セクハラ加害者の懲戒処分とその相当性
人事労務 更新会社が適切に調査した結果、セクハラ行為の事実確認ができたことから、会社は従業員である加害者に対して懲戒処分を下す場合、どのような点に留意したらよいですか。
従業員である加害者に対して、懲戒処分を科す場合には、就業規則に懲戒事由が規定されていること、懲戒処分が客観的に合理性を有し、社会通念上相当であること、が必要です。
解説
加害者に対する懲戒処分
就業規則の定めが必要
懲戒処分を行うには、懲戒事由および懲戒処分の種類の規定が必要です。
処分の相当性
就業規則に懲戒事由が定めてあったとしても、当該規則に基づいてなされた懲戒処分が有効となるためには、以下のような処分の相当性を満たす必要があります。
- 実体的な相当性
行為態様、被害の程度、加害者の地位、加害者の会社における貢献度、会社のセクハラに対する姿勢からみて、処分が重すぎるものではないことが必要です。 - 手続的な相当性
処分に際して、加害者に対して、処分の理由となる具体的な事実を特定した上で、弁解の機会を付与することが必要とされています。
裁判例
懲戒処分(普通解雇)が有効とされた事例
(「F製薬セクハラ解雇事件」東京地判平成12年8月29日労判794号33頁)
懲戒処分(懲戒解雇)が無効とされた事例
日頃酒席において女性従業員の手を握ったり、女性の胸の大きさを話題にする発言を繰り返していたこと、宴席の場において複数の女性を側に座らせ、品位を欠いた行動を行い、ある女性従業員に対して「犯すぞ」などと発言した支店長の行為が問題となった事例において、いわゆる強制わいせつ的なものとは一線を画する行為態様で、これまでなんらの指導や処分をしていないことから、懲戒解雇という処分は重きに失するとし、客観的合理的理由を欠き、相当性なしとして無効と判断しました。
(「Y社セクハラ事件」東京地判平成21年4月24日労判987号48頁)
判断の分かれ目
上記いずれの事案も、行為態様、加害者の地位などは類似していますが、処分の重さという点で異なります。懲戒解雇という処分は、極刑に相当するものですから、刑罰法規に違反するなど、高度の違法性が要求されているといえます。
違法とまでは評価されない程度の性的言動であっても、会社はセクハラに対して厳しい態度で臨むことを宣言し、就業規則に禁止行為として定め、違反行為には懲戒処分を科すことも可能です。ただし、処分の相当性については注意する必要があります。
※本記事は、小笠原六川国際総合法律事務所・著「第2版 判例から読み解く 職場のハラスメント実務対応Q&A」(清文社、2019年)の内容を転載したものです。

- 参考文献
- 第2版 判例から読み解く 職場のハラスメント実務対応Q&A
- 著者:小笠原六川国際総合法律事務所
- 定価:本体2,400円+税
- 出版社:清文社
- 発売年月:2019年7月

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