セクハラ加害者の法的責任とは
人事労務セクハラの加害者はどのような法的責任を負いますか。
セクハラ行為の態様によっては、刑事責任を負う場合があり、また、民事上の不法行為責任として、被害者に対して慰謝料などの損害賠償をしなければならない場合があります。
解説
セクハラといっても様々な行為態様がありますが、その程度・内容によって法的責任の内容は異なります。
刑事責任
相手の意に反して無理やり性交渉を行ったり、わいせつ行為に及んだ場合には強姦罪(刑法177条)や強制わいせつ罪(同176条)が成立する可能性があります。また、わいせつなポスターを壁に貼った場合にはわいせつ物陳列罪(同175条)、さらに、意図的に性的な噂を流布したような場合には名誉棄損罪(同230条)、相手を侮辱する発言であれば侮辱罪(同231条)が成立する可能性があります。
民事責任
不法行為責任
セクハラ行為が直ちに民事上責任を生じるわけではありませんが、当該言動が相手の身体的・性的自由、行動の自由、名誉・プライバシーなどの人格的利益を侵害する場合には不法行為を構成することになります(その判断基準については『セクハラの違法性に関する裁判所の判断基準』参照)。不法行為が成立する場合、損害賠償を請求することができますが、損害の算定にあたっては大きく慰謝料、消極損害、積極損害の3つの損害の種類ごとに判断されます。
慰謝料
慰謝料額の算定にあたっては、行為者の地位(代表者・幹部)、行為態様、被害を受けた期間、損害の深刻さ(PTSDなどの精神疾患の有無)、解雇・退職に至ったか否か、会社の事後の対応などが考慮事情となります。
裁判例では、行為態様として性的関係を強要したような場合、行為者の地位が代表者や幹部といった高い地位にある場合、行為期間が長期間に及ぶ場合などが高額になるファクターとなっています。
- 「男いらず」との一回のみの発言がなされた事例において10万円(「松戸市議会議員事件」千葉地判松戸支部平成12年8月10日判時1734号82頁)代表者から性交渉を強要された事例において300万円(東京高判平成24年8月29日)など。
- 加害者からの性的な暴行に対して200万円のほか、違法な事後の対応(①被害者の婦人科の受診を妨げた行為、②加害者と被害者を隔離しなかった行為、③被害者の退職を強要した行為)につき300万円(「航空自衛隊セクハラ事件」札幌地判平成22年7月29日)
積極損害
積極損害とは、当該セクハラ行為によって支出することとなった、いわば実費相当額です。病院にかかった治療費、通院の際の交通費などがこれに当たります。
消極損害
消極損害は、「休業損害」と「過失利益」に分けられます。休業損害とは、セクハラ行為を原因として被害者が会社を休んだことにより得られなくなった利益をいいます。セクハラ行為により会社を退職せざるをえなくなった場合には、失業による逸失利益が損害として認められる可能性があり、その場合、セクハラ行為と退職との間に因果関係が認められる期間は、事案に応じて、おおむね6か月から1年間のようです。
因果関係の存否の判断については会社の事後の対応が重要です。事後の対応が不適切な場合には因果関係が肯定される場合が多いのに対し、適切な場合、例えば、セクハラ防止規定に基づき措置、迅速かつ適切な調査、当事者を引き離す措置、行為者に対する厳正な処分がなされた場合などは因果関係が否定されやすいといえます(否定された例として、「PHSパケット設備工事事務所セクハラ事件」東京地判平成16年5月14日・判タ1185号225頁)。
慰謝料、逸失利益についての上記の解説は、会社が負う損害賠償責任についても同様のことが当てはまります。
※本記事は、小笠原六川国際総合法律事務所・著「第2版 判例から読み解く 職場のハラスメント実務対応Q&A」(清文社、2019年)の内容を転載したものです。

- 参考文献
- 第2版 判例から読み解く 職場のハラスメント実務対応Q&A
- 著者:小笠原六川国際総合法律事務所
- 定価:本体2,400円+税
- 出版社:清文社
- 発売年月:2019年7月

小笠原六川国際総合法律事務所