株式対価M&Aとは、法務・税務面で異なる特例の適用範囲

コーポレート・M&A
安積 健 辻・本郷 税理士法人

 当社では現在、大型の買収案件を検討していますが、買収資金の調達に苦慮しています。聞くところによると、自社株式を対価とする買収ができるようになったとのことですが、もしそれが可能なら資金調達の問題を解消できるかもしれません。株式対価M&Aとはどのような内容でしょうか、ご教示ください。

 平成30年に産業競争力強化法および租税特別措置法が改正され、それまで法務面および税務面で課題とされてきた点が改善され、わが国でも自社株式を対価とする買収が可能となりました。しかし、法務の特例と税務の特例では適用範囲が異なるため、検討にあたっては注意が必要になります。

解説

目次

  1. 改正前の状況と課題
  2. 平成30年改正と留意点
    1. 法務と税務における特例措置適用の違い
    2. 特例措置の適用が異なる具体例
  3. まとめ

 平成31年1月、武田薬品工業がアイルランド製薬大手シャイアーの買収を完了したという報道がありました。この買収は約7兆円規模のもので、このうち約3兆円は現金、残りの4兆円は武田の新株発行で対応したようです。この買収が行われた背景には、以下に説明する株式対価M&Aに関する一連の法整備があります。

改正前の状況と課題

 欧米では、大規模買収の対価として株式が積極的に利用されているようです。これに対し、わが国では、買収の対価はもっぱら金銭であり、株式を対価とするM&Aの活用が進んでおらず、大規模買収が機動的に行えないという問題がありました。
 課題とされたのは、法務面と税務面です。自社株を対価として買収を行うとは、買収会社がターゲットとする対象会社の株式を取得することと引換えに買収会社の株式を対象会社の株主に交付すること、すなわち会社法上の現物出資が行われることを意味します。

 現物出資を行う場合、会社法上、現物出資規制や有利発行規制が問題となります。前者の問題は、原則として裁判所が選任する検査役による調査が必要であるところ、調査期間が法定されていないため、買収の日程を確定できない点(会社法207条)、および対象会社の株式の価額に著しい下落が生じた場合に対象会社の株主および買収会社の取締役等に不足額を填補する責任が生ずる可能性がある点です(会社法212条、213条)。後者は、対象会社の株式の価額に一定のプレミアムを付した交換比率を設定する場合、買収会社において株主総会の特別決議が必要になる可能性がある点です(会社法199条2項、3項、201条1項、309条2項5号)。

 また、対象会社の株主は、対象会社の株式を手放し、代わりに買収会社の株式を取得することになりますが、税務上、対象会社の株式に対する譲渡損益課税が問題となります。しかも、買収の対価が金銭であれば、納税資金を確保することは可能ですが、買収会社の株式が対価となる場合には、納税資金の調達が必要になる可能性がありました。

 このうち、法務については、株式公開買付(TOB)による買収についてだけ産業競争力強化法に特例が設けられていましたが、税務については依然として株主に対する課税の問題があったため利用はされなかったようです。

平成30年改正と留意点

法務と税務における特例措置適用の違い

 このような背景のもと、わが国でも大胆な事業再編を後押しするため、平成30年5月23日に産業競争力強化法および租税特別措置法を改正する法律が公布、同年7月9日に施行されました。改正後の特例措置の適用を受けることにより、法務面では、株式公開買付による買収だけでなく、相対取引による買収についても、現物出資規制や有利発行規制が不適用となるとともに、税務面では、買収に応じた対象会社の株主に対する譲渡損益課税は繰り延べられることになりました(産業競争力強化法32条)。この改正により、わが国においても自社株を対価とする買収が活用されることが期待されています。

 ただし、法務および税務において特例措置の適用を受けるためには、一定の要件を満たすことが必要となります。しかも、法務と税務ではそれぞれ満たすべき要件が異なるため留意が必要です。

 法務に関する特例措置の適用を受けるためには、事業再編または特別事業再編に関する計画を作成し、主務大臣の認定を受けることが必要です(産業競争力強化法23条、25条)。これに対して、税務に関する特例措置の適用を受けるためには、特別事業再編に関する計画を作成し、主務大臣の認定を受けることが必要です(産業競争力強化法25条)。このように法務に比べ税務の方が特例措置の適用を受けられる範囲が限定されています(表1)。

表1 支援措置

支援措置 事業再編計画 特別事業再編計画
会社法 株式を対価とするM&Aの円滑化(拡充) ✔︎ ✔︎
税制 自社株式を対価とした株式取得の円滑化措置(新設) ✔︎

(出典:経済産業省「産業競争力強化法における事業再編計画の認定要件と支援措置について」から一部抜粋)

 また、事業再編計画と特別事業再編計画を比較すると、認定を受けるために満たすべき要件として共通する項目がある半面、特別事業再編計画の方がより厳しい要件を課している項目があったり、事業再編計画にはない要件を満たす必要もあったりと違いがあります(表2)。

表2 再編計画の認定要件

要件 事業再編計画 特別事業再編計画
計画期間 3年以内(大規模な設備投資を行うものに限り5年)
生産性の向上
(事業部門単位)
計画開始から3年以内に次のいずれかの達成が見込まれること。
①修正ROA 2%ポイント向上
②有形固定資産回転率 5%向上
③従業員1人当たり付加価値額 6%向上
計画開始から3年以内に次のいずれかの達成が見込まれること。
①修正ROA 3%ポイント向上
②有形固定資産回転率 10%向上
③従業員1人当たり付加価値額 12%向上
財務の健全性
(企業単位)
計画開始から3年以内に次の両方の達成が見込まれること。
①有利子負債/キャッシュフロー≦10倍
②経常収入>経常支出
雇用への配慮 計画に係る事業所における労働組合等と協議により、十分な話し合いを行うこと、かつ実施に際して雇用の安定等に十分な配慮を行うこと。
事業構造の変更 次のいずれかを行うこと。
①合併、②会社の分割、③株式交換、株式移転、④事業または資産の譲受け、譲渡、⑤出資の受入れ、⑥他の会社の株式・持分の取得、⑦会社の設立、⑧有限責任事業組合に対する出資、⑨施設・設備の相当程度の撤去等
他の会社の株式・持分の取得を行うこと(以下の①~③すべてを満たすことが必要)
①他の会社を関係事業者とすること
②対価として自社の株式のみを交付すること
③対価として交付する株式の価額(対価の額)が余剰資金の額を上回ること
※余剰資金の額=現預金-運転資金-上記以外の買収に要する資金の額
加えて左の①~⑨等を実施することも可能。
前向きな取組 計画開始から3年以内に次のいずれかの達成が見込まれること。
①新商品、新サービスの開発・生産・提供⇒新商品等の売上高比率を全社売上高の1%以上
②商品の新生産方式の導入、設備の能率の向上⇒商品等1単位当たりの製造原価を5%以上削減
③商品の新販売方式の導入、サービスの新提供方式の導入⇒商品等1単位当たりの販売費を5%以上削減
④新原材料・部品・半製品の使用、原材料・部品・半製品の新購入方式の導入⇒商品1単位当たりの製造原価を5%以上削減
新事業活動 次のいずれかにあたる新事業活動を行うこと
①著しい成長発展が見込まれる事業分野における事業活動
②プラットフォームを提供する事業活動
③中核的事業へ経営資源を集中する事業活動
新需要の開拓 計画の終了年度において新たな需要を相当程度開拓することが見込まれること
⇒売上高伸び率≧過去3事業年度の業種売上高伸び率+5%ポイント等
経営資源の
一体的活用
申請事業者と関係事業者となる他の会社がそれぞれ有する知識、技術、技能等を活用することにより、商品又は役務の開発、資材調達、生産、販売、提供等において協力すること

(出典:経済産業省「産業競争力強化法における事業再編計画の認定要件と支援措置について」から一部修正)

特例措置の適用が異なる具体例

 このように法務に関する特例措置の適用が受けられる場合であっても、必ずしも、税務に関する特例措置の適用が受けられるとは限らない点に留意が必要です。
 たとえば、買収対価として自社株と金銭を組み合わせて買収を行う場合、法務に関する特例措置は適用が可能ですが、税務に関する特例措置は、自社株のみを買収対価とする場合に限定されているため、税務に関する特例措置の適用を受けることはできなくなります(産業競争力強化法2条12項1号)。
 また、法務に関する特例措置は、対象会社を子会社化 1 する場合はもちろん、改正により、すでに子会社化している場合に子会社株式を買い増しする場合にも適用が可能ですが、税務に関する特例措置は、対象会社を子会社化する場合に限られます(産業競争力強化法2条12項2号)。

 税務に関する特例措置の適用を受けるためには、上述した通り、買収対価は自社株のみである必要がありますが、さらに買収対価の額が余剰資金の額を上回ることが必要とされます(産業競争力強化法2条12項1号)。余剰資金の額とは、買収会社の現金預金の額から運転資金の額を控除した額とされます。つまり、現金預金を対価として買収が可能である場合には、認定を受けることができません。

まとめ

 平成30年改正により自社株を対価とする買収が今後活用されることが期待されますが、会社法上の特例だけでなく、税務上の特例を享受したい場合には、産業競争力強化法上の特別事業再編に関する計画の認定を受ける必要があることに留意して下さい。


  1. 産業競争力強化法上は関係事業者という概念であり、これは会社法上の子会社と類似するものの、異なる点に注意が必要です。 ↩︎

この実務Q&Aを見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する