同性パートナーをもつ社員に対して福利厚生制度を適用するには

人事労務
寺原 真希子弁護士 弁護士法人東京表参道法律事務所

 ある社員から、「同性パートナーがいるので、家族手当を支給して欲しい。また、同性パートナーと一緒に社宅に住みたい」との申出がありました。どのように対応すべきでしょうか。

 同性カップルを家族手当や社宅制度の適用対象外とすることが、ただちに法律違反となるわけではありませんが、異性カップルか同性カップルかで差異を設けることに合理的な理由は見当たりませんので、会社としては柔軟に対応すべきと考えます。

解説

目次

  1. 家族手当・社宅の適用基準
  2. 同性パートナーの取扱い
  3. 同性パートナーをもつ社員に福利厚生制度を適用する際の確認資料
  4. 同性パートナーを法律婚の配偶者と同様に取り扱うことを明確化する場合の規定例

家族手当・社宅の適用基準

 一般企業の場合、家族手当を支給するのか、社宅制度を採用するのか、支給・採用する場合にどのような内容・適用基準とするのかは、公序良俗(民法90条)に反しない限り、会社が任意に決めることができます。しかし、すでに存在する家族手当・社宅の規定の適用にあたって、社員ごとの取扱いにおいて不合理な差異があることは許されません。

同性パートナーの取扱い

 では、企業における福利厚生制度においては、社員の同性パートナーをどのように取り扱えば良いのでしょうか。

 この点、家族手当規程で扶養対象とされている「配偶者」、あるいは、社宅規程で同居家族とされている「配偶者」につき、法律婚をしている夫婦に限るという運用をしている会社と、事実婚である異性のパートナーも含めるという運用をしている会社があるかと思います。

 法律婚をしている夫婦のみが「配偶者」に該当するという運用をしている場合、同性カップルに適用しないという取扱いをしても、ことさらに同性カップルだけを不平等に取り扱っているわけではないため、それによってただちに法的な問題が生じることはないと考えます。

 これに対し、すでにある家族手当規程や社宅規程において事実婚カップルも明示的に適用対象となっている場合や、規定上は明らかでないものの運用として事実婚の異性カップルにも適用しているという場合、同性カップルにも同様に適用を認めなければ、同性カップルと異性カップルとの取り扱いが異なるという意味で不平等ではないかとの疑問も生じ得ます。

 しかし、現在の日本においては同性カップルには法律婚が認められていないことから、そのような意味で、同性カップルは、少なくとも制度上は法律婚が可能である異性カップルとは立場的に異なる部分があります。この点に着目すれば、「異性カップルは適用対象とするが同性カップルは適用対象としない」という会社の規定や取扱いがただちに法的な問題を生ぜしめるとまではいえないでしょう。

 ただ、家族の形態が多様化した今日の社会において、法律婚をしている者のみ、あるいは、法律婚が制度上可能な異性間の事実婚カップルのみを「配偶者」と考えることの妥当性については、一考の余地があるというべきです。特に同性カップルについては、現在の日本において法律婚が認められていないために、異性カップルと異なり、法律上の配偶者になりたくてもなることができない立場にあることも忘れてはならない観点といえます。

 会社側の扱いの問題として、同性カップルであっても事実婚の異性カップルであっても、一定の要件を満たす場合には家族手当や社宅制度の対象とするという取扱いへと変更していくことは可能ですし、それが望ましいと考えます。

同性パートナーをもつ社員に福利厚生制度を適用する際の確認資料

 同性パートナーをもつ社員について福利厚生制度を適用する際、その社員からどのような資料を提出してもらうべきかという実務的な問題があります。

 この点、たとえば、ヤフー株式会社は、「公正証書、パートナーシップ証明書・宣誓書受領書、同一世帯の住民票(3年以上)など」1 を、楽天株式会社は、「パートナーの両者及び第三者の証人による署名が記載された会社指定の書類」2 を提出資料としています。

 もっとも、公正証書を作成するには費用や手間がかかりますし、パートナーシップ証明書・宣誓書受領書は一部の自治体でしか発行されていません。また、身近な人にカミングアウトできておらず、「第三者による署名」を取得することが困難な状況にある同性カップルも少なくありません。よって、同一世帯であることがわかる住民票やパートナー両者による申請書をもって確認資料とすることが望ましいと考えられます。

 いずれにしても、事実婚の相手が異性であるか同性であるかによって提出資料の負担が異なることに合理的な理由は見当たりませんので、事実婚の相手が異性であるか同性であるかにかかわらず、概ね同等の時間と手間をもって用意できる資料に基づいて確認すれば足りると考えます。

同性パートナーを法律婚の配偶者と同様に取り扱うことを明確化する場合の規定例

 家族手当や社宅制度を含む福利厚生に関する規程において、同性パートナーを法律婚の配偶者と同様に取り扱うことを明確化する場合、以下のような文言を追加することが考えられます。

本章において「配偶者」とは、異性であるか同性であるかを問わず、事実上婚姻と同様の関係にある者を含む。
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