マタハラを防止するための事前対策

人事労務
小笠原 耕司弁護士 小笠原六川国際総合法律事務所

 マタハラの事前対策として会社は何をすればいいのでしょうか。

 男女雇用機会均等法および育児介護休業法の改正によって、事業主は職場における上司や同僚による従業員へのマタハラ防止義務が新たに課されることになりました。そこで、このような義務に基づいた社内の体制の整備を行う必要があります。

解説

目次

  1. 事前対策の必要性
  2. 具体的な措置
    1. 事業主の方針の明確化およびその周知・啓発
    2. 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備(窓口の設置等)
    3. 職場におけるマタハラにかかる事後の迅速かつ適切な対応
    4. 職場におけるマタハラの原因、要因の解消(研修、アンケート等)
    5. 休業取得のための体制の整備

事前対策の必要性

 男女雇用機会均等法および育児介護休業法の改正により、事業主はマタハラを防止する措置をとることが義務付けられています(改正男女雇用機会均等法11条の2第1項・改正育児介護休業法25条)。また、マタハラが行われることで会社や役員までも損害賠償責任を負い、ひいては会社の信用が毀損しかねません。そこで、会社としてはマタハラが発生しないための事前対策を講じることが最も重要となります。事前対策を積極的に行うことは、マタハラを未然に防ぐだけでなく、万一会社が従業員から安全配慮義務違反について損害賠償請求訴訟を提起されたとしても、事前対策を適切に講じてきたという事実が安全配慮義務を尽くしていたことを基礎づけ、会社に有利な事情として働きます。
 防止措置の対象となる具体的な範囲や内容については、厚生労働省がマタハラに関する指針を出しています。

具体的な措置

事業主の方針の明確化およびその周知・啓発

 事業主としては、まずマタハラの内容およびマタハラがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発することが必要となります。たとえば、就業規則等において、いかなる行為がマタハラに該当するか定義し、加害者については懲戒処分などにより厳正に対処する旨の方針を明記するなど、懲戒規定を定めるとよいでしょう。さらに、そのような方針について社内報や会社のホームページ等に記載することによって周知・啓発することが推奨されます。

相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備(窓口の設置等)

 マタハラの被害者が相談できる窓口を設置し、従業員に対して窓口となる部署または担当者を周知することが推奨されます。相談を実施するにあたっては、プライバシーに配慮した相談スペースの確保、相談しやすい時間、社内の産業保健スタッフや産業医等のようにマタハラの相談に適切に対応できる者を選定することが重要です。
 相談を促すためにも従業員が職場におけるマタハラに関し相談をしたことまたは事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を就業規則等に定め、従業員に周知・啓発することも併せて重要になってきます。

職場におけるマタハラにかかる事後の迅速かつ適切な対応

 また、相談を受けた場合、その内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と人事部門や社内に設置したマタハラ防止委員会等とが連携を図ることができる仕組みを構築することも重要です。もっとも事案によっては社内だけで問題を抱え込まず、都道府県労働局雇用均等室や法律専門家など外部に援助・助言等を求めることが推奨されます。

職場におけるマタハラの原因、要因の解消(研修、アンケート等)

 他にも定期的に研修教育を行ったり、社員アンケートやセルフチェックを実施することでマタハラの早期発見・解決・再発防止につながります。

休業取得のための体制の整備

  1. 休業取得前
     対象となる従業員が安心して産休や育休を取得できるように、休業取得者や他の従業員に配慮した体制づくりもまた、事前対策として効果的です。従業員の妊娠・出産・育児等の保護に関する制度を周知し、積極的に制度の利用を奨励するとよいでしょう(育児介護休業法21条)。
     休業を取得することによって休業取得者が従前に担当していた業務について、休業中も停滞しないように、休業に入る前に休業取得予定者の業務の棚卸しを行い、業務の必要性や重要性に即して適切な者へ引継ぎを行うとよいでしょう。また、業務の引継ぎによって他の従業員の業務負荷が重くなることが予想されますので、休業取得に対する理解を促す措置を日頃から講じておく必要があります。休業取得者が窓口となっていた取引先に対しては、会社として育休等の取得を奨励していることを説明すること等も推奨されます。

  2. 休業取得中
     休業期間中は、当該労働者の代替要員として有期労働契約者を雇用したり他部署からの代替従業員の移動によって対応することが必要になります。その際も、特定の従業員のみが業務負担の増加によって不利益を受けないよう、業務については適切に配分することが望ましいでしょう。休業取得者に対しても、たとえば、休業中にも会社から定期的に情報を提供することで、スキルや知識を維持したり、休業取得中でも可能なeラーニング等の提供をすることで自己啓発の支援をすることが望まれます。

  3. 休業復帰後
     職場復帰後、当該従業員は一定期間職場から離れていたことにより業務に不安を感じます。このような不安を除去するためには、上司との面談によるフォローを行ったり、仕事内容や業務フロー等に変更があった際には現在の業務内容についてのアップデートや、復帰した従業員の作業をサポートするための従業員を任命するといった措置が推奨されます。さらに、仕事と育児の両立のためにジョブシェアリング 1 を採用して、職場復帰した従業員の業務負担の軽減を図ることも望ましいでしょう。
ワンポイントアドバイス
 マタハラ対策においては、育児休業等に対する他の従業員の理解や、休業に向けた業務の適切な分担が重要になります。より具体的な手続・書式については厚生労働省雇用均等・児童家庭局が出している「~円滑な育休取得から職場復帰に向けて~中小企業のための『育休復帰支援プラン』策定マニュアル(改定版)」についても併せてご覧ください。

※本記事は、小笠原六川国際総合法律事務所・著「第2版 判例から読み解く 職場のハラスメント実務対応Q&A」(清文社、2019年)の内容を転載したものです。


  1. ジョブシェアリング:フルタイム勤労者が1 人で担当する職務を2 人以上が一組になって分担し、評価・処遇もセットで受ける働き方。 ↩︎

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