中国合弁会社のコントロールに対する外商投資法(2020年1月1日施行)の影響
国際取引・海外進出当社は中国に中国企業との合弁会社をもっていますが、先般法改正があり、合弁会社の組織について大幅な変更が必要になると聞きました。具体的にどのような法改正があり、今後会社としてどのような対応を採るべきでしょうか。また、合弁会社について今後どのような点に気を付けるべきでしょうか。
中国の合弁会社(中外合弁企業)は、従来は主に中外合弁経営企業法が規律してきましたが、新たに外商投資法が成立し、今後は主に会社法が規律することとなりました。これにより中国合弁会社の最高意思決定機関が董事会から株主会に変更されるなど組織構成等に大きく変更が生じます。
会社は、中国合弁会社の状況に応じて組織構成等の法改正に対応するため、適宜定款変更等を検討する必要があります。
解説
目次
外商投資法の成立とその影響
2019年3月15日、中国の国会である全国人民代表大会において中華人民共和国外商投資法の法案が採択され、2020年1月1日から施行されることとなりました。外商投資法の内容は多岐にわたりますが、外商投資企業(外資が全部または一部出資している中国の会社)を規律している基本法(いわゆる三資企業法)の廃止が1つの目玉となっています。
三資企業法の廃止は、外商投資法の大きなテーマの1つである外資参入前の内国民待遇を体現する改革です。外商投資企業は、従来、三資企業法(外資企業法、中外合弁経営企業法および中外合作経営企業法)という特別な法令で内資企業とは異なる規律をされてきましたが、外商投資法の施行後はこれを廃止して内資企業と同じ会社法にて規律されることとなります(外商投資法31条、42条1項)。
本稿では、中外合弁企業(中国資本と外国資本によって中国で設立された合弁会社)について中外合弁経営企業法の廃止による会社コントロールへの影響を検討します。
なお、外資独資企業、外資合弁企業および外商投資株式会社の組織については、従来から主に会社法が規律しているため、現状では会社コントロールに特に大きな変更は想定されません。
会社コントロールの何が変わるのか
最高意思決定機関が董事会から株主会へ
従来は、中外合弁企業に株主総会にあたる組織はなく董事会(取締役会)が最高意思決定機関でしたが(中外合資経営企業法実施条例30条)、外商投資法の施行後は、新たに株主会(株主総会)を設置することとなり、株主会が最高意思決定機関となります(会社法36条)。
これによる変化は、主として出資比率が会社の意思決定に及ぼす影響力の増大です。
従来、各合弁出資者における董事の任命割合は、出資比率を参考にして決定するとの規定(中外合資経営企業法実施条例31条)はあるものの定款にて一定の柔軟な定めもされてきました。たとえば、出資割合は低いものの技術提供、土地の提供等により貢献が大きい出資者が、比較的多くの董事を派遣するケースなどです。
一方、株主会の議決権は、出資比率によって定まるのが原則であり、定款にて出資比率と異なる議決割合を定めることも認められているものの実務例はそう多くはありません(会社法42条)。
したがって、理論上はいずれのケースでも柔軟な定めができますが、実際上、今後は出資比率と異なる議決割合を定めるハードルは上がるものと思われます。
重要な決議事項が全会一致から2/3以上へ
従来は、中外合弁企業の一定の重要事項は、董事会において出席董事の全会一致事項となっていましたが(中外合資経営企業法実施条例33条)、外商投資法の施行後は、株主会において持分割合2/3以上の決議事項となります(会社法43条2項)。
これによる変化は、会社の基礎的事項へのコントロール確保の難化です。
従来、中外合弁企業の出資者は、全会一致事項については、出資割合がいかに低くとも他の合弁当事者によって自らの同意なく当該事項を決議されない権利(拒否権)が確保されていたと言えます。一方、外商投資法の施行後は、出資比率が1/3未満の出資者が同様の拒否権の確保を望む場合、合弁パートナーとの交渉を通じて別途拒否権を獲得する必要が出てきます。
この観点からは、今後合弁会社に対する出資を考える場合、1/3以上出資するか否かは1つの検討価値のある基準になると言えます。
小括
中外合弁企業に対する規律は、外商投資法の施行により一定の変化がありますが、会社のコントロールという観点からみる場合、中国会社法は会社自治(定款自治)の原則を広く取り入れているため、理論上、同等のコントロールを及ぼす制度を設計することは原則可能です。
それでは外商投資法の施行によって会社コントロールの何が変わるかというと、これまで見てきたとおり、交渉のスタートラインとなる法令の規定が少数持分権者に一層不利になる場合があるため、持分割合が比較的小さい出資者にとって会社のコントロール権確保のための交渉ハードルが上がり得る点です。
なお、中外合弁経営企業法と会社法の組織にかかる条項の異同については、本稿末尾の表をご参照ください。
今後何を検討しなければならないか
外商投資法の成立を受けて法務担当者が検討すべき事項
外商投資法は2020年1月1日から施行されるため、同日以降に新たに中外合弁企業の設立・取得を検討している場合(3−2)や、すでに関連会社として中外合弁企業を有している場合(3−3)、会社法に沿った合弁契約・定款等の整備を進める必要があります。合弁契約・定款の検討ポイントは多岐にわたりますが、以下では会社コントロールの観点からそれぞれのケースを検討します。
2020年1月1日以降に新たに設立・取得する場合
外商投資法の施行後に新たに中外合弁企業の設立・取得を検討している場合、会社コントロールの観点からは以下の点が主要な検討ポイントとなります。
(1)出資比率
出資比率の検討の前提として最初に確認すべき点は外資規制です。以前より緩和されたとはいえ、未だに外資企業の参入が禁止されている業種や、一定の比率の出資までしか認められない業種もあります。
出資比率は意思決定に直結するほか、2−2に記載したとおり重要な決議事項の単独決定権(法定で2/3以上)または拒否権(法定で1/3超)(会社法43条2項)にも関わるため慎重な検討が必要となります。
(2)各種権限事項のコントロール
経営方針の決定、役員の選任・解任、予算・決算の批准など、会社に関わる各種事項のコントロールの程度にはいくつかのレベルがあります。具体的には主として下記のレベルが考えられます。
- 単独決定権(他の合弁当事者に左右されずに単独で決定できる権限)
- 拒否権(自己の同意なく他の合弁当事者のみの判断で決議されない権限)
- 会議体の招集権、会議体の定足数(自己の同意なく他の合弁当事者のみで会議体を開催させない権限)
- 会議体への参加権(董事の派遣など情報把握のための会議体への参加権)
まず中外合弁企業のいかなる事項についてどのレベルのコントロールを及ぼしたいかを検討し、そのうえで株主会、董事会、董事長、総経理等の各権限事項の設定、決議要件、議決権、定足数、役員の指名権等を組み合わせて総合的に目的のコントロールを実現していくことになります。
(3)法定代表者の指名権
中外合弁企業の法定代表者は、特別な授権なくして契約書や法律書類に署名する権限を有しており、会社の法的手続、その他の法律行為においてイニシアチブを取ることができます。一方、中国には各種の両罰規定もあるため法定代表者には一定のリスクも伴います。両者のバランスを考慮して指名権の確保の要否を検討する必要があります。
既存の中外合弁企業について検討すべき事項
すでに関連会社として中外合弁企業を有している場合、2020年1月1日から5年以内に当該中外合弁企業の合弁契約・定款を会社法に沿った形に修正する必要があります(外商投資法42条2項)。具体的には以下の点が検討ポイントとなります。
(1)どの条項を修正するか
外商投資法の施行に伴って修正が必須となる事項としては、株主会の設置(決議事項、決議要件、議決権、定足数等の設定も含む)、それに伴う董事会等の関連規定の修正などが考えられます(検討ポイントは3−2 各種権限事項のコントロール参照)。また、重要な決議事項を引き続き全会一致事項としたい場合(2-2参照)、現在の合弁契約等の規定方法によっては修正が必要となる可能性があります。
さらに、この機会に改めて合弁契約・定款の見直しを行うことも考えられます。特に設立から一定年数経っている中外合弁企業については、現在の合弁当事者の状況に合わせた会社コントロールの強化、将来的な撤退を視野に入れたプットオプション条項などの新設、判明している不備の修正などをこの機に行うのも一案と思われます。
(2)どのタイミングで修正するか
既述のとおり、外商投資法は、2020年1月1日から施行されますが、経過措置として施行後5年間は会社に沿った制度修正が猶予されます(外商投資法42条1項、2項)。したがって、施行をきっかけとして合弁パートナーに修正の提案をするのも一案ですし、何らかの合弁契約等の修正機会があるまでしばし保留する方法も考えられます。特に、合弁契約・定款の実質的な内容を修正する予定がなければ、次回の修正タイミングまで待っても問題ありません。
まとめ
中外合弁企業の組織制度は、外商投資法の成立によって2つの異なる法律の狭間に立たされています。特に組織制度の移行については、たとえば、5年間の移行期間を経過しても会社法に基づく組織制度に変更できない場合のリスクなど定まった解釈のない論点も複数あり、今後、外商投資法の施行までの間に実施弁法等が制定されたり、実務運用が定まってきたりと大きな変化があることが予想されます。
したがって、中外合弁企業に関わりのある会社は、常に立法動向や実務動向のアップデートを行い、また予想外の事態に柔軟に対応するべく想定されるリスクの把握や、移行の検討開始を前倒しで始めておくことが最終的にリスクを減らすことにつながるものと思われます。
中外合弁経営企業法と会社法の組織にかかる条項の異同
中外合弁経営企業法 (2019年12月31日まで) |
会社法 (2020年1月1日以降) |
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最高意思決定機関 | 董事会 | 株主会 |
組織構成 |
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法定代表者 | 董事長 | 董事長、執行董事または総経理 |
株主会 | 株主会の設置:不可 | 株主会の設置:必要的 招集権者: 臨時会議召集提案権:1/10以上の議決権を有する株主、1/3以上の董事、または監事会/監事召集・主催権順位:執行董事/董事長→副董事長→半数以上の董事で選挙した董事→監事会/監事→1/10以上の議決権を有する株主 議決権: 原則は出資比率と一致。但し、定款にて異なる比率を定めることも可 決議事項:会社の基本的事項 決議要件:
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董事会 | 董事会の設置:必要的 招集権者: 臨時会議提案権:1/3以上の董事 召集・主催権順位:董事長→董事長が委託する副董事長またはその他董事 定足数:2/3以上 議決権/董事の任命: 1人1票。董事の派遣割合は出資比率を参考に定める。 決議事項: 会社の一切の重要事項 決議事項:
その他: 董事長/副董事長を置くときは、外国出資者と中国出資者で派遣する権利を分け合う。 |
董事会の設置:任意、董事会不設置の場合は執行董事1名を置く 招集権者:董事長 定足数:定款にて定める 議決権/董事の任命: 1人1票。董事の任命は株主会決議事項。 決議事項:
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総経理 | 総経理の任命:
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総経理の任命: 董事会または執行董事 |
監事会または監事 | <監事会を設置する場合> 監事任命:3名以上 ※1/3以上の従業員代表 <監事会を設置しない場合> 監事任命:1名または2名 |
<監事会を設置する場合> 監事任命:3名以上 ※1/3以上の従業員代表 <監事会を設置しない場合> 監事任命:1名または2名 |
※上表は法律の規定に基づいて記載していますが、中国では地方によって地方性法規があったり、独特の運用があったりすることもあるため、個別案件においては事前に管轄当局に確認する必要があります。
※本文中に記載したとおり、中国会社法は広く会社自治を認めているため、表中の事項によっては定款で変更することも出来ますが、一部変更不可(強行法規定)の事項もありますのでご留意ください。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所