性同一性障害を理由とした配置転換の問題点

人事労務
寺原 真希子弁護士 弁護士法人東京表参道法律事務所

 営業職の男性社員が、最近、髪型と服装を女性的に変更し、女装したような外見になっています。理由を確認したところ、「性同一性障害で、自らを女性と認識しているため」とのことでした。取引先が違和感を持つと思われるので、事務職に配置転換したいと思うのですが、問題ありませんか。

 仮に取引先が実際に違和感を持った場合であっても、配置転換する業務上の必要性は乏しいものと思われます。逆に、不当な動機や目的等をもった配置転換であると推測されかねず、配置転換命令が無効と判断される可能性も否定できません。

解説

目次

  1. 配置転換命令権
  2. 配置転換命令権の濫用に該当する場合
  3. 設例の検討

配置転換命令権

 長期雇用の労働契約関係においては、会社に社員の職務内容や勤務地を決定する権限が帰属することが予定されているため、会社は労働契約上の配置転換命令権を有しており、配置転換命令は原則的に有効であると評価されます。ただし、職種限定特約がある場合や配置転換命令権の濫用(労働契約法3条5項)に該当する場合には、例外的に同命令が無効と評価されることがあります。

配置転換命令権の濫用に該当する場合

 会社側の事情と社員側の事情を比較考量して配置転換命令権の濫用となる場合には、配置転換が無効と判断されることがあります。

 具体的には、配置転換に業務上の必要性がない場合のほか、配置転換命令権の濫用とみなすべき特段の事情がある場合(不当な動機・目的によると認められる場合、社員において通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じていると判断される場合など)には、配置転換命令権の濫用として、無効と評価されることになります。

設例の検討

 設例の場合、「取引先が違和感を持つと思われる」ことを配置転換の理由としていますが、そのような抽象的な不安感が、業務上の必要性の要件を満たすとは考えがたいでしょう。

 また、仮に、取引先が実際に違和感を表明した場合であっても、それは、セクシュアル・マイノリティに対する不理解や差別・偏見に基づくものと言わざるを得ません。こうした取引先に対しては、会社としても自社のセクシュアル・マイノリティに関するポリシーをきちんと説明する等して理解を得ることが望ましく、それが、会社としてセクシュアル・マイノリティである社員に対して負担する職場環境配慮義務(社員にとって働きやすい職場環境を保つよう配慮すべき義務。労働契約法3条4項、民法1条2項)に適うところでもあるといえます。

 このように、配置転換を命ずることの業務上の必要性が存在しないと考えられることを前提とすれば、設例における配置転換命令は、当該社員がセクシュアル・マイノリティであることを理由としたものであるとみるほかなく、不当な動機・目的が推認されてしまう可能性は否定できません。

 また、従来の営業職と業務内容が大きく異なる事務職に配置転換されることで本人が希望するキャリアパスが描けなくなる可能性があるなど当該社員がこうむる不利益の大きさに鑑みれば、当該社員においては、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるとも考えられます。

 以上からすれば、設例の場合、配置転換命令権の濫用にあたるものとして、会社による配置転換命令は無効であると判断される可能性があります。

ケーススタディ 職場のLGBT 場面で学ぶ正しい理解と適切な対応

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