企業がLGBT(セクシュアル・マイノリティ)対応をする意義

人事労務
寺原 真希子弁護士 弁護士法人東京表参道法律事務所

 企業が、LGBT(セクシュアル・マイノリティ)対応をする意義はどこにあるのでしょうか。

 企業がセクシュアル・マイノリティに対する取組みを行うことは、企業に関係する様々な人々の個性の尊重、社員の能力発揮・離職防止、企業価値向上、法的リスクの回避といった観点から、「望ましい」というレベルではなく、企業として存続していくうえで「必要」になっています。

解説

目次

  1. LGBTとは
    1. 性自認
    2. 性的指向
    3. LGBT
  2. 企業が取り組みを行う意義・必要性
    1. 個人の尊重
    2. 社員との信頼関係
    3. 取引先・顧客・消費者・株主との関係
    4. 訴訟リスク

LGBTとは

 従来、性別は女性または男性の2種類に明確に分かれており、女性は男性に対して、男性は女性に対して性愛や恋愛の感情を持つものと捉えている人が多かったかと思います。しかし、今日、性は多様性を持つものとして理解されています。

性自認

 性自認とは、性別についてどのようなアイデンティティ(性同一性)を自分の感覚として持っているかを示す概念であり、自分の身体的性別にかかわらず、「自分は男性である」、「自分は女性である」、「自分は男性と女性の両方である」、「自分は男性と女性のどちらでもない」といったような、どの性別に自分が属しているか、あるいは属していないかという認識のことを指します。「心の性別」とも説明されます。

 人口割合的に多くの人は、自らの身体的性別に違和感を持っていませんが、そうでない人もいます。割り当てられた性別とは異なる性別に帰属する人を「トランスジェンダー(Transgender)」といい、「身体や戸籍上の性別に違和感があり、それとは異なる性別として生きたいと望む人」とも説明されます。

 性自認は、自分の意思でコントロールできるものではなく、また、自認する性別を身体的性別に近づける方向で「治す」べきものでもありません。

 トランスジェンダーのうち、医療的治療(自認する性別に従って生きることを前提とした精神的サポート、ホルモン療法、乳房切除術、性別適合手術)を必要とする人に対する医学的疾患名として、日本では「性同一性障害」という用語が用いられています。

性的指向

 性的指向とは、性的興味、関心、魅力などを感じる対象がどの性別に向かうか、あるいは向かわないかを示す概念のことを指します。

 人口割合的に多くの人は、自認する性別とは異なる性別つまり異性に対して恋愛感情や性的関心が向いています。このような性的指向を持つ人を異性愛者といいます。他方、恋愛感情や性的関心が同性、あるいは異性と同性の両方に向いている人もいます。同性愛指向を持つ女性のことをレズビアン(Lesbian)、同性愛指向を持つ男性のことをゲイ(Gay)、同性愛指向と異性愛指向の両方の要素を持ち合わせている人を両性愛者ないしバイセクシュアル(Bisexual)といいます。

 性的指向も、自分の意思でコントロールできるものではなく、「治す」べきものでもありません。同性愛について、世界保健機関(WHO)は、1990年に、「いかなる意味でも治療の対象にはならない」と明言しています。

LGBT

 このように人はそれぞれのセクシュアリティ(性のあり方)を持っていますが、このうち、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとった用語が「LGBT」(エル・ジー・ビー・ティー)です。セクシュアリティにおける少数者のことを指す「セクシュアル・マイノリティ」とほぼ同じ意味で使用されています。

 株式会社電通による調査(2018年実施)1 によれば、セクシュアル・マイノリティの人々の割合は8.9%であるとの結果が出ています。これを前提とすると、11人に1人がセクシュアル・マイノリティである計算になります。これは、左利きの人や血液型がAB型の人と同じぐらいの割合であるといわれています。

DDL制作の「セクシュアリティーマップ」

出典:電通ダイバーシティ・ラボ「LGBT調査2018

企業が取り組みを行う意義・必要性

 では、なぜ企業においてLGBT(セクシュアル・マイノリティ)の人々への対応が求められるのでしょうか。

個人の尊重

 まず大前提として、個人はあるがままの存在として尊重されるべき存在であり、社会はその上に成り立っています(憲法13条)。会社は社員によって構成され、またその業務は取引先・顧客・消費者・株主等との関係性の中で行われるものです。これらの人々の個性・特性や多様性は基本的な人権として尊重されなければならないという観点が、出発点といえるでしょう。

社員との信頼関係

 そのうえで、セクシュアル・マイノリティの社員の目線からみた場合、たとえ職場においてセクシュアル・マイノリティに関するハラスメントや差別的取扱いが存在していたとしても、そのような職場の現状について問題提起することもできず、深い苦悩を抱え続けるというサイクルに陥っている人も少なくありません。これは、日本社会にセクシュアル・マイノリティに対する偏見や差別意識が根強く存在するため、自己のセクシュアリティをオープンにすることができない状況があるからです。

 そのような中で、自分の所属する会社が、セクシュアル・マイノリティへの配慮を踏まえた方針を積極的に打ち出しているか否かは、セクシュアル・マイノリティの社員が、会社において自分という存在が肯定されているのか否かを判断する際の大きな指標となります。会社がセクシュアル・マイノリティに対する積極的な取組み姿勢を表明することは、カミングアウト(自らのセクシュアリティを自らの意思で他者に伝えること)の有無にかかわらず、セクシュアル・マイノリティの社員の職場における自己肯定感を助け、会社に対する信頼を深めることになります。その場合、当該社員は、仕事において一層その能力を発揮し、離職防止にもつながるといえるでしょう。

 また、セクシュアル・マイノリティではない社員も、それぞれに事情を抱えています。そのような中で、会社がセクシュアル・マイノリティに配慮した施策を打ち出したとしたら、セクシュアル・マイノリティではない社員にとっても、個々の社員の事情に寄り添うという会社の姿勢を認識する機会となり、もし自分自身が会社による個別対応を必要とする場合には誠実に対応してもらえるであろうという安心感を得ることとなるでしょう。

 さらに、個々の社員の個性・特性を尊重する職場を提供するという方針を示すことは、優秀な人材を会社に迎え入れるうえでも重要な視点です。

取引先・顧客・消費者・株主との関係

 また、取引先・顧客・消費者・株主といった関係者においても、セクシュアル・マイノリティの人々が一定数を占めており、個人の尊重という観点からの配慮が必要であることは言うまでもありませんが、それに加えて、会社がセクシュアル・マイノリティに関する積極的な取組みを行うことは、ダイバーシティ(多様性)を踏まえた魅力ある企業であるとの評価、ひいては企業価値の向上につながるものといえます。

 特に近年は、取引先について性的指向や性自認に基づく差別禁止を明示的に求める自治体も複数あります(東京都文京区・世田谷区など)。また、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が策定した「持続可能性に配慮した調達コード」においても、性的指向や性自認に基づく差別禁止が明示されており、これを遵守している企業からしか調達を行わないことになっています。

 経団連(一般社団法人日本経済団体連合会)も、2017年5月、セクシュアル・マイノリティへの取り組みを推進するための提言を公表しており(「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現へ向けて」)、その中で、「本提言を受けて、今後、各社の取り組みが加速することを期待したい。」と述べています。

 セクシュアル・マイノリティの人々に対して必要な配慮を行うことは、「望ましい」というレベルではなく、会社が企業として存続していくうえで「必要」なものであるということが、このような側面からも明らかとなっていると言えます。

訴訟リスク

 セクシュアル・マイノリティに対する必要な配慮を行わない場合の法的リスクとして、安全配慮義務(労働契約法5条)や職場環境配慮義務(社員にとって働きやすい職場環境を保つよう配慮すべき義務、同法3条4項、民法1条2項)、雇用管理上必要な措置を講じる義務(男女雇用機会均等法11条1項)といった会社が社員に対して負っている義務に会社が違反したとして、社員から損害賠償請求訴訟などを提起されるという点があげられます。

 また、一人の社員による問題行為(セクシュアル・マイノリティの社員に対するハラスメント行為など)についても、使用者として、会社が責任を負う可能性もあります(民法715条1項)。

 最終的に企業に損害賠償責任等が認められるか否かはともかく、訴訟を提起されたことによる社会的評価の低下や、応訴のための人的・金銭的負担など、生じる影響は決して小さくありません。

 訴訟リスクを避けるためにセクシュアル・マイノリティへの配慮を行うなどというのでは主客転倒ですが、会社としては、必要なセクシュアル・マイノリティ対応を怠った場合には上記のようなリスクが現実化しうることを、念頭に置いておく必要があります。

ケーススタディ 職場のLGBT 場面で学ぶ正しい理解と適切な対応

  1. 電通ダイバーシティ・ラボ「LGBT調査2018」 ↩︎

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