2019年7月に施行されたベトナムにおける新競争法の留意点

国際取引・海外進出
長岡 隼平弁護士 西村あさひ法律事務所

 ベトナムにおける競争法上の留意点を、よくある事例とともに教えてください。

 2019年7月1日に新競争法(法律第23/2018/QH14号)が施行され、それ以前に有効であった旧競争法(法律第27/2004/QH11号)が改正されました。新競争法は、旧競争法の規定を大きく変更する部分もあり、グローバルに事業展開する日系企業にも大きな影響を与える可能性があります。以下では、事例形式で新競争法を解説します。

解説

目次

  1. テリトリー制と再販売価格の拘束
    1. メーカーと代理店との契約事例
    2. テリトリー制(事例 1①)
    3. 再販売価格の拘束(事例 1②)
    4. 罰金による制裁
  2. 外国企業であるメーカーによる販売代理店との契約
  3. M&Aにおける競争庁への届出

テリトリー制と再販売価格の拘束

メーカーと代理店との契約事例

事例 1:メーカーである当社は、ベトナム現地の販売代理店3社との間で代理店契約を締結し、①X代理店にはベトナム北部、Y代理店にはベトナム南部、Z代理店にはベトナム中部を担当させたうえで、それぞれの代理店に対し、担当地域外での当社製品の販売を禁止するとともに、値崩れを防ぐため、②当社製品の代理店による販売価格の指定を行っている。新競争法のもとで、このような契約は有効か。

 いずれの合意も、『著しい競争制限効果を生じさせまたは生じさせるおそれがある』場合には、新競争法に違反すると判断される可能性があります。しかし、現時点では、著しい競争制限効果の有無についての判断基準を定めた政令が未制定であることから、新政令の制定状況・内容、および今後の実務における運用の状況を注視する必要があります。

『著しい競争制限効果を生じさせまたは生じさせるおそれがある』場合には、新競争法に違反すると判断される可能性があります

テリトリー制(事例 1①)

(1)旧競争法における規定

 事例 1①の合意は、「テリトリー制」と呼ばれるものであり、本来ベトナム全土で価格競争を行うべきはずのX・Y・Zの3社が、メーカーから担当地域外での当該製品の販売を禁止されることによって、それぞれの担当地域内での競争がなくなり、当該製品の販売価格を維持しまたは引き上げることを可能にする等という理由から、競争法上問題となります。

 この点、旧競争法は、(i)「消費者市場を分配する合意」について、競争制限的協定の1つとして規定し、合意した当事者の合計市場シェアが30%以上である場合には禁止されるとしていたため、合計市場シェアが30%未満の事業者間の合意には規制が及ばないことが明確でした。また、(ii)「消費者市場を分配する合意」が、メーカー同士または販売代理店同士のような「水平的」な合意だけではなく、事例 1①の合意のような、メーカーと販売代理店との間のような「垂直的」な合意をも含むものであるかについては、文言上、明らかではありませんでした。

(2)新競争法の規定

 2019年7月1日に施行された新競争法は、「消費者市場を分配する合意」について、競争制限的協定の1つとして規定していますが(新競争法11条2項)、上記(i)および(ii)の点をいずれも改正する内容となっています。まず、(ii)について、新競争法は、メーカーと販売代理店との間のような「垂直的」な消費者市場を分配する合意についても、規制の対象となることを明確化しています(新競争法12条4項)。

 また、(i)について、新競争法では、合計市場シェア30%という形式的な基準は撤廃され、「著しい競争制限効果を生じさせまたは生じさせるおそれがあるか」という実質的な基準に変更されています(新競争法12条4項)。

 新競争法では、「競争制限効果」とは、「市場における競争を消滅、減少、歪曲または妨害するような効果」を意味すると定義され(新競争法3条3項)、事例 1①では、川上市場(メーカー間での競争)または川下市場(販売代理店間での競争)のいずれかで著しい競争制限効果を生じさせまたは生じさせるおそれがある場合に、そのような合意が禁止されます。

 著しい競争制限効果の有無は、各事業者の市場シェアや、当該市場における新規参入障壁の有無等の事情により、当局が判断するとされています(新競争法13条1項)が、具体的な基準は示されておらず、政令による詳細についてのルール化が待たれます(新競争法13条2項および競争庁のウェブサイト等によれば、政府はこの点についての詳細を定めた政令を制定予定とのことです)。

 このように、実質的基準が導入された結果、合計市場シェアが30%以上であることのみを理由に、協定が一律に禁止されることはなくなりましたが、当局の裁量による、事案に応じたケースバイケースの判断が迫られることとなり、予測可能性が低下したと言えます。当局がどのようなケースにおいて競争法違反を認定するかについて、今後の実際の運用状況を注視する必要があります。

再販売価格の拘束(事例 1②)

 次に、事例 1②の合意は、「再販売価格の拘束」と呼ばれるものであり、代理店による当該製品の販売価格が維持または引き上げられることから、競争法上問題となります。新競争法のもとでは、「直接または間接に商品または役務の価格を固定する合意」が競争制限的協定の1つとして規定されており(新競争法11条1項)、「消費者市場を分配する合意」と同様、垂直的な合意も規制対象とされ(新競争法12条4項)、「著しい競争制限効果を生じさせまたは生じさせるおそれ」がある場合にそのような合意が禁止されると規定されます。

 著しい競争制限効果の有無について政令による詳細についてのルール化が待たれる点、および、当局がどのようなケースにおいて競争法違反を認定するかについて今後の実際の運用状況を注視する必要がある点も、上記と同様です。

罰金による制裁

 最後に、禁止される競争制限的協定に参加した事業者には、当該会社の、当該違反行為の直近事業年度の総売上高の10%以下の罰金(ただし、刑法上定められた罰金の最低額よりも低い額)が課されるものとされています(新競争法111条1項)が、この点も、今後制定される政令において、より詳細な規定が設けられる可能性があります(新競争法111条6項)。

 なお、上記①②の類型の競争制限的協定に該当する場合でも、新競争法の定める適用除外規定の要件(新競争法14条)を満たせば、合意は有効であり、罰金も課されません。

外国企業であるメーカーによる販売代理店との契約

事例 2:当社は日本企業であり、ベトナムに子会社を有していないので、事例 1のような合意をベトナムの販売代理店との間で行っていても、問題ないということでよいか。

 メーカー側が外国企業であっても、ベトナムの競争市場に影響を与える場合には、新競争法が適用される可能性があります

 新競争法は、適用対象に外国の組織および個人を加えるとともに(新競争法2条3項)、ベトナムの市場に影響を与えまたは与える可能性のある競争制限行為および経済集中を規定するとしています(競争法1条)。このことから、ベトナム国内で行われる行為だけではなく、たとえば、ベトナム領外で外国企業同士で行われたカルテルであるがベトナム市場も合意の対象に含まれているケースのように、ベトナムの領外にて行われた競争制限行為や経済集中であっても、ベトナムの市場に影響を与える場合には、新競争法の規制対象になり得ると考えられています。

 したがって、事例 1のケースで、仮にメーカー側が外国企業であっても、ベトナムの市場(たとえば、販売代理店間でのベトナム国内での競争市場)において著しい競争制限効果を生じさせまたは生じさせるおそれがある場合には、そのような合意は新競争法によって禁止されます。

M&Aにおける競争庁への届出

事例 3:当社は、ベトナムにおける既存事業のさらなる拡大を企図し、ベトナムの同業他社であるT社の全株式を取得する企業買収(M&A)を行うために、売主との交渉を行っているが、当社およびT社の市場シェアはそれほど高くないので、新競争法のもとでの競争庁への届出は不要と考えてよいか。

 旧競争法下では、市場シェアのみが届出の基準でしたが、新競争法下では、国内資産額、国内売上高、取引価額が届出の基準として追加されたため、M&A当事者間の合計市場シェアが低くても、届出が必要になる場合があります。ただし、詳細な届出基準については、政令の制定を待つ必要があります

 吸収合併、新設合併、合弁会社、企業買収等のM&A取引は、「経済集中」行為として、著しい競争制限効果が生じまたは生じるおそれがある場合に禁止されます(新競争法30条)。また、著しい競争制限効果が生じまたは生じるおそれがない場合であっても、一定の場合には、事前に競争庁に届け出て、禁止される経済集中に該当しない旨の回答を得る必要があります。新競争法は、この事前届出の基準について、旧競争法の基準を大幅に変更し、従来の市場シェア基準に加えて、国内資産額国内売上高、および取引価額という基準を定めています。

 ただし、当該4つの基準について、具体的な数値は政令に委ねられており、本稿執筆時点において、未だその確定版は公表・制定されていません。ご参考までに、公表されている最新の政令案によれば、それぞれの基準についての具体的な数値は以下のとおりです。

  • 市場シェア基準(案):経済集中に参加する企業の合計市場シェアが20%以上
  • 国内資産額基準(案):グループ会社を含む総資産額が2兆ベトナムドン(約100億円)以上
  • 国内売上高基準(案):グループ会社を含む総売上高が2兆ベトナムドン(約100億円)以上
  • 取引価額基準(案):取引価額が1兆ベトナムドン(約50億円)以上

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