性同一性障害の社員によるトイレ・更衣室の利用に関する要望

人事労務
寺原 真希子弁護士 弁護士法人東京表参道法律事務所

 性同一性障害の診断書はあるものの性別適合手術は受けていない社員(生物学的には男性で自認する性別は女性)が、性同一性障害であることを社内でカミングアウトしたうえで、「これからは女性用のトイレ・更衣室を使用したい」と申し出てきました。他の女性社員が困惑するので応じられないと答えてよいでしょうか。

 申出を認めたうえで、他の女性社員に対して十分な説明を行うことにより調整を図るべきと考えます。仮にこれを認めない場合であっても、代替的手段を講じることができないかを十分検討し、当該社員との間でも十分なコミュニケーションを持つべきでしょう。

解説

目次

  1. トイレ・更衣室の位置付け
  2. 申出を認める場合
  3. 申出を認めない場合

トイレ・更衣室の位置付け

 昨今、生物学上の性別や外見にかかわらず、誰でも利用できることを謳ったトイレ(いわゆる「誰でもトイレ」)の設置が少しずつ広がってきています。とはいえ、性同一性障害ないしトランスジェンダーの人々への配慮として、誰でもトイレを設置すれば万全というものではありません。たとえば設例の場合、自認する性別は女性なので、女性トイレの利用を要望することは自然な流れであり、誰でもトイレを利用することは周囲の視線等を気にした妥協の結果であるともいい得ます。

 トイレや更衣室は、性別による区別が強く認識されやすい場所であるだけに、自認する性別からして違和感のない設備を利用したいという意思を尊重する必要性は高いといえます。

 一方、当該社員は性別適合手術を受けておらず、男性の外性器を有していることから、当該社員が女性トイレや女性更衣室に入ることに対して心理的な抵抗を覚える社員が存在する可能性も否定できません。

 そこで、上記2つの要請をいかに調整するかが問題となります。

申出を認める場合

 自認する性別と一致したトイレや更衣室を利用することが本人の人格的利益に関わることからすれば、会社としては、職場環境配慮義務(社員にとって働きやすい職場環境を保つよう配慮すべき義務。労働契約法3条4項、民法1条2項)に基づき、当該社員の意向を尊重すべく、可能な限り、当該社員の申し出を認める方向で検討をすべきです。

 具体的には、当該社員の希望どおりに女性トイレおよび女性更衣室の利用を認めた場合に他の女性社員が覚えるかもしれない不安感や違和感について、どのように配慮するかを検討することになります。

 この場合の会社側のリスクとしては、非常にまれなケースとは思いますが、性同一性障害であると偽った男性社員による盗撮等の犯罪行為が考えられます。かかるリスクを回避するためには、会社として可能な範囲で、当該社員が性同一性障害であることを確認しておく必要があるでしょう。

 具体的には、設例のように、当該社員が性同一性障害の診断を受けている場合には、診断書の確認を経ることによって比較的容易に事実確認を行うことができます。他方、トランスジェンダーの方の中には、性同一性障害との診断を受けていない人も少なくありません。そのような場合には、従前の生活状況や職場での振る舞い等について、必要な範囲での聴取を行ったうえで、当該社員の申出を認めるかどうかを判断することになるでしょう。

申出を認めない場合

 当該社員からの申出を認めない場合、会社としてどのような法的リスクを負うでしょうか。

 この点、当該社員にとって、自認する性別と一致したトイレや更衣室を利用することは、人格的利益に関わるものといえます。したがって、かかる人格的利益の侵害であるとして、当該社員から会社に対し、会社が負担する職場環境配慮義務の違反を理由とする損害賠償請求(民法415条、709条)がなされるおそれがあります。

 会社側としては、他の社員からの反発や、設備面、予算面の制約があるという事情をもって反論することになるかと思われますが、この点についての判断は、当該社員の人格的利益の保護の必要性と会社側の事情との比較衡量により決せられることになると考えられます。

 たとえば、会社側として、女性用トイレや女性更衣室の利用を認めるための他の女性社員との意見調整を行わず、代替的手段としての誰でもトイレ等の導入が設備的、予算的に十分可能であるにもかかわらずこれを導入せず、しかも当該社員との間で十分な協議も行っていないような場合には、会社の損害賠償責任が認められる可能性は否定できません。

 いずれにせよ、会社としては、このような要請について、設備上の限界等を理由として消極的な対応に終始するのではなく、むしろ、これを機に社内でのセクシュアル・マイノリティ教育を推進し、他の社員がトランスジェンダー社員に対して有するかもしれない「なんとなく」の違和感や不安感を払拭していく努力が望まれるところです。

ケーススタディ 職場のLGBT 場面で学ぶ正しい理解と適切な対応

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