民法改正と約款上の不当条項の扱い

取引・契約・債権回収

 今回の民法(債権法)改正により新たに導入された「定型約款」に関する規律のうち、いわゆる不当条項については、どのような規律が設けられたのでしょうか。また、民法の改正前後において、「定型約款」に該当しない約款における不当条項の取扱いに、変更点はありますか。

 改正民法においては、一定の要件を満たせば、契約の相手方が「定型約款」の個別の条項を認識していなくてもこれに拘束されることになりますが(いわゆる「みなし合意」)、いわゆる不当条項は、この「みなし合意」の対象外となります。なお、定型約款に該当しない約款における不当条項について、新たな規律は設けられておらず、従前どおり、公序良俗や信義則等により、拘束力が否定される場合があります。

解説

目次

  1. みなし合意について
    1. みなし合意の要件
    2. 1号合意について
    3. 2号表示について
  2. 不当条項規制について
    1. 不当条項に関する改正民法の規律
    2. どのような条項が「不当条項」に該当するか
  3. 「定型約款」に該当しない約款 [^4] における不当条項

※本記事の凡例は以下のとおりです。
改正民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正後の民法

みなし合意について

みなし合意の要件

 契約の当事者は、契約の個別の条項につき合意をしなければ、これに拘束されない、というのが民法の原則(契約自由の原則)です。しかし、「約款」を用いた取引については、民法の改正前より、当事者の合理的意思等を根拠に、相手方が個別の条項を認識していなくても、約款によることの合意さえあれば、約款の個別の条項に相手方も拘束されるとの判例が出されてきたところです。
 現代社会においては、消費者契約のみならず事業者間の契約においても、契約の大量・簡易な締結の必要性がきわめて高いことから、今回の改正民法においては、上記の判例法理も踏まえ、「定型約款 1」について、以下のいずれか要件を満たせば、契約の相手方が定型約款の個別の条項を認識していなくても、個別の条項に合意したものとみなされる(「みなし合意」)という規律が新設されました(改正民法548条の2第1項)。

  1. 相手方が、定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき(「1号合意」)
    または
  2. 定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき(「2号表示

 以下、みなし合意成立のための2つの要件について概説します。

1号合意について

 1号合意は、定型約款の内容そのものを契約の相手方に提示しなくても成立しますので、定型約款準備者にとっては、定型約款の各条項を1つひとつ説明する手間はおろか、そもそも内容を提示する手間をとる必要もありません。
 このほか、必ずしも書面で合意することまで要求されておらず、口頭やウェブ上の合意でも問題はありません(ただし、後日の紛争を予防するためには、記録に残る形で合意をとっておく方が望ましいといえるでしょう)。また、1号合意には、明示の合意のみならず、黙示の合意も含まれるとされており、当該定型約款の約款名を特定して合意する必要もないと解されています 2
 1号合意の具体的な態様としては、契約の相手方から「◯◯約款が契約の内容となることを承知の上、◯◯契約を申し込みます」という書面をとる場面や、ウェブサイト上にこのような記載が表示され、それをクリックすることで契約を締結する場面などがあげられるでしょう。

2号表示について

 2号表示によるみなし合意は、相手方から「合意」というアクションがなくとも成立しますが、1号合意と異なり、①「あらかじめ」、すなわち契約締結前に表示を行うことが要求されており、かつ、②「相手方」への「表示」が必要で、単に公表しているだけでは足りない点に留意が必要です。たとえば、自社のウェブサイト上で、このサイト経由の契約では、所定の約款が契約内容になる旨を一般的に表示しているだけでは、「相手方に表示」したとはいえません 3
 2号表示の具体的な態様としては、契約の相手方に事前に交付する書面の中に、容易に現認できるような大きさや色彩で「この契約には、当社所定の◯◯約款が適用されます」と明記する方法や、ウェブ上において、定型約款を契約の内容とする旨を記載したページを表示しないと、契約締結画面に進めないように設定をしておく方法などがあげられるでしょう。

不当条項規制について

不当条項に関する改正民法の規律

 改正民法においては、以下の2つの要件の双方を満たす条項(「不当条項」)については、定型約款に関する「みなし合意」の対象とせず、契約内容に組み入れられない旨の規律が設けられています(改正民法548条の2第2項)。

  1. 相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項であって、
    かつ
  2. その定型取引の態様およびその実情ならびに取引上の社会通念に照らして信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの

 いわゆる不当条項に関しては、消費者契約法10条に類似の規定がありますが、改正民法の不当条項規制は、事業者間契約においても適用されるところに特徴があります。

どのような条項が「不当条項」に該当するか

 どのような条項が相手方の権利を制限し、または義務を加重するといえるかは、明文の規定のみならず、確立した判例法理や明文のない基本原則等を適用した場合と比較して判断されることになります。
 また、定型取引の態様や社会通念も考慮要素となりますから、たとえば、相手方の権利を制限する条項が相手方に予測し得たかどうか(いわゆる不意打ち的制限か否か)や、相手方の義務の加重に比して定型約款準備者自らの義務も加重されているかなど、定型取引における当事者の属性や契約の締結過程、定型約款の条項全体をも考察して、当該条項が「不当条項」に該当するか否かが判断される点にも、留意が必要です。

「定型約款」に該当しない約款 4 における不当条項

 今回の民法改正以前から、約款内の不当条項については、判例上、公序良俗や信義則、権利濫用の法理により拘束力が否定され、あるいは、当該条項の規定の趣旨に照らして限定的に解釈されてきました 5
 今回の民法改正において、「定型約款」に該当する約款に関しては、上記2のような明文での不当条項規制が設けられることになりましたが、「定型約款」に該当しない約款については何らの改正もなされていません。
 したがって、この点に関する従前の解釈や判例法理はなお有効ですので、定型約款に該当しない約款を用いて取引する場合には、注意が必要です。  


  1. どのような約款が、改正民法における「定型約款」に該当するかは、「民法改正により新設された定型約款とは」をご参照ください。 ↩︎

  2. 債権法研究会編『詳説改正債権法』(金融財政事情研究会、2017)410頁〔浅田隆執筆〕参照。 ↩︎

  3. 筒井健夫=村松秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』(商事法務、2018)250頁によれば、「ここでの『表示』とは、取引を実際に行おうとする際に、顧客である相手方に対して定型約款を契約の内容とする旨が個別に示されていると評価できるものでなければならない。定型約款準備者のホームページなどにおいて一般的にその旨を公表するだけでは足りず、インターネットを介した取引などであれば契約締結画面までの間に画面上で認識可能な状態に置くことが必要である。」とされています。 ↩︎

  4. 「約款」の概念については、「民法改正により新設された定型約款とは」をご参照ください。 ↩︎

  5. 約款の規定が限定解釈された例として、最高裁昭和62年2月20日判決・民集41巻1号159頁、最高裁平成5年3月30日判決・民集47巻4号3262頁、最高裁平成15年2月28日判決・判時1829号151頁等があります。 ↩︎

この実務Q&Aを見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する