投資契約書を締結する際に確認しておきたい実行前提条件、表明保証、および誓約事項の関係とは

コーポレート・M&A
貞 嘉徳弁護士 きっかわ法律事務所

 投資候補先の企業から提示された投資契約書をレビューしています。デュー・ディリジェンスの過程で判明した事項を表明保証の内容として記載したところ、実行前提条件や誓約事項に記載すべきでないかという指摘を受けました。実行前提条件、表明保証、および誓約事項は、どのような関係にあるのでしょうか。

 実行前提条件、表明保証、および誓約事項は、それぞれ異なる機能を持っています。これらのうちいずれの規定で対応するのかは、問題となる事項の発生時期や判明時期によって異なります。
 デュー・ディリジェンスの過程で判明した事項は、表明保証の対象から除外されることがあり、その場合、当該事項の是正を実行前提条件として定めることがよくあります。また、一歩進んで、誓約事項に規定することで、当該事項の是正を法的な義務として構成することもあります。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 実行前提条件
  3. 表明保証
  4. 誓約事項
  5. 実行前提条件、表明保証、および誓約事項の関係
    1. 問題となる場面
    2. ①契約締結前に発生した場合
    3. ②契約締結後クロージングまでの間に発生した場合
    4. ③クロージング以降に発生した場合
  6. 設例の場合の実務対応

はじめに

 投資契約書をはじめとするM&Aの契約書においては、取引実行の前提条件、表明保証、および誓約事項の各規定が設けられることが一般的です。これらの規定には、一般的な内容として定型的に規定される事項に加えて、デュー・ディリジェンス(DD)において判明した事案に特有の事項が盛り込まれます。

 実行前提条件、表明保証、および誓約事項は、それぞれ機能が異なっており、たとえば、簿外債務の存在や重要な取引先との間の契約上の債務不履行の存在など同一の事象であっても、それらの発生時期や判明時期によって、どの規定が適用され、投資側の企業がどのような救済を受けられるのかが異なってきます。

実行前提条件

 実行前提条件においては、一定の条件が充足された場合にのみ取引を実行する旨が合意されます。典型的には、表明保証の真実性・正確性のほか、誓約事項の履行や競争法上のクリアランスの取得などが規定されます。
 実行前提条件を定めることによって、契約当事者は、合意した条件が満たされなかった場合に、取引から離脱する権利を有することになります。

表明保証

 表明保証は、契約の一方当事者が他方当事者に対して、一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、保証するものです。
 表明保証の違反があった場合、クロージング前には、先の実行前提条件を通じて取引から離脱する権利が付与されるとともに、クロージング後には、補償の規定を通じて金銭的な救済を受ける権利が規定されることが一般的です。

誓約事項

 誓約事項には、M&Aの取引における付随的な義務が規定されます。クロージング前の誓約事項とクロージング後の誓約事項があり、典型的には、前者の例としては、いわゆるチェンジ・オブ・コントロール条項のある契約について、契約の相手方から当該M&Aを承諾する旨の同意を取得するとする義務が、また、後者の例としては、競業避止義務が挙げられます。
 誓約事項の違反に対しては、クロージング前には、実行前提条件を通じて取引から離脱する権利が付与されるとともに、クロージング後には、補償の規定を通じて金銭的な救済を受ける権利が規定されることが一般的です。

実行前提条件、表明保証、および誓約事項の関係

問題となる場面

 実行前提条件、表明保証、および誓約事項が問題となる場面として、対象となる事項が発生した時期に応じて、
 ①契約締結前に発生した場合
 ②契約締結後クロージングまでの間に発生した場合
 ③クロージング以降に発生した場合
があります。

 また、当該事項が判明した時期に応じて、同じく、
 (A)契約締結前に判明した場合
 (B)契約締結後クロージングまでの間に判明した場合
 (C)クロージング以降に判明した場合
があります。

実行前提条件、表明保証、および誓約事項が問題となる場面

 それぞれの場面における実行前提条件、表明保証、および誓約事項の規定を用いた典型的な取扱いは、以下のように整理できます。

①契約締結前に発生した場合

(A)契約締結前に判明していた事項

 このうち、(A)契約締結前に判明していた事項は、その治癒を誓約事項としたり、実行前提条件としたりする対応が考えられます。一方、このような事項は、表明保証の対象から除外されることが一般的です。

(B)契約締結後クロージングまでの間に判明した事項

 次に、(B)契約締結後クロージングまでの間に判明した事項は、表明保証の違反による救済を求めることが一般的です。クロージング前のため、実行前提条件の規定に基づき、取引から離脱するかどうかの選択を行います。実務的には、取引を解消するのではなく、契約条件を再協議の上、取引を実行することもしばしば行われています。

(C)クロージング以降に判明した事項

 (C)クロージング以降に判明した事項は、(B)と同じく、表明保証の違反による救済を求めることが一般的です。もっとも、(B)と異なり、クロージング後であるため、実行前提条件の規定による取引の離脱はできず、補償の金銭的救済を求めることになります。

②契約締結後クロージングまでの間に発生した場合

 この場合、(B)契約締結後クロージングまでの間に判明した事項と(C)クロージング以降に判明した事項が問題となります。5-2①契約締結前に発生した場合と同様、前者については実行前提条件の規定に基づき取引から離脱するかどうかの選択を行い、また、後者については補償の金銭的救済として規定されることが一般的です。

③クロージング以降に発生した場合

 この場合、(C)クロージング以降に判明した事項が問題となります。クロージング以降に発生した事項は、M&Aの対象企業に本来的に存在していた問題ではなく、クロージング後に新たに生じた問題ですので、クロージング後の誓約事項に違反するような場合以外は、救済を求めることができないことが一般的です。

設例の場合の実務対応

 DDの過程では、多額の潜在債務の発生原因となり得る事項が判明することがあります(たとえば、重要取引における債務不履行や不正行為の存在)。

 一般的に、当該事項を金銭的に評価の上で価格調整をして解決できないことも多く、実務的には、当該事項は表明保証の対象から明示的に除外される一方で、当該事項が解決し、潜在債務が発生しないことが確認できる状態となることが実行前提条件とされる場合があります。一歩進んで、当該事項を解決することを誓約事項として定め、売主の法的義務として構成する場合もあります。

 また、前述の方法のほかにも、当該事項を特別補償の対象として、潜在債務が現実化した場合に補償を求めることができる旨を規定することもあります。

 具体的にどのような規定を設けてどのような対策を講じるかは、対象事項の内容・性質や当事者間の交渉状況により一様ではありませんが、M&Aは高額の取引となることも多いので、思わぬ落とし穴に落ちないよう、契約書の作成にあたっては常に細心の注意を払う必要があります。

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