LGBTの部下に対する、上司の無自覚なセクシュアル・ハラスメント

人事労務
寺原 真希子弁護士 弁護士法人東京表参道法律事務所

 ある女性社員より、担当上司から「まだ結婚しないの?まさかレズ?」という趣旨の発言をことあるごとに受けたことによりうつ病を発症したとの訴えがありました。職場では公表していないものの実際レズビアンであるとのことで、担当上司の発言は大変なストレスだったようです。担当上司に確認したところ、悪気はなかったとのことでした。会社としてどう対処すればよいでしょうか。

 担当上司の発言はセクシュアル・ハラスメントに該当しますので、会社は、当該上司の使用者として、また、会社の対応によっては会社自身の義務違反として、損害賠償責任を負う可能性があります。会社としては、当該上司に対する相応の処分を検討すると共に、職場におけるセクシュアル・ハラスメント対策について改めて確認・検討する必要があるでしょう。

解説

目次

  1. セクシュアル・ハラスメント該当性
  2. 会社が担当上司に対してとるべき対応
  3. 会社の法的責任
  4. 今後の対応

セクシュアル・ハラスメント該当性

 男女雇用機会均等法11条1項は、「事業主は、職場において行われる性的な言動…により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と定めており、厚生労働省が定めた「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号)では、「被害を受けた者…の性的指向又は性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、本指針の対象となるものである」とされています。

 また、国家公務員の内部規則である人事院規則のガイドラインは、「性的な言動」について、「性的指向若しくは性自認に関する偏見に基づく言動も含まれる」としているところ、この趣旨は民間企業におけるセクシュアル・ハラスメントの判断においても妥当すると考えるべきです。

 今回の担当上司の発言は、「まさかレズ?」の「まさか」という言い振りからして、同性愛者であることが社会的評価を低下させることであるかのような偏見を背景とすることがうかがえます。よって、かかる発言は、「性的指向に関する偏見に基づく言動」として、セクシュアル・ハラスメントに該当すると考えられます。

 この点、当該女性社員はレズビアンであることを職場で公表しておらず、上司にも悪気はなかったとのことですが、知らなかったということや悪気がなかったということが、偏見に基づく発言によって相手を傷つけることを正当化することはありません。現在もなお、セクシュアル・マイノリティの人々に対する理解が十分に進んでいないことから、当事者は自らの性的指向を公表できない状況にあります。職場において管理者たる地位にある者は、そのような社員が存在しうることを踏まえたうえで、日々の対応を行うべき立場にあるといえます。

会社が担当上司に対してとるべき対応

 会社としては、まずは担当上司から詳しい事情を聴取するほか、担当上司の発言内容が「悪気がなかった」では済まされない、セクシュアル・ハラスメントに該当する行為であることを十分に理解させる必要があります。そして、被害を受けた社員が望む限りにおいて、担当上司による謝罪も検討されるべきです。また、具体的な事情やその後の担当上司の対応次第では、担当上司に対する懲戒処分も検討する必要があるでしょう。

会社の法的責任

 今回の担当上司のセクシュアル・ハラスメント行為について、会社は、その使用者として、損害賠償責任(治療費、休業損害、慰謝料等)を負う可能性があります(民法715条)。

 また、会社は、社員に対し、職場環境配慮義務(社員にとって働きやすい職場環境を保つよう配慮すべき義務)を負っています(労働契約法3条4項、民法1条2項)。これは、職場におけるセクシュアル・ハラスメントにつき適切に対応するために必要な体制の整備等の措置をとる義務(男女雇用機会均等法11条1項)と重なるものです。つまり、会社は、セクシュアル・ハラスメントについて事前および事後に適切な対応をすることによって、身体的にも精神的にも社員が安全かつ快適に働けるよう環境を整える義務を負っています。よって、今回の女性社員からの訴えを受けたにもかかわらず問題を放置した場合等は、会社自身の義務に違反したとして、直接的な損害賠償責任を負う可能性もあります(民法415条、709条)。

今後の対応

 会社としては、今後同様の事件が起こらないように社員全体に対して改めて注意喚起や研修を行うことを検討するとともに、適切な被害申告を可能にするため、セクシュアル・マイノリティに対するものを含むセクシュアル・ハラスメントの相談に対する社内体制について見直す必要があるでしょう。

ケーススタディ 職場のLGBT 場面で学ぶ正しい理解と適切な対応

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