現在のハラスメント関連法

人事労務
小笠原 耕司弁護士 小笠原六川国際総合法律事務所

 ハラスメントは法令においてどのように規定されているのでしょうか。最新の動向について教えてください。

 平成31年3月8日に第198回通常国会に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」が提出され、令和元年5月29日に可決されました。その結果、パワハラに関して、事業主によるパワハラ防止のための雇用管理上の措置義務等が労働施策総合推進法に明記されることになります。また、セクハラやマタハラについても改正男女雇用機会均等法により防止体制が強化されることになります。

解説

目次

  1. ハラスメントに関するさまざまな法規制
  2. パワハラに関する法規制
  3. セクハラに関する法規制
  4. マタハラ等に関する法規制

ハラスメントに関するさまざまな法規制

 今日、職場で起こるハラスメントについてさまざまな法規制がなされるようになってきています。例えば、セクハラについては男女雇用機会均等法、マタハラについては男女雇用機会均等法や育児介護休業法、パワハラについては労働施策総合推進法、その他のハラスメントに関しては労働契約法や一般法である民法・刑法等が適用されます。
 これらのハラスメントは、例えばパワハラとマタハラ、セクハラとマタハラなど複数のハラスメントに該当することも多く、それぞれのハラスメントの態様に応じて適当な法令が適用されることになります。
 以下、法令において直接の規制対象となっているパワハラ、セクハラ、マタハラに関する法規制を概説します。

パワハラに関する法規制

 パワハラに関して、従前は、労働契約法5条や民法・刑法等に基づき規制がなされてきたものの、事業主にパワハラ防止措置を義務付ける直接の法規制はありませんでした。
 そこで、政府は、職場におけるパワハラ防止に取り組むことを事業主に義務づける「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」を平成31年3月8日に閣議決定、同法案は第198回通常国会に提出され、可決されました。
 同法案のうち改正労働施策推進法では、パワハラを、①(上司と部下などの)職場における優越的な関係を背景に、②業務上必要かつ相当な範囲を超えて、③労働者の就業環境を害することと定義付け(改正労働施策推進法30条の2第1項)、以下のパワハラ対策規定を設けています。

  1. 事業主によるパワハラ防止のための雇用管理上の措置義務(相談体制の整備等)の新設(改正労働施策総合推進法30条の2第1項)
  2. パワハラに起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務の明確化(改正労働施策総合推進法30条の3)
  3. パワハラに関する労使紛争について、都道府県労働局長による紛争解決援助及び紛争調整委員会による調停の対象とするとともに、履行確保のための規定を整備(改正労働施策総合推進法30条の4以下)
  4. 労働者が事業主にパワハラの相談をしたこと等を理由とする事業主による不利益取扱いを禁止(改正労働施策総合推進法30条の2第2項)

 なお、防止義務の適用は大企業で公布日から1年以内(中小企業は3年以内)であり、令和2年4月に開始予定となっています。

セクハラに関する法規制

 セクハラに関しては、男女雇用機会均等法において事業主に対してセクハラ防止措置が義務付けられています(男女雇用機会均等法11条)。
 また、かかる事業者のセクハラ防止措置の内容に関して、厚生労働大臣による指針(平成18年厚生労働省告示第615号)が定められています。これらの指針については、実施することが望ましいとされているものを除き、事業主は必ず実施しなければなりません。
 さらに、令和元年5月29日に第198回通常国会で可決された「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」では、

  1. セクハラに起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務の明確化(改正男女雇用機会均等法11条の2)
  2. 労働者が事業主にセクハラの相談をしたこと等を理由とする事業主による不利益取扱いの禁止(改正男女雇用機会均等法11条2項)
  3. 事業者が、他の事業者から当該事業主の講ずる職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合に、これに応ずるように努める義務(改正男女雇用機会均等法11条3項)

が規定されています。

マタハラ等に関する法規制

 マタハラ等に関する法規制については、男女雇用機会均等法において事業者による妊娠・出産を理由とする不利益取扱いの禁止(男女雇用機会均等法9条3項)が定められ、また、育児・介護休業法において育児休業・介護休業等を理由とする不利益取扱いの禁止が定められています(育児・介護休業法10条、16条)。
 さらに、平成29年からは、妊娠・出産・育児休業等を理由とする不利益取扱いの禁止に加えて、事業者に対して上司・同僚からのマタハラ等の防止措置が義務付けられました(男女雇用機会均等法11条の2、育児・介護休業法25条)。
 また、かかる事業者のマタハラ等防止措置の内容に関して、厚生労働大臣による以下の指針が定められています。

  • 事業主が職場における妊娠、出産に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成28年厚生労働省告示第312号、均等法に基づくもの)
  • 子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針(平成21年厚生労働省告示第509号、育介法に基づくもの)

 これらに加えて、令和元年5月29日に第198回通常国会で可決された「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」では、マタハラ等防止対策の強化がなされています。

  1. マタハラ等に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務の明確化(改正男女雇用機会均等法11の4条)
  2. 労働者が事業主にマタハラ等の相談をしたこと等を理由とする事業主による不利益取扱いの禁止(改正男女雇用機会均等法11の3条2項)

※本記事は、小笠原六川国際総合法律事務所・著「第2版 判例から読み解く 職場のハラスメント実務対応Q&A」(清文社、2019年)の内容を転載したものです。

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