民法改正により新設された定型約款とは

取引・契約・債権回収

 今回の民法(債権法)改正により、新たに導入された「定型約款」とはどのようなものなのでしょうか。また、従前から「約款」や「規約」などの名称で使ってきた契約条項のうち、「定型約款」に該当しないものは、今後どうなるのでしょうか。

 民法(債権法)改正により新設された「定型約款」は、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」と定義されており(改正民法548条の2第1項柱書)、これは、従来の講学上の「約款」概念よりは狭い概念です。従前から「約款」として用いられていたもののうち、新設された「定型約款」に含まれないものについては、現行法同様のいわゆる約款法理により解釈されることとなります。

解説

目次

  1. 定型約款とは
    1. 定型取引とは
    2. 当事者要件について
    3. 画一性・合理性要件について
    4. 「定型約款」の具体例
  2. 「定型約款」に該当するとどのような規律が適用されるのか
    1. はじめに
    2. 定型約款表示義務
  3. 「定型約款」に該当しない「約款」等の取扱い

 ※本記事の凡例は以下のとおりです。
 改正民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正後の民法

定型約款とは

定型取引とは

 定型約款は「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者(「定型約款準備者」)により準備された条項の総体」をいい、この「定型取引」とは、下記の要件を満たすものです(改正民法548条の2第1項柱書)。

  1. 定型約款準備者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって(当事者要件
  2. その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの(画一性・合理性要件

 以下、この2つの要件について概説し、あわせて、どのようなものが「定型約款」に該当するのか、具体例を見ていきたいと思います。

当事者要件について

 当事者要件該当性の有無は、「不特定多数の者」を相手方とする、すなわち、取引の相手方の個性を重視せずに行う取引か否かで判別されると解されています 1
 この「不特定」の意味合いですが、相手方が一定の集団に属するというだけで「特定」と判断されるわけではなく、相手方個人の個性に着目するか否かがポイントとなります。たとえば、独身者を対象とする婚活サービスに関する約款は、独身という契約締結の最低条件を満たしさえすれば、あとは相手方の個性に着目せずに取引を行うものといえますので、なお「不特定」性を満たすこととなります。同じく、相手方が反社会的勢力に該当しないこと、一定の年齢に達していることなど、形式的審査やスクリーニングに過ぎない条件を設定しても、「不特定」性に欠くことはないと解されています 2

 他方で、労働者との雇用契約書のひな形は、雇用契約が相手方の個性に着目して行われる取引である以上、当事者要件を満たさないと解されています 3

 なお、この当事者要件に関し、相手方になる者の範囲には何らの限定もありませんので、相手方が一般の自然人(消費者)である場合のみならず、法人や事業者であっても、当事者要件を満たし得ることになります。

画一性・合理性要件について

 画一性・合理性要件の有無は、多数の相手方に対して同一の内容で契約を締結するのが通常であり、かつ、相手方が交渉を行わず、定型約款準備者が準備した契約条項の総体をそのまま受け入れて契約の締結に至ることが取引通念に照らして、当事者双方にとり合理的であるか否かで判別されると解されています 4

 まず、画一性に関してですが、取引内容の全部が画一的である必要はなく、一部の相手方について多少のカスタマイズがあったとしても、ただちに画一性・合理性要件を満たさなくなるものではありません

 また、合理性の要件は、あくまで「双方」にとって合理的かどうかが重要で、いくら定型約款準備者にとって便宜だからといっても、それだけで合理性が肯定されることはありません

 たとえば、鉄道利用に関する旅客運送約款は、顧客ごとに個別の交渉をしないで済むという面で定型約款準備者たる鉄道事業者にとり合理的であることはもちろんですが、契約交渉や管理のコストを事業者が運賃に転嫁することを回避している面もあり、その意味で約款によることが取引の相手方たる顧客にとっても利益といえますので、双方にとり合理性があると判断されます。

 他方で、たとえば事業者間契約書のひな形については、当事者間の交渉力の差異が大きく、交渉の余地がない例も多いとは思いますが、このような場合、契約内容が画一的であることは相手方にとって何ら合理的なものではありませんので、画一性・合理性要件を欠くこととなります。

「定型約款」の具体例

 以上の議論を踏まえ、「定型約款」該当性の有無につき整理すると、以下のとおりとなります(鎌田薫ほか『重要論点実務民法(債権関係)改正』(商事法務、2019)24頁以下参照)。

契 約 類 型 法制審・
立案担当者解説
議 論 の 概 観 定型約款該当性
鉄道等の旅客運送約款
電気供給約款
保険約款
ECサイトでの購入約款
インターネットサイト利用約款
ライセンス規約(PCソフト)
消費者ローン契約書
インターネットバンキング契約
事業者間契約書ひな形 ×
労働契約書 ×
個別売買契約書 ×
シンジケートローン契約書 ×
銀行取引約定書 個別に交渉して修正され得るとして、国会答弁では該当性否定
住宅ローン契約書 審査が定型化・画一化されていることから定型約款該当性を肯定する見解があり、国会答弁では該当性肯定
賃貸借契約書ひな形 原則として非該当だが、契約内容画一化により、管理コストの賃料への転嫁が回避され、入居者の利益になっているといえる場合には定型約款に該当し得る(国会答弁)
フランチャイズ契約書 契約内容が画一的なのは、当事者の交渉力の差によるものであるため、定型約款に該当しない(国会答弁) ×

「定型約款」に該当するとどのような規律が適用されるのか

はじめに

 一定の条項の総体が「定型約款」に該当する場合には、下記の規律に服することになります。

  1. 組入要件を満たした場合のみなし合意の成立(改正民法548条の2第1項)
  2. 不当・不意打ち条項のみなし合意からの除外(改正民法548条の2第2項)
  3. 定型約款準備者による定型約款表示義務(改正民法548条の3)
  4. 定型約款変更の要件・手続を規定した改正民法548条の4の適用

 このうち、①みなし合意の成立と、②不当・不意打ち条項のみなし合意からの除外、④定型約款の変更に関しては、別稿で解説しますので、ここでは、③定型約款表示義務について、簡単に解説します。

定型約款表示義務

 定型取引を行い、または行おうとする定型約款準備者は、相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法で定型約款の内容を表示しなければなりません(改正民法548条の3第1項)。

 ここにいう「相当な方法」とは、書面や電磁的記録(メールなど)で提供するほか、定型約款がアップされている定型約款準備者のホームページの閲覧を促す方法が考えられますが、たとえばインターネット環境がない相手方に、ホームページの閲覧を求めるだけでは「相当」とはいえないと解されていますので、注意が必要です 5

 この表示義務を怠った場合、定型取引の合意前であれば、定型約款の内容について合意したものとみなす旨の改正民法548条の2第1項の適用を受けられなくなります(改正民法548条の3第2項)。他方、定型取引の合意後に表示義務を怠った場合には、定型約款準備者の債務不履行になりますので、損害賠償請求を受ける可能性等が生じることになります。

「定型約款」に該当しない「約款」等の取扱い

 これまでも、契約の一方当事者が多数の相手方との契約に用いるためにあらかじめ作成し、定式化された契約条項の一群を、講学上「約款」と呼称するなどし、消費者契約のみならず事業者間契約においても、この「約款」を用いた取引は広く行われてきました。たとえば、事業間契約書のひな形は、上述のとおり「定型約款」には該当しませんが、講学上の「約款」に該当する場合はあり得るところです。

 改正法下においても、「定型約款」に該当しない「約款」「規約」「書式」「ひな形」など(以下「規約等」といいます)による取引が否定されたり、当事者間において、規約等が、一律に合意の内容をなすものではないと判断されたりすることはなく、従来の「約款法理」、すなわち、当該規約等の内容を契約内容とする旨の当事者の合理的意思が認められる限り、当該規約等の内容が契約内容となります。

 ただし、規約等による取引について、規約等の準備者の側としては、①当該規約等の内容が契約の内容であるというために、当事者双方の合理的意思を立証する必要がありますし、②規約等には、定型約款の変更要件・手続を明文化した改正民法548条の4の適用がないため、いかなる場合に規約等の変更が相手方を拘束し得るのか曖昧になるというデメリットがあります。他方、相手方としても、規約等の準備者に規約等の明文上の表示義務がなく、当該規約等の表示要求を拒否された場合の規律が不明確になるというデメリットもあります。

 以上のとおり、「定型約款」に該当しない規約等による取引にあたっては、従前どおりの法解釈が適用されますので、「定型約款」に該当する契約条項の総体については改正法に則した準備や見直しをしつつ、該当しない契約条項の総体についても、今回の民法改正の際に行われた議論も踏まえて、適切な見直しや運用の改善をすべきといえます。


  1. 筒井健夫=村松秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』(商事法務、2018)参照 ↩︎

  2. 井上 聡=松尾 博憲編著『practical 金融法務債権法改正』(金融財政事情研究会、2017) ↩︎

  3. 民法(債権関係)部会資料 86-2 ↩︎

  4. 前掲注1筒井=村松 ↩︎

  5. 前掲注1筒井=村松 ↩︎

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