就業規則にはどのような内容を規定するのか
人事労務就業規則にはどのような内容の文言を規定すればいいのでしょうか。また、就業規則の作成にあたって注意すべきポイントを教えてください。
就業規則に記載する事項には、必ず明記しなければならない「絶対的必要記載事項」と、会社に定めをおく場合は記載しなければならない「相対的必要記載事項」のほか、就業規則への記載は任意である「任意的記載事項」の3つがあります。特に、絶対的必要記載事項について記載がない場合には、30万円以下の罰金が科されるため注意が必要です。
解説
はじめに
労働基準法は、常時10人以上の労働者(従業員)がいる会社に対し、就業規則の作成と届出を義務づけるとともに、就業規則の記載事項についても一定の定めを置いています。労働基準法によると、就業規則に必ず明記しなければならない事項を「絶対的必要記載事項」といい、会社に定めをおく場合は記載しなければならない事項を「相対的必要記載事項」といいます。また、これらの必要的記載事項の他に、就業規則へ記載するかどうかは会社の任意である「任意的記載事項」もあります。
以下では、具体的な記載事項について見ていきますが、前提として、就業規則は、その会社に関するほとんどのルールを網羅していることを忘れてはいけません。というのも、個々の労働者が、労働条件について会社と協議を行った上で、雇用契約を結ぶことは少なく、就業規則に基づいてパッケージとして示された労働条件に対し、労働者が承諾して雇用契約を締結することが一般的であるためです。
3種類の記載事項
絶対的必要記載事項
就業規則に必ず記載しなければならない事項で、そのうちの一つでも記載がないと30万円以下の罰金という刑事罰が科されます(労働基準法120条1号)。ただし、絶対的必要記載事項が欠けていても、他の要件を備えている限り、就業規則としては有効になります。
- 始業・終業の時刻、休憩時間、休日・休暇、労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合における就業時転換に関する事項
「始業・終業の時刻」とされているため、労働時間として単に「1日8時間、週40時間」と定めているだけでは不十分です。「休憩時間」には、長さ・付与時刻・与え方など具体的に定めます。「休日」には、日数・与え方・振替え・代休などを定めます。休日は週1回とだけ規定すれば、法律上は曜日を特定しなくてもかまいませんが、「日曜日とする」など、できるだけ曜日を特定すべきです。「休暇」には、年次有給休暇、生理休暇、産前産後休業、育児休業・介護休業などの法律上の休暇や休業に加え、夏季休暇、年末年始休暇(休業)、慶弔休暇などの会社が任意に与える休暇や休業も含まれます。「就業時転換」は交替期日・交替順序などが内容になります。 - 賃金の決定、計算・支払の方法、賃金の締切・支払の時期、昇給に関する事項
「賃金」には、毎月・毎週などの定期に支払う賃金が含まれます。臨時の賃金などは相対的必要記載事項なので、ここでは除外されます。 - 退職に関する事項
「退職」に関する事項では、解雇・定年・契約期間の満了など、退職に関するすべての事項を記載しなければなりません。労使間で発生するトラブルの多くは解雇に関連しているため、解雇の基準や手続きについてはしっかりと規定を作る必要があります。とくに解雇については「解雇の事由」まで明記が必要である点に注意が必要です。退職金に関する事項は、相対的必要記載事項に含まれるためここでは除外されます。
相対的必要記載事項
会社に何らかの定めをおく(制度を設ける)場合は、必ず就業規則に記載しなければならない事項です。具体的には、以下の8項目が定められています。これらの定めを新設する場合だけでなく、社内にすでに慣行として存在する場合も、相対的必要記載事項として明記が求められます。
- 退職手当の適用される労働者の範囲、退職手当の決定方法・計算方法・支払方法・支払時期に関する事項
- 臨時の賃金等・最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させる食費・作業用品その他に関する事項
- 安全・衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償・業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰・制裁の種類・程度に関する事項
- その事業場の労働者のすべてに適用される事項
就業規則の任意的記載事項
記載が任意とされているものです。たとえば、就業規則を定める目的や趣旨、用語の定義、従業員の心得、会社の理念などが該当します。
就業規則の記載事項
絶対的必要記載事項 | 労働時間等 | 始業・終業の時刻、休憩時間、休日・休暇、交替勤務の要領 |
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賃金 | 決定・計算・支払の方法、締切・支払の時期、昇給 | |
退職 | 身分の喪失に関する事項(任意退職、解雇、定年など) |
相対的必要記載事項 | 退職手当 | 退職手当(退職金・退職年金)が適用になる労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払の方法や支払時期 |
---|---|---|
臨時の賃金等・最低賃金 | 臨時の賃金等の支給の条件・時期など | |
食事・作業用品などの負担 | ||
安全・衛生 | ||
職業訓練 | ||
災害補償、業務外の傷病扶助 | ||
表彰・制裁(懲戒) | 就業規則に規定しないと懲戒できない | |
その他事業場の労働者すべてに適用される事項 | (たとえば、服務規律、配置転換・転勤・出向・転籍に関する事項) |
任意的記載事項 | 労働基準法に定められていない事項でも記載するのが望ましいとされる | 制定目的・趣旨、用語の定義、会社の理念など |
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- 参考文献
- 事業者必携 働き方改革法に対応! 就業規則の作成・見直し実践マニュアル
- 監修:小島 彰
- 定価:本体 1,900円+税
- 出版社:三修社
- 発売年月:2019年4月

こじまあきら社会保険労務士事務所