改正健康増進法で定められた受動喫煙防止の規制概略と施行スケジュール

人事労務
片山 律弁護士 Wealth Management法律事務所

 2020年4月の改正健康増進法の全面施行に対応すべく、当社も受動喫煙防止対策の準備を進めています。同法は段階的に施行されているとのことですが、規制の概略と施行スケジュールについて教えてください。

 改正健康増進法は、以下の3つの基本的考え方に基づき、望まない受動喫煙の防止を図るため、多数の者が利用する施設等の区分に応じ、当該施設等の一定の場所を除き喫煙を禁止するとともに、当該施設等の管理について権原を有する者が講ずべき措置等について定めています。

第1 「望まない受動喫煙」をなくす
第2 受動喫煙による健康影響が大きい子ども、患者等に特に配慮
第3 施設の類型・場所ごとに対策を実施

 同法は、上記基本的な考え方に基づき、まず、「国及び地方公共団体の責務等」として、受動喫煙を防止するための措置を総合的かつ効果的に推進する努力義務等を定めるとともに、「多数の者が利用する施設等における喫煙の禁止等」として、多数の者が利用する施設等の類型に応じ、その利用者に対して、一定の場所以外の場所における喫煙を罰則付きで禁止し、また、屋外や家庭等において喫煙をする際、望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならないとする一般的義務を規定する等しています。

 そして、上記各規定の施行スケジュールは、「国及び地方公共団体の責務等」および一般的配慮義務については2019年1月24日、一部の施設(学校・病院・児童福祉施設等・行政機関)に関する規定については2019年7月1日から施行されており、2020年4月に全面施行されます。

解説

目次

  1. 改正の趣旨
  2. 改正の概要
  3. 施行のスケジュール

改正の趣旨

 望まない受動喫煙の防止を図るため、改正健康増進法では、3つの基本的考え方に基づいて、多数の者が利用する施設等の区分に応じ、当該施設等での喫煙を一定の場所を除いて禁止しています。さらに、当該施設等を管理する権原を有する者が講じなければならない措置等についても定めています。

 改正健康増進法の3つの考え方とは以下のとおりです。

  • 基本的考え方 第1「望まない受動喫煙」をなくす
     受動喫煙が他人に与える健康影響と、喫煙者が一定程度いる現状を踏まえ、屋内において、受動喫煙にさらされることを望まない者がそのような状況に置かれることのないようにすることを基本に、「望まない受動喫煙」をなくす。

  • 基本的考え方 第2「受動喫煙による健康影響が大きい子ども、患者等に特に配慮」
     子どもなど20歳未満の者、患者等は受動喫煙による健康影響が大きいことを考慮し、こうした方々が主たる利用者となる施設や、屋外について、受動喫煙対策を一層徹底する。

  • 基本的考え方 第3「施設の類型・場所ごとに対策を実施」
     「望まない受動喫煙」をなくすという観点から、施設の類型・場所ごとに、主たる利用者の違いや、受動喫煙が他人に与える健康影響の程度に応じ、禁煙措置や喫煙場所の特定を行うとともに、掲示の義務付けなどの対策を講ずる。
     その際、既存の飲食店のうち経営規模が小さい事業者が運営するものについては、事業継続に配慮し、必要な措置を講ずる。
(厚生労働省「健康増進法の一部を改正する法律(平成30年法律第78号) 概要」)

改正の概要

 改正健康増進法は、上記基本的考え方に基づき、「国及び地方公共団体の責務等」および「多数の者が利用する施設等における喫煙の禁止等」として、各規定を設けています。以下、厚生労働省の「健康増進法の一部を改正する法律(平成30年法律第78号) 概要」に沿って解説していきます。

1. 国及び地方公共団体の責務等

(1)国及び地方公共団体は、望まない受動喫煙が生じないよう、受動喫煙を防止するための措置を総合的かつ効果的に推進するよう努める。
(2)国、都道府県、市町村、多数の者が利用する施設等の管理権原者その他の関係者は、望まない受動喫煙が生じないよう、受動喫煙を防止するための措置の総合的かつ効果的な推進を図るため、相互に連携を図りながら協力するよう努める。
(3)国は、受動喫煙の防止に関する施策の策定に必要な調査研究を推進するよう努める。

(厚生労働省「健康増進法の一部を改正する法律(平成30年法律第78号) 概要」)

 同法は、望まない受動喫煙をなくすという基本的考えに基づき、受動喫煙を防止するための措置を総合的かつ効果的に推進する努力義務を国および地方公共団体に課すとともに、その実効性を確保するため、国、都道府県、市町村、多数の者が利用する施設等の管理権原者その他の関係者に協力義務を定めています。努力義務とはいえ、これにより、同義務に違反した場合の責任の所在が明らかにされたと言えます。

 また、受動喫煙による健康影響は、必ずしも急性影響には限られず、がんや呼吸器疾患など慢性的疾患の場合は数十年単位でタイムラグが生じることが知られており、日々新たな知見を収集していかなければ効果的な防止措置を確保できないことから、国に対して調査研究推進の努力義務も課しています。同法は、加熱式タバコも規制対象としていますので、加熱式タバコを含む新型タバコによる健康影響についても対象になると思われます。これにより、国は、新型タバコも含めて、新たな被害が発生した後になって、新たな知見を知らなかったと抗弁することが困難になると思われます。

2. 多数の者が利用する施設等における喫煙の禁止等
(1)多数の者が利用する施設等の類型に応じ、その利用者に対して、一定の場所以外の場所における喫煙を禁止する。
(2)都道府県知事(保健所設置市区にあっては、市長又は区長。以下同じ。)は、(1)に違反している者に対して、喫煙の中止等を命ずることができる。

3. 原則屋内禁煙と喫煙場所を設ける場合のルール 原則屋内禁煙と喫煙場所を設ける場合のルール 出典:厚生労働省ウェブサイト

(3)旅館・ホテルの客室等、人の居住の用に供する場所は、(1)の適用除外とする。
(4)喫煙をすることができる室には20歳未満の者を立ち入らせてはならないものとする。
(5)屋外や家庭等において喫煙をする際、望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならないものとする。

 同法は、受動喫煙の防止を実現するために、施設の類型に応じて、受動喫煙が生じる蓋然性の高い施設を原則禁煙とするとともに、その実効性を確保するために都道府県知事に違反者への中止命令等の権限を認めています
 また、プライベートな空間については例外とする一方で、屋外や家庭においても望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況への配慮義務を定めています。同義務違反は、罰則の対象ではありませんが、不法行為等の注意義務を構成する可能性があることから近年問題となっている住宅における受動喫煙問題において機能する可能性があります。

 さらに、望む望まないにかかわらず、子供を受動喫煙被害から守るため、施設管理者に対し、喫煙可能な場所に20歳未満の者を立ち入らさせないようにする義務を課しています。これにより、既存特定飲食提供施設に該当したとしても20歳未満の者を雇用している店舗などは禁煙にする必要が生じます。また、20歳未満の者が清掃等のために喫煙場所に立ち入ることも禁止されます

3. 施設等の管理権原者等の責務等
(1)施設等の管理権原者等は、喫煙が禁止された場所に喫煙器具・設備(灰皿等)を設置してはならないものとする。
(2)都道府県知事は、施設等の管理権原者等が(1)に違反しているとき等は、勧告、命令等を行うことができる。

 同法は、施設の類型に応じた禁煙措置の実効性を確保するため、施設などの管理権原者等に喫煙を誘発するような喫煙器具や設備を設置しない義務およびこれに対する都道府県知事の監督権限を規定しています。これにより、たとえば喫煙のためではなく、「喫煙禁止場所に入る際にタバコを捨てるため」という名目での灰皿の設置なども認められなくなります。

4. その他
(1)改正後の健康増進法の規定に違反した者について、所要の罰則規定を設ける。
(2)この法律の施行の際現に業務に従事する者を使用する者は、当該業務従事者の望まない受動喫煙を防止するため、適切な措置をとるよう努めるものとする。
(3)法律の施行後5年を経過した場合において、改正後の規定の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

 今回の改正の最も重要な点は、違反者への罰則規定が設けられたことです。これにより、受動喫煙防止措置の実効性が確保されることが期待されます。
 また、職場の受動喫煙については、すでに労働安全衛生法により防止措置が規定されていますが、改めて従業員に対する受動喫煙防止措置についての努力義務を課しています
 さらに、施行後5年経過時点で、改正法による受動喫煙被害防止の具体的な状況に応じて必要な措置を講じるものとして、法律の空洞化を防止しています。

施行のスケジュール

 改正健康増進法の各規定の施行スケジュールは以下のとおりとなっています。以下の施行スケジュールは、同法が、ラグビーワールドカップおよび東京オリンピック・パラリンピックを控えて、世界保健機関(WHO)や国際オリンピック委員会(IOC)からの「タバコフリーオリンピック」の強い要請を受けて成立したという背景から、ラグビーワールドカップ前の2019年7月1日に一部の施設について施行とされ、東京オリンピック・パラリンピック前の2020年4月には全面施行となります。

改正健康増進法の施行期日について

改正健康増進法の施行期日について

出典:厚生労働省ウェブサイト

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