アウティングとは何か、被害の重大性と会社の責任
人事労務ある社員からレズビアンであることをカミングアウトされた上司が、その社員の承諾なく、そのことを他の社員に話してしまいました。会社として何らかの責任が生じますか。
本人の承諾なくその性的指向を第三者に漏らすことはプライバシー権侵害となります。会社の対応によっては、当該上司のみならず会社自身も、カミングアウトした社員に対する損害賠償責任を負う可能性があります。
解説
アウティングとは
本人の承諾なく、本人が公表していない性的指向や性自認を第三者に公表することをアウティングといいます。
性的指向や性自認は、個人の属性に関する情報という意味で個人情報に該当しますので、それを誰に、どのように開示しまたは開示しないかということは、まさに本人のみが決定できることであり、それはプライバシー権として保護されていると考えられます。そうすると、本人の承諾なく勝手に性的指向や性自認を暴露することは、本人のプライバシー権を侵害することになります。
アウティング被害の重大性
アウティングによる被害の重大性を理解することができる事件として、一橋大学アウティング事件 1 があります。これは、2015年に一橋大学法科大学院の男子学生が、同性愛者であることを同級生に暴露された後、心身に不調をきたすようになり、授業中に校舎のベランダを乗り越え転落死したという事件です。
セクシュアル・マイノリティの人々に対する理解が十分に進んでいるとはいえない現在においては、セクシュアル・マイノリティの人々にとって自己の性自認や性的指向を漏えいされることは、精神のみならず、生命をも侵害しうるほど重大なものであることを理解する必要があります。
会社の責任
アウティングをした者は、その本人に対し、プライバシー権を侵害したものとして損害賠償責任を負うものと考えられます(民法709条)。設例のケースでいえば、当該上司はアウティング被害を受けた社員に対して慰謝料等の損害賠償責任を負うことになります。そして、会社は、当該上司の使用者として、アウティング被害を受けた社員に対して慰謝料等の損害賠償責任を負う可能性があります(民法715条)。
また、会社は各社員に対し、職場環境配慮義務(社員にとって働きやすい職場環境を保つよう配慮すべき義務。労働契約法3条4項、民法1条2項)を負っています。アウティング被害が死に至りうるほどに本人の精神的不調をもたらすものであることは既述のとおりですので、会社は、社員の性的指向にかかる情報を取得した場合には、当該情報を適切に管理する義務があるということができます。
それにもかかわらず、会社の情報管理体制が不十分であることによってアウティングが生じてしまった場合には、会社自身がその職場環境配慮義務に違反したとして、アウティング被害を受けた社員に対して直接的に損害賠償責任を負う可能性も考えられるところです(民法415条)。

- 参考文献
- ケーススタディ 職場のLGBT 場面で学ぶ正しい理解と適切な対応
- 編集代表:寺原 真希子、編著:弁護士法人東京表参道法律事務所
- 定価:3,240円(税込み)
- 出版社:株式会社ぎょうせい
- 発売年月:2018年11月
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亡くなった男子学生の遺族が大学と同級生に対する訴訟を東京地裁に起こし、同級生との間では和解が成立しましたが、大学との関係では本稿執筆時点において係争中です。 ↩︎

弁護士法人東京表参道法律事務所