大のために早急に再発防止策を講じる必要に迫られることもあります。この場合、中国子会社は日常の業務や不祥事の調査対応に追われてガバナンスの強化や再発防止策の実施にまで手がまわらない可能性があるため、日本の親会社として、他社の第三者委員会報告書を参考に、自社事業にあてはめてリスク評価と早急な再発防止策の実施を行うことも、現地の中国子会社による初動対応の確度を上げるために有用です。

おわりに

 日本の親会社が海外子会社の不祥事の発見をすることは地理的、文化的、言語的な側面から難しいと思いますが、不祥事の兆候をいち早く発見し、それをうまく吸い上げて親会社が把握できる仕組みを構築しておくことは、海外子会社の健全な管理のために非常に重要です。また不祥事を発見した場合には、適時に適切な初動を行う必要があります。本稿がその初動の判断力を高めるためのヒントになれば幸いです。

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