マタハラの責任は会社ひいては役員まで問われるか
人事労務マタハラが起きた場合、誰がどのような法的責任を負うのでしょうか。
- マタハラを行った上司や同僚は被害者に対して民事上の不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を負う可能性があります。また、マタハラの程度や内容によっては刑事責任も負うこともありえます。
- 会社は当該加害者の使用者として使用者責任(同715条)、または労働契約上の安全配慮義務違反として債務不履行責任(同415条)や不法行為責任(同709条)を問われる可能性があります。
- 会社の役員個人も損害賠償責任(会社法429条)を問われる可能性があります。
解説
加害者の責任
マタハラを行った加害者は被害者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負いうることになりますが、全てのマタハラが直ちに不法行為を構成するわけではなく、以下の要件を充足することが前提となります(民法709条)。
- 権利または法律上保護された利益の侵害
- 故意または過失
- 具体的損害の発生
- ①~③の因果関係
また、民法上の責任のみならず、加害者は会社から就業規則違反による懲戒処分を下されることもあります。なお、当該マタハラの態様によっては名誉棄損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条)等の刑事責任を負う可能性がありますが、刑事責任が発生するのは特に悪質なケースに限定されるでしょう。
会社の責任
会社の従業員が行ったマタハラが不法行為を構成する場合、従業員の使用者である会社も使用者責任を負いうることになります(民法715条1項)。事業主は職場におけるマタハラ防止義務(改正男女雇用機会均等法11条の2第1項・改正育児介護休業法25条)を従業員に対して直接に負うわけではありませんが、会社は従業員に対して安全配慮義務を負っていることから、会社のマタハラ防止義務違反が安全配慮義務違反として、債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償責任を問われうることになります。
事業主による不利益取扱いや、上司や同僚による妊娠等を理由とした従業員の就業環境を害するような言動の防止措置を講じないことは違法となりえます。法違反の疑いがある場合、厚生労働大臣は事業主に対してマタハラの事実があったか否かについて報告を求めることができ(男女雇用機会均等法29条等)、求められているにもかかわらず会社が当該報告をせず、または虚偽の報告をした場合には20万円以下の過料が科されることになります(男女雇用機会均等法33条等)。
また、報告の結果、法違反がある場合には厚生労働大臣は当該事業主に対して助言、指導、勧告をすることができます。そして、勧告等がなされたにもかかわらず事業主が当該勧告等に従わなかったときは、会社名が公表されることがあります(男女雇用機会均等法30条)。平成27年には、男女雇用機会均等法上初の事例として、妊娠を理由とした解雇を行った会社の名称が公表されています。
役員の責任
ケースによっては、マタハラによって役員が直接損害賠償責任を問われることもありえます。会社法429条1項は、役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときはこれによって第三者に生じた損害についての賠償責任を規定しており、安全配慮義務を履行する体制の構築義務違反として役員の個人責任を肯定する裁判例もあります(京都地判平成22年5月25日判タ1326号196頁。労働者の生命・健康に配慮し労働時間が長期化しない体制を構築していなかった点につき役員の責任が問われた事案)。
従業員が行ったマタハラについても、会社や役員までも損害賠償責任を負うことになりえます。また、紛争が発展することで会社としては金銭的損害のみならず、レピュテーションの低下というリスクがある点も留意してください。
※本記事は、小笠原六川国際総合法律事務所・著「第2版 判例から読み解く 職場のハラスメント実務対応Q&A」(清文社、2019年)の内容を転載したものです。

- 参考文献
- 第2版 判例から読み解く 職場のハラスメント実務対応Q&A
- 著者:小笠原六川国際総合法律事務所
- 定価:本体2,400円+税
- 出版社:清文社
- 発売年月:2019年7月

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