セクハラ加害者の懲戒処分とその相当性

人事労務 更新
小笠原 耕司弁護士 小笠原六川国際総合法律事務所

 会社が適切に調査した結果、セクハラ行為の事実確認ができたことから、会社は従業員である加害者に対して懲戒処分を下す場合、どのような点に留意したらよいですか。

 従業員である加害者に対して、懲戒処分を科す場合には、就業規則に懲戒事由が規定されていること、懲戒処分が客観的に合理性を有し、社会通念上相当であること、が必要です。

解説

目次

  1. 加害者に対する懲戒処分
    1. 就業規則の定めが必要
    2. 処分の相当性
  2. 裁判例
    1. 懲戒処分(普通解雇)が有効とされた事例
    2. 懲戒処分(懲戒解雇)が無効とされた事例
    3. 判断の分かれ目

加害者に対する懲戒処分

就業規則の定めが必要

 懲戒処分を行うには、懲戒事由および懲戒処分の種類の規定が必要です。

処分の相当性

 就業規則に懲戒事由が定めてあったとしても、当該規則に基づいてなされた懲戒処分が有効となるためには、以下のような処分の相当性を満たす必要があります。

  1. 実体的な相当性
     行為態様、被害の程度、加害者の地位、加害者の会社における貢献度、会社のセクハラに対する姿勢からみて、処分が重すぎるものではないことが必要です。

  2. 手続的な相当性
     処分に際して、加害者に対して、処分の理由となる具体的な事実を特定した上で、弁解の機会を付与することが必要とされています。

裁判例

懲戒処分(普通解雇)が有効とされた事例

 部下の女性をたびたびデートや食事に誘う、交際を迫る、出張に同伴しようとする、「あなたを抱きたい」などという性的言動を行うといったセクハラ行為に対して、会社は調査の過程で加害者本人に釈明を求めたところ、一部を認めたため、懲戒処分手続をとることにし、懲戒委員会を開催したうえで(弁護士の同席も認めたが本人・弁護士いずれも欠席)普通解雇した事案において、被害を受けた者の多さ、加害者の地位、加害者自身がセクハラ行為をした部下に対する退職勧奨を行った経験があり、自己の言動についての問題について十分認識しえたことなどを理由に相当性を認め、有効としました。
(「F製薬セクハラ解雇事件」東京地判平成12年8月29日労判794号33頁)

懲戒処分(懲戒解雇)が無効とされた事例

 日頃酒席において女性従業員の手を握ったり、女性の胸の大きさを話題にする発言を繰り返していたこと、宴席の場において複数の女性を側に座らせ、品位を欠いた行動を行い、ある女性従業員に対して「犯すぞ」などと発言した支店長の行為が問題となった事例において、いわゆる強制わいせつ的なものとは一線を画する行為態様で、これまでなんらの指導や処分をしていないことから、懲戒解雇という処分は重きに失するとし、客観的合理的理由を欠き、相当性なしとして無効と判断しました。
(「Y社セクハラ事件」東京地判平成21年4月24日労判987号48頁

判断の分かれ目

 上記いずれの事案も、行為態様、加害者の地位などは類似していますが、処分の重さという点で異なります。懲戒解雇という処分は、極刑に相当するものですから、刑罰法規に違反するなど、高度の違法性が要求されているといえます。

ワンポイントアドバイス
 違法とまでは評価されない程度の性的言動であっても、会社はセクハラに対して厳しい態度で臨むことを宣言し、就業規則に禁止行為として定め、違反行為には懲戒処分を科すことも可能です。ただし、処分の相当性については注意する必要があります。

※本記事は、小笠原六川国際総合法律事務所・著「第2版 判例から読み解く 職場のハラスメント実務対応Q&A」(清文社、2019年)の内容を転載したものです。

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