セクハラ問題に対処した後に被害者から損害賠償を請求されたら

人事労務
小笠原 耕司弁護士 小笠原六川国際総合法律事務所

 部長(男性)が、部下で、気になる女性に対しセクハラ行為をしたところ、会社でこれが問題となったため、男性は会社に始末書を提出し、その女性には謝罪文を提出して、その女性は、いったんは謝罪を受け入れ許してくれました。会社では、両者に対し人事異動を行い両者が業務上接点を持たないようにしたり、社内においてセクハラに対する研修を行ったり、相談員の制度を導入するなどの対策を行いました。
 ところが、その女性はその後、セクハラ行為を理由に男性および会社に対し不法行為に基づく損害賠償を請求してきました。このような請求は認められるのでしょうか。

 セクハラに当たる言動は認められるものの、謝罪し被害者もいったんはこれを受け入れ、さらに加害者が会社から相当程度重い処分を受けているといった事情の下では、加害者に不法行為が成立し損害賠償請求が認められる可能性は低いと考えられます。

解説

目次

  1. 問題の背景事情
  2. 関連判例
  3. 論点解説

問題の背景事情

 セクハラの申出に対して会社は誠実に対処しなくてはなりません。
 しかし、その申出に対して加害者や会社が誠実に対処した場合であっても、必ずしも被害者の考えているような内容の処分や結果になるとは限らず、これに不満があるということはありうることです。セクハラを理由として、さらに加害者や会社に責任を追及してくることもあります。
 そこで、セクハラ行為について加害者や会社が対処した後であってもなお不法行為が成立し、損害賠償等が認められるのかについて検討します。

関連判例

判例
(東京地判平成22年4月20日経速2079号26頁)


[認容額]
請求棄却

[事案の概要]

セクハラ事案の概要

Xは、被告会社Y2の外国営業部に勤務しており、被告Y1の部下であった。
XとY1はともに出張をすることが多く、そのためメールのやり取りもしていたところ、Xは出張先のホテルの部屋でY1に横抱きに持ち上げられるなどのセクハラを受けた。
Xは、被告Y2に対してY1による上記セクハラ行為について報告し、Y2がこれを調査したところ、Y1は事実を認めXに対して謝罪文を提出した上、Y2はY1を降格・異動させるなどの処分を行った。しかし、その後Xが当該Y1のセクハラ行為を理由としてY1およびY2に対して不法行為に基づく損害賠償を請求する訴えを提起した。

[裁判所の判断]
「Y1は(Xを)横抱きに持ち上げた後、Xが嫌がるような言葉を発し、または態度を示したために、すぐに下して謝罪をしている。そして、Xは、出張中この言動を問題にした形跡がなく、出張から帰国後の6月23日には、Y1に対し、『出張が充実していた。頼りがいのある上司のおかげで楽しかった』などというメールを送信するなど、仕事の意欲低下とは正反対の態度を示している。このような事実によれば、この言動は、セクハラに当たるが、かなり軽微なものにすぎないというべきである」

「そして、Y1は、ホテルの部屋で原告を横抱きに持ち上げたことについて、Y2宛ての顛末書とX宛ての謝罪文を提出しており、これに対しXは、十分な誠意が伝わってきたと述べて、いったんY1を許している」
「Xが平成20年9月2日に送信したメールによれば、Xは、被告Y2を激しく非難するのに対し、Y1のことを許している(少なくともこれ以上の責任追及をするような気配が感じられない)と認められる」「以上の事実等によれば、Y1には一部セクハラに当たる言動が認められるが、これらはいずれも軽微なものにすぎず、また、Xは、セクハラの言動に関する限り、Y1を宥恕したということができる。このことに、Y1がセクハラの言動に関して相当重い処分を受けていることも考慮すると、Y1に不法行為が成立するというのは相当でない。」

[事案の結果]
被告Y1には、一部セクハラに当たる言動が認められるが、①それは軽微なものにすぎず、②Xはセクハラの言動に関し、Y1を宥恕したといえることに加え、③当該セクハラに関してY1は相当重い処分を受けていることも考慮し、Y1に不法行為は成立しないとした。

論点解説

 上記判例の事案では、当該行為をXが問題にした形跡がないことや、仕事の意欲低下とは正反対の態度を示していたことなどを考慮し、セクハラに当たるが、かなり軽微なものと判断しています。そして、当該セクハラついてXは、いったんはY1を許しており、さらに会社はY1のセクハラ行為に対して降格処分という重い処分を行い、防止策を講じるなどして事後の対応に努めていました。その後、更なるセクハラ行為があったことは認められていません。
 このように、セクハラ行為が認められる場合であっても、①セクハラが軽微なものであること、②被害者が加害者を許し、それ以上の責任追及をしない意思であること(被害者の同意により違法性が阻却されることがあります)、③会社において厳正な処分を行い、今後同様の被害が生じないよう誠実な対応をしたこと、といった事情が不法行為の成立を否定する要素となりうるといえます。

ワンポイントアドバイス
 セクハラ行為が認められる場合であっても、加害者が真摯に反省を示し、セクハラ行為を再発しないような場合であって、会社においても厳正な処分を行ったり、防止策を講じるなど誠実な対応をすることで損害賠償の請求等を受けずに済むことが可能です。ですから、事後の対応をきちんと行うことがさらなる法的トラブルを避けるために非常に重要となります。

※本記事は、小笠原六川国際総合法律事務所・著「第2版 判例から読み解く 職場のハラスメント実務対応Q&A」(清文社、2019年)の内容を転載したものです。

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