勤務間インターバル制度とはどのようなものか
人事労務2019年4月に努力義務化される勤務間インターバル制度とはどのような制度なのでしょうか。
勤務間インターバル制度とは、労働者の終業時刻から、次の始業時刻の間に一定時間の休息を設定する制度であり、労働者の生活時間や睡眠時間を確保し、健康な生活を送るために重要な制度です。政府としてはその導入を積極的に進めており、2019年4月には改正労働時間設定改善法が施行され、導入が努力義務化されることになっています。
解説
勤務間インターバル制度の概要
勤務間インターバル制度とは、労働者の終業時刻から、次の始業時刻の間に一定時間の休息を設定する制度であり、労働者の生活時間や睡眠時間を確保し、健康な生活を送るために重要な制度です。
勤務間インターバル制度を導入した場合の働き方イメージ
次に示した、「勤務間インターバルと睡眠時間の関係」はある調査会社に登録している日勤の労働者約3,800名に関して、普段のインターバルの時間と睡眠の長さ・質を比べたものです(出典:厚生労働省「第4回勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会」資料1)。
左図を見ると、勤務間インターバルの時間が短くなると、それに比例して睡眠時間が削られています。右図が示す睡眠の質は、得点が低いほうが睡眠の質が良いという指標です。勤務間インターバルが長くなるにつれて棒が右肩下がり、すなわち質の良い睡眠になっています。
睡眠時間が短くなると、体調管理が難しくなり、最終的には健康障害の発生リスクが高まります 1。これは医学的にも証明されていますが、それ以前に読者のみなさん自身の経験からも短時間睡眠が健康に与える影響を実感されていることではないでしょうか。
また、長時間労働は、心血管疾患の発症リスク、精神疾患の発症リスク、週50時間以上の長時間労働はメンタルヘルスを顕著に悪化させるなどの調査が報告されています 2。
勤務間インターバル制度は、社内の仕組みとして睡眠時間の確保を進め、労働者の健康障害を防止しようとする取り組みであり、過重労働による健康障害の防止策として期待されています。
勤務間インターバルと睡眠時間の関係
勤務間インターバルの運用実務
勤務間インターバル制度で有名なのはEUの事例です。EUでは、労働時間指令に基づき、すべての労働者(一部適用除外あり)に、24時間ごとに、最低でも連続11時間の休息期間を確保するために必要な措置をとるものとされています(労働時間指令3条)。このように11時間のインターバルを設定したケースで、その具体的な取り扱いを考えてみましょう。
たとえば、始業が午前9時、終業が午後6時の会社で、ある日、午後11時まで業務を行ったとします。その場合、翌日の勤務開始可能時刻は、終業時刻から11時間が経過した午前10時となります。インターバルを取得した結果、始業時刻に食い込んだ1時間については、時差出勤で対応したり、勤務したとみなして賃金を保証するなどの対応を行うことが通常です。
勤務間インターバル制度の導入事例
わが国では2017年頃から勤務間インターバル制度を導入する企業や団体が増加しています。厚生労働省では、その普及に向け、導入事例集を作成していますが、その中で取り上げられている事例のポイントをまとめると以下のようになります。
企業名 | インターバル時間など | 対象者 | 規定根拠 | 導入時期 |
---|---|---|---|---|
ユニ・チャーム株式会社 | 8時間以上、努力義務として10時間 | 全社員 | 就業規則により規定 | 2017年1月 |
株式会社 フレッセイ |
11時間 ただし、年末年始は適用除外 |
全組合員(パートナー社員を含む) | 労使協定により規定 | 2016年4月 |
TBCグループ 株式会社 |
義務規定として9時間 健康管理指標として11時間未満が月の半分(11日)以上の場合には社員個別に健康指導を実施 |
全社員(子会社、関連会社等のグループ企業社員を含めた全社員) | 就業規則に明記するとともに、エステ・ユニオンという外部労働組合と「勤務間インターバル労働協約」を締結 | 2017年1月 |
KDDI 株式会社 | 8時間(継続性のある業務や緊急性の高い業務、繁忙期の対応等については、上長判断による適用除外可) 別途健康管理指標として、月のうち11日以上は11時間というラインを設定 |
全非管理職 ※健康管理指標は管理職を含む全社員 |
インターバル規定は就業規則に明記、健康管理指標は安全衛生管理規程に明記 | 全社適用は2015年7月 |
社会福祉法人 聖隷福祉事業団 総合病院 聖隷三方原病院 |
一律で最低11時間以上 | 変則交代制勤務を行っている看護職員全員 | 看護部の勤務計画表作成基準の中に「勤務間隔をあける規則」として規定 | 2012年2月 |
AGS 株式会社 | 一律で11時間 適用除外は月3回(年6回を限度として月5回まで) |
全社員 | 就業規則にインターバル時間を明記するとともに、労使協定で適用除外等に関する細かな規定を締結 | 2017年1月 |
出典:厚生労働省「勤務間インターバル制度 導入事例集(2016年版)」
このようにインターバルの時間数は、8時間から11時間の範囲で設定されることが多くなっています。また現実的には業務トラブル発生などの緊急対応により、インターバルが取得できないようなケースの発生も想定し、例外的取り扱いを定めることもあります。
また制度運用の徹底を考えれば、勤怠管理システムで退勤の打刻を行った際に、翌日の勤務開始可能時刻を表示させたり、違反者や上司に対するアラートを発出するなど、システム面での仕組みづくりにより、実効性を担保することも検討するとよいでしょう。
今後増加が予想される勤務間インターバル制度の導入
2019年4月には改正労働時間設定改善法が施行され、勤務間インターバル制度の導入が努力義務化されますが、厚生労働省では、過労死防止大綱の中で2020年の導入率10%以上という目標を設定しています。また、2019年4月の労働基準法改正に関連して、36協定の特別条項設定や高度プロフェッショナル制度導入の際の健康確保措置の選択肢にも勤務間インターバル制度の導入が定められるなど、その普及が強く推し進められています。
この制度は2019年4月以降、多くの企業で導入が進められることになると予想されますが、健康障害の最大の要因の一つである睡眠不足を直接改善するための効果的な対策と考えられますので、前向きに導入を検討したいものです。
制度導入にあたっては、導入事例等を参考にしつつ、事業場ごとの事情を踏まえて検討してみましょう。労使での話し合いは検討の各ステップで重要です。
導入に向けたポイント
各ステップにおける主な検討項目と留意事項
ステップ | 検討項目と留意事項 |
---|---|
制度導入の検討 | 導入の目的、労使間の話合いの機会の整備 |
制度設計の検討 | 対象者、休息時間数、休息時間が次の勤務時間に及ぶ場合の勤務時間の取扱い、適用除外、時間管理の方法 |
試行期間 | 制度の効果を検証 |
検証・見直し | 問題の洗い出し、必要な見直し |
本格稼働 | 就業規則等の整備、一定期間後の見直し |
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