トランスジェンダーであることを理由とした採用内定取消の可否

人事労務
寺原 真希子弁護士 弁護士法人東京表参道法律事務所

 履歴書の性別欄で「男」に〇を付けていた人物を営業職で採用内定としたところ、その内定者が、内定後になって、「自分はトランスジェンダーであり、戸籍上は男性だが中身は女性なので、理解を頂きたい」として、女性の話し言葉を使い、女性的な服装をするようになりました。トランスジェンダーであることを理由として、内定を取り消すことはできるでしょうか。

 採用内定を取り消すことは難しいと思われます。

解説

目次

  1. 採用内定取消の可否の判断基準
  2. 内定取消の可否

採用内定取消の可否の判断基準

 採用内定時には、実際に就労していないために内定者の能力の欠如が判明しづらいことから、会社には、特別な事由に基づく解約権が留保されていると解されます。ただし、会社が内定を取り消す行為は、労働契約の解約(すなわち、解雇)と位置付けられるため、留保解約権の行使にあたっても、解雇権濫用法理が適用され(労働契約法16条)、相当な理由を欠くような留保解約権の行使は無効とされます。

 具体的には、最高裁判決は、採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られると判示しています(大日本印刷事件・最高裁昭和54年7月20日判決・民集33巻5号582頁)。

内定取消の可否

 まず、トランスジェンダーであることが、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実」に該当するといえるでしょうか。

 この点、設例における内定者は、履歴書の性別欄の「男」に〇を付けたものの、自認する性別は女性であるということですから、会社が、内定時において、その内定者がトランスジェンダーであることを知らなかったということは事実です。
 しかし、最高裁判決がいう「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実」とは、採用内定を取り消し得るだけの重要性をもった事実をいうと解すべきところ、通常、会社において、男性であれば遂行できると考えられている業務内容を、トランスジェンダー女性(生物学上は男性で、自認する性別は女性である人)は行えず、自らを男性と認識しているか女性と認識しているかで業務遂行能力に差異が生じると判断することに合理性があるとは考え難いといえます。

 そうであれば、そもそも、自らがトランスジェンダーであることを面接時において申告することが会社業務との関係で必要であるとは言えず、トランスジェンダーであることは、採用内定を取り消し得るだけの重要性をもった事実には該当しないと考えるべきです。

 また、トランスジェンダーであることや、女性の話し言葉を使ったり女性的な服装をするといったことは、その内定者を労働に従事させることができないことを根拠付けるとはいえないため、このことのみを理由として採用内定を取り消すことは、客観的に合理的とも、社会通念上相当であるともいえないと考えられます。

 以上より、結論として、設例の場合に採用内定を取り消すことはできないと思われます。

ケーススタディ 職場のLGBT 場面で学ぶ正しい理解と適切な対応

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