外国人社員が在留期限の更新を忘れた場合の対応
人事労務弊社で働く外国人社員から「在留期限の更新を忘れてしまいました」と相談を受けました。他のスタッフからの信頼が厚い人材であり、当社としても引き続き働いてもらいたいと考えています。どのように対応したらよいでしょうか。
外国人社員本人が、1日でも早く自主的に出入国在留管理局に出向き、相談を受ける必要があります。相談の際にはパスポートと在留カードを持参し、在留期限の更新を忘れたいきさつ等をあらかじめ書面にまとめておくとよいでしょう。また、緊張した外国人社員がうまく事情を説明できなくなるケースもあるため、人事担当者等の同行も検討します。相談後は担当官の指示に従ってください。
解説
目次
不法滞在(オーバーステイ)
1日も早く出入国在留管理局に相談する
更新手続を忘れて1日でも在留期限が切れてしまえば、たとえ悪意はなくとも、不法滞在(オーバーステイ)となります。在留期限が切れていることに気がついたら、1日も早く出入国在留管理局に出向いて相談してください。
出入国在留管理局に相談する際の留意点
出入国在留管理局に相談する際には、外国人社員本人にパスポートと在留カードを持参させ、可能であれば企業の人事担当者なども同行したほうがよいでしょう。外国人社員だけでは緊張のために日本語の会話に支障をきたしてしまい、うまく事情を説明できなくなることがあるためです。
更新忘れの経緯をあらかじめ書面化しておく
更新を失念したいきさつや事情などを、前もって書面にまとめておくことも重要です。何度も同じ説明をしなくてすみますし、出入国在留管理局としてもスムーズに処理ができるはずです。
このようにして出入国在留管理局に事情を理解してもらったうえで、あとは担当官の指示に従ってください。
外国人社員に対する罰則
今回のように不法滞在に該当した外国人に対しては、退去強制や出国命令の手続がとられる可能性が非常に高くなります。
退去強制
退去強制とは、出入国管理及び難民認定法(以下、「入国管理法」)24条の退去強制事由に該当する外国人に対し、日本からの退去を強制することです。不法入国者、不法残留者、反社会性が強いと認められる者、国家秩序を乱す者などの退去強制事由に該当する外国人は、原則として一定の手続のもと日本からの退去を強制されます。退去強制を受けると、退去強制された日から5年間(再犯等の場合は10年間、罪が重い場合は無期限)、日本に入国することができなくなります(入国管理法5条1項9号イ~ハ)。
退去強制の流れ
出国命令
出国命令制度とは、日本に滞在する不法残留者に自主的に出頭させ出国させるための措置です(入国管理法24条の3および55条の2から55条の6)。
出国命令の流れ
一定の条件を満たし、自ら出頭した不法残留者が出国命令を受けるメリットには次の2つがあります。
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出国命令のメリット
- 身柄を収容されることなく日本から出国することが可能となる(入国管理法24条の3条)
- 帰国後の入国拒否期間が1年間に軽減される(入国管理法5条1項9号ニ)
しかし、自ら出頭したとしても、すべての不法滞在者が出国命令制度の対象となるわけではありません。出国命令制度の対象となり自ら出頭した場合にメリットを享受できるのは、次の条件に該当する外国人です。
- 出国の意思をもって自ら入国管理官署に出頭したものであること
- 不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと
- 窃盗罪等の一定の罪により懲役または禁錮に処せられたものでないこと
- 過去に退去強制されたことまたは出国命令を受けて出国したことがないこと
- 速やかに本邦から出国することが確実と見込まれること (入国管理法24条の3条)
注意すべき点としては、①については、出国の意思があったとしても警察に逮捕されたり、出入国在留管理局などに収容されるなどして退去強制となった場合には、自らの意思ではないため適用されません。
また、②の不法残留とは、正規の在留資格を持っていた外国人が在留期限後も更新の手続などをすることなく、日本に滞在し続けることをいいます。そのため、たとえば偽造パスポートで入国した者は不法入国となり(入国管理法70条1項2の2号)、出国命令制度の対象とはなりません。
上記①~⑤の条件に該当する場合には、出入国在留管理局へ出頭すると出頭からおよそ2週間程度で出国することが可能となります。
出頭時にはパスポート(紛失している場合には身分証明書など)や在留カードなどを持って出頭します。最終的には帰国のための航空券や予約確認書なども必要となりますが、出頭してから帰国するまでの日程はケースによって異なるため、一度出頭し、担当官の指示を受けた後に航空券を購入したほうがよいでしょう。
事業主に対する罰則
厳密にいえば、就労ができない状態の外国人が働いていた場合には、不法就労に該当する可能性があります。この不法就労に関して、事業主側に科される処罰には不法就労助長罪(入国管理法73条の2第1項)があります。事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせる(入国管理法73条の2第1項1号)、あるいは、業として外国人に不法就労活動をさせる行為に関しあっせんした(入国管理法73条の2第1項3号)など、外国人の不法就労活動を助長した者は、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその併科に処されます。
なお、退去強制を免れさせる目的で不法入国者または不法上陸者をかくまう等の行為をした場合、入国管理法74条の8により3年以下の懲役または300万円以下の罰金(営利目的があれば5年以下の懲役および500万円以下の罰金)に処せられます。また、不法就労助長罪を犯した場合には、労働者派遣事業、有料職業紹介事業の許可の欠格事由となります(労働者派遣法第6条第1号、職業安定法32条1号)。
以上、外国人従業員が不法滞在してしまった場合の罰則について説明しました。今回のように外国人社員の単純な不注意や雇用企業が意図的に不法就労をさせていない場合には、外国人社員や雇用企業が不法就労で咎めを受けることは稀です。しかしながら、法に定められている以上、上記の罰則は適用され得るものと考えるべきでしょう。1日でも早く自主的に出入国在留管理局に出向き、誠実に説明を行うことが最も現実的な対応となります。

- 参考文献
- すぐに使える!事例でわかる!外国人実習・雇用実戦ガイド 改訂版
- 著者:佐野誠、宮川真史、野口勝哉、西澤毅
- 定価:本体3,600円+税
- 出版社:第一法規
- 発売年月:2018年7月

株式会社ACROSEED