職場の受動喫煙対策はどのような法令で義務付けられているか
人事労務罰則付きで敷地内禁煙や屋内禁煙などが義務付けられる改正健康増進法の全面施行へ向けて、当社でも受動喫煙対策を検討しています。そもそも受動喫煙を防止する法令にはどのようなものがあるのでしょうか。
職場における受動喫煙に関して、2015年6月1日に施行された改正労働安全衛生法68条の2が、事業者に対する労働者の受動喫煙防止を義務付けています。
健康増進法25条が、多数の者が利用する施設の管理者に対し、受動喫煙防止のために必要な措置を講ずる努力義務を課していましたが、2018年に健康増進法の一部を改正する法律が成立し、罰則付きで学校・病院・行政機関や飲食店等の施設の類型ごとに施設管理権原者に対する禁煙措置等の責務を課すとともに掲示の義務付けなどが規定されました(健康増進法25条ないし25条の12、第9章)。
また、東京都受動喫煙防止条例等、各自治体によっても受動喫煙を防止する上乗せ条例が制定されています。
解説
労働安全衛生法
2015年6月1日に改正労働安全衛生法68条の2が施行されています。同条項は労働者の受動喫煙を防止するため、「事業者は、(中略)当該事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるよう努めるものとする」と事業主に対する努力義務を課しています。
同法の施行を受けて平成27年5月15日付け基安発0515第1号厚生労働省労働基準局安全衛生部長通達「労働安全衛生法の一部を改正する法律に基づく職場の受動喫煙防止対策の実施について」が発せられ、以下の点などについて、詳細かつ具体的に取りまとめられています。
- 経営幹部、管理者および労働者の役割
- 妊婦、未成年等への格別な配慮
- 受動喫煙防止対策の組織的な進め方
- 受動喫煙の防止のための措置
同通達は、事業者に対し、施設・設備の対策として、「当該事業者及び事業場の実情を把握・分析した結果等を踏まえ、実施することが可能な労働者の受動喫煙防止のための措置のうち、最も効果的な措置を講ずるよう努めること」を求め、その具体的な方法として、同通達および同通達別紙において具体的かつ詳細に示されています。
たとえば、労働者の受動喫煙被害を防止するため、屋外喫煙所や喫煙室を建物や就業場所から可能な限り離して設置することや、出入口等からのタバコ煙の流出を防ぐために施設の構造や喫煙室内に向かう気流を確保する方法、喫煙所や喫煙室の排気方法等が紹介され、喫煙所の清掃やメンテナンス中の受動喫煙被害を防ぐための方法なども示されていますので、参考になります。
改正健康増進法
2003年5月1日に施行された健康増進法25条は、学校や病院、官公庁施設、飲食店等の多数の者が利用する施設の管理者に対し、施設利用者に対する受動喫煙防止のための必要な措置を講ずる努力義務を規定していました。
しかし、ラグビーワールドカップおよび東京オリンピック・パラリンピックを控えて、世界保健機関(WHO)や国際オリンピック委員会(IOC)からの「タバコフリーオリンピック」の強い要請を受けて、2018年7月、罰則付きで、施設の類型ごとに、施設管理者に対する受動喫煙防止措置を講ずる義務を課す改正健康増進法(健康増進法の一部を改正する法律)が成立しています。
同法の全面施行は2020年4月1日とされていますが、すでに2019年1月24日には、一般的配慮義務を含む「国及び地方公共団体の責務等」に係る規定(平成31年1月22日付け厚生労働省健発0122第1号)が施行され、同年7月1日からは一部の施設(学校・病院・児童福祉施設等、行政機関)については施行済みとなっています。
各地方自治体における受動喫煙防止条例
神奈川県および兵庫県においては、改正健康増進法成立以前から罰則付きの受動喫煙防止条例が制定されていました。しかし、健康増進法改正における飲食店の扱いなどの後退などを踏まえ、2018年6月には、飲食店の例外規定を面積ではなく従業員の有無で分ける東京都受動喫煙防止条例が成立し、やはり2020年4月1日に全面施行となります。
なお、東京都では、罰則付きではないものの、東京都こどもを受動喫煙から守る条例がすでに2018年4月1日に施行されています。同条例は、罰則付きではないものの、保護者に対する家庭内および家庭外での子どもへの受動喫煙防止義務のほか、喫煙をしようとする者に対する自動車内、公園や学校周辺での子供の受動喫煙防止義務を規定しています。
東京都以外の地方自治体でも、それぞれ受動喫煙防止条例の成立が続いています。自社の所在地の条例についても確認してください。
不法行為における安全配慮義務
上記は施設管理者等を直接規制する、いわゆる「業法」としての側面が強いですが、労働者や施設利用者との間では、これらの規定は事業者や施設管理者に対する「安全配慮義務」の内容を構成あるいは補完する役割を果たすことが想定されます。したがって、不十分な受動喫煙対策により、労働者や施設利用者が健康被害を被った場合には、民事上の損害賠償請求を受けるリスクがあります(労働契約法5条、民法1条2項、415条、709条)。
おわりに
職場における受動喫煙対策についての改正労働安全衛生法が施行済みであり、多数の者が利用する施設における受動喫煙対策についての改正健康増進法や各地自体の条例も一部が施行済みとなっています。2020年には改正健康増進法が全面施行となり、これに時期を合わせて各自治体の上乗せ条例も施行されていきます。また、全面施行前でも民事上の損害賠償請求などのリスクも存在します(労働契約法5条、民法1条2項、415条、709条)。
できるだけ早期に受動喫煙対策を進めることが望ましいと思われます。

Wealth Management法律事務所