セクハラの違法性に関する裁判所の判断基準
人事労務セクハラの被害者が加害者に対して損害賠償請求を裁判で求めた場合、裁判所はどのような基準で、違法性を判断しているのでしょうか。
相手の意に反する性的な言動をしたというだけで当然に違法とされるわけではありません。その行為態様や両者のこれまでの関係などから、総合的に判断して、社会的見地から不相当とされる場合に、人格権を侵害するものとしてはじめて違法と評価されます。
解説
一般的な基準
訴訟においては、「相手の意に反する性的言動」すべてが違法と評価されるわけではありません。
裁判所は、「職場において、男性の上司が部下の女性に対し、その地位を利用して、女性の意に反する性的言動に出た場合、これがすべて違法と評価されるものではなく、その行為の態様、行為者である男性の職務上の地位、年齢、被害女性の年齢、婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、当該言動の行われた場所、その言動の反復・継続性、被害女性の対応等を総合的にみて、それが社会的見地から不相当とされる程度のものである場合には、性的自由ないし性的自己決定等の人格権を侵害するものとして、違法となるというべきである」としています(名古屋高判金沢支部平成8年10月30日)。
結局、一律に明確な基準があるのではなく、個別具体的なケースに応じて、上記の各ファクターから総合的に判断されることになります。
もっとも、これまでの集積された裁判例から、行為態様に応じて、以下のように整理できます。
行為態様による整理
性的関係を強要する行為
暴行・脅迫を伴って相手の身体に接触したり性行為をする場合(強制わいせつ罪、強姦罪に該当します)や、暴行・脅迫を伴う場合ではなくても、自らの地位を利用して性的な関係を強要する行為は、相手の人格権を侵害するものであり、当然に違法と判断されます。
身体的接触を伴う行為
上記 2−1には至らない程度の身体的接触の場合には、行為態様、接触の部位が大きな要素となります。
抱きつく行為、胸・臀部・下腹部への接触行為、また、唇へのキスなどは、原則として、違法性が認められています(東京高判平成9年11月20日判タ1011号195頁、鹿児島地判平成13年11月30日労判836号151頁など)。
性的な発言・態度
この範疇にカテゴリーされる性的な言動の例としては、執拗に交際を迫る行為、性的関係を求める発言、食事やデートに執拗に誘う行為、性的関係の噂の流布、ヌードポスターの貼付などがあります。
これらは、個々の行為自体は違法ではないとしても、被害者が拒絶の意思を表示しているにもかかわらず執拗に及ぶ場合には、違法とされる可能性があります。
対価型
男女雇用機会均等法11条の定義するいわゆる対価型のセクハラ行為は、上記 2−1、2−2、2−3の行為をした結果、相手方による拒絶を受けたために、これを理由に解雇や降格などの不利益処分を課す場合であり、原則として違法と評価されます。
違法性についての裁判所の判断基準
違法と評価された場合であっても、慰謝料の金額には、上記の行為態様や被害の程度などにより金額に差が生じます。
※本記事は、小笠原六川国際総合法律事務所・著「第2版 判例から読み解く 職場のハラスメント実務対応Q&A」(清文社、2019年)の内容を転載したものです。

- 参考文献
- 第2版 判例から読み解く 職場のハラスメント実務対応Q&A
- 著者:小笠原六川国際総合法律事務所
- 定価:本体2,400円+税
- 出版社:清文社
- 発売年月:2019年7月

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