M&A契約の表明保証において、買主の主観的事情はどのように影響するか

コーポレート・M&A

 M&A契約の表明保証違反が問題となった裁判例において、売主の表明保証違反を買主が知っていた、または重大な過失によって知らなかった場合、買主は売主に責任を問えるのでしょうか。

 裁判例では、表明保証条項違反について、売主が損害賠償責任を負うための要件として、買主が善意無重過失であることが必要であると示唆するものがあります。この考え方には議論もあるところですが、実務上は、この点も踏まえ、M&A契約において買主の主観的事情が売主の表明保証責任の有無に影響しない旨を定めることや、表明保証違反により買主または対象会社に損害が生じた場合には、買主が売主に対して補償を求めることができる旨の明示的な条項(特別補償条項)を設けるケースもあります。

解説

目次

  1. 売主の表明保証違反に対する買主の主観的態様に関する裁判例
  2. 実務上はどのように対応しているか

売主の表明保証違反に対する買主の主観的態様に関する裁判例

 株式譲渡に関する下記のケースでは、売主の表明保証違反について、買主が悪意または重過失であるかどうかが問題となりました。

東京地裁平成18年1月17日判決 ・判タ1230号206頁(株式譲渡のケース)

東京地裁平成18年1月17日判決・判タ1230号206頁(株式譲渡のケース)

事例の概要
対象会社は、決算期における赤字決算を回避するため、その有する和解債権について、債務者からの弁済金を元本から利息への充当に切り替えたものの、同額の元本についての貸倒引当金の計上をしていなかった。Xは、Yらに対し、上記処理が表明保証違反にあたると主張して損害賠償請求した。これに対し、Yらは、Xがかかる処理について悪意でありまたは重大な過失によってこれを知らなかったのであるから、表明保証責任を負わないと反論した。

 裁判所は、Yらの表明保証違反を認定したうえで、株式譲渡契約締結時において当該違反につきXが悪意であったことをまず否定しました。
 そして、Xの重過失に関しては、以下のとおり判断を示したものの、結論としてXに重過失はないとしました。

「原告(※筆者注:X)が、本件株式譲渡契約締結時において、わずかの注意を払いさえすれば、本件和解債権処理を発見し、被告ら(※筆者注:Yら)が本件表明保証を行った事項に関して違反していることを知り得たにもかかわらず、漫然これに気付かないままに本件株式譲渡契約を締結した場合、すなわち、原告が被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることについて善意であることが原告の重大な過失に基づくと認められる場合には、公平の見地に照らし、悪意の場合と同視し、被告らは本件表明保証責任を免れると解する余地があるというべきである。」

 なお、「M&A契約における表明保証条項の意義と裁判例における文言解釈」2−3(2)で解説した東京地裁平成27年9月2日判決の事例においても、買主の認識に関して裁判所では以下のとおり述べています。

株式譲渡契約における一般的・抽象的な表明保証条項違反について、株式の譲渡人が責任を負うための要件として、譲受人が善意無重過失であることが必要となると解する余地があることは、被告ら(※筆者注:Y)が主張するとおりである。

 このように、買主が売主の表明保証条項違反について悪意または重過失がある場合、売主は表明保証責任を免れ得ることを示唆する裁判例が見られます。

実務上はどのように対応しているか

 買主としては、売主の表明保証違反事実について認識している場合でも、株式譲渡代金に反映せずに、事後に損害が発生した場合に売主に損害賠償請求を行うことを意図するケースもあるかと思います。そのため、上記裁判例で示唆された見解は、当事者の合理的意思に反するとの指摘もあるところです。

 もっとも、実務上は、上記裁判例があることも踏まえ、株式譲渡契約において、①買主の主観的事情が売主の表明保証責任の有無に影響しないことや、②反対に影響を与えることを明確にするケースが多いように見受けられます。そして、②の場合、表明保証違反により買主または対象会社に損害が生じた場合には、買主が売主に対して補償を求めることができる旨の明示的な条項(特別補償条項)を別途設けるケースもあります。

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