勤務間インターバル制度を設計する際のポイントと就業規則の規定例
人事労務勤務間インターバル制度を導入しようと考えています。制度の設計において、どのような点を検討すればよいのでしょうか。
勤務間インターバル制度の導入にあたっては、以下の3点を中心に検討を行い、規定にまとめるとよいでしょう。
- インターバルの時間数
- 例外の設定有無および内容
- 勤務開始可能時刻が、翌日の始業時刻に及んだ場合の取り扱い
解説
目次
勤務間インターバル制度の概要
勤務間インターバル制度とは、労働者の終業時刻から、次の始業時刻の間に一定時間の休息を設定することにより、労働者の生活時間や睡眠時間を確保し、その健康障害等を防止しようとする仕組みです。政府としてはその導入を積極的に進めており、2019年4月には改正労働時間設定改善法が施行され、導入が努力義務化されます。
現在、徐々にその導入事例が増加していますが、現実に制度の設計を行う際には、以下の3点を中心に検討を行うことになります。
- インターバルの時間数
- 適用除外の設定有無および内容
- 勤務開始可能時刻が、翌日の始業時刻に及んだ場合の取扱い
以下ではこの各ポイントについて、順番に解説していきます。
インターバルの時間数(検討ポイント①)
インターバルの時間数については、この制度の目的が労働者の生活時間および睡眠時間の確保を通じ、健康障害の防止を行うと共に、人間らしい生活を確保することにあることを鑑み、設定することが基本的な考え方となります(参考:労働時間等見直しガイドライン(労働時間等設定改善指針)(平成20年厚生労働省告示第108号)など)。
時間数の設定の方法でもっとも多いのは、11時間など一律に時間数を設定する方法でしょう。その際、特に首都圏においては通勤時間が長時間になることが多いため、その環境も考慮して時間数を設定することが求められます。なお、一般的には通勤時間はインターバル時間数に含めて設定しますが、一部の企業では、通勤時間を除いて時間設定を行うような例も見られます。
インターバル時間数については、厚生労働省の導入事例集を見ても、8時間から11時間の間で定められるケースが多いようです。8時間では十分な睡眠時間を確保することは難しいという意見もよく耳にしますが、これは「毎日8時間のインターバルしか取ってはいけない」ということではなく、「どんなに忙しいときでも、最低8時間のインターバルは取るように」という趣旨ですので、一定の意味はあるでしょう。また2016年版の導入事例集の中で取り上げられているKDDI株式会社の事例のように、健康管理のための努力義務の時間を11時間とする一方、それが取得できない場合においても8時間のインターバルを取得することを義務とするというように2段階での制度設計を行うことも有効ではないかと思われます。
インターバル時間数については、制度設計における最大のテーマになりますので、労使でしっかり議論して設定することが求められますが、中小企業を対象として支給が行われている時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)の対象となる時間数は、9時間以上となっていますので、助成金の申請を検討している場合には注意が必要です。
適用除外の設定有無および内容(検討ポイント②)
勤務間インターバル制度は、措置義務として法律でその詳細まで定められているわけではありませんので、比較的自由度の高い設計を行うことができます。よって実務的には、繁忙期や業務の緊急性など特別な事情が生じた場合などを適用除外として運用することも可能です。適用除外を設定する場合としては、以下の場合等が考えられるでしょう。
- 重大なクレーム、トラブル等への対応
- 法定期限・納期の逼迫等スケジュール面での対応
- 海外の企業・事業所等との対応のための電話会議、テレビ会議
- 災害などにより臨時の必要がある場合
適用除外を設定する場合には、その手続きを定めると共に、制度の趣旨を損なわないようにするための一定の回数制限や、代替措置の設定などを労使の議論を通じて、検討するとよいでしょう。
勤務開始可能時刻が、翌日の始業時刻に及んだ場合の取り扱い(検討ポイント③)
たとえば始業時刻が午前8時、終業時刻が午後5時の事業所で、インターバルを取得したところ、勤務開始可能時刻が午前10時となったという場合のように、勤務開始可能時刻が翌日の始業時刻に及んだ時間(以下、「重複時間」といいます)場合の取扱いを決めておく必要があります。
この場合の対応の選択肢として、通常は以下の3つが考えられます。
- 勤務みなし
重複時間については働いたものとみなし、賃金を支給する - 時差出勤
重複時間の時間数分、始業および終業時刻を遅らせる - フレックスタイム制
重複時間については、フレックスタイム制の清算期間の中で調整する
就業規則の規定例
以上の各ポイントについて検討を行ったうえで、その内容を就業規則にまとめます。通常は就業規則本則の労働時間の章に条文を追加することになるでしょう。以下では厚生労働省が示している規定例を参考までに記載します。こうした規定例をベースに、自社の運用に合わせてカスタマイズしたうえで、規定の整備を行いましょう。
- 休息時間と翌所定労働時間が重複する部分を労働とみなす場合
第◯条 いかなる場合も、労働者ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、◯時間の継続した休息時間を与える。
2 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、当該始業時刻から満了時刻までの時間は労働したものとみなす。 - 始業時刻を繰り下げる場合
第◯条 いかなる場合も、労働者ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、◯時間の継続した休息時間を与える。
2 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、翌日の始業時間は、前項の休息時間の満了時刻まで繰り下げる。
まとめ
以上、勤務間インターバル制度を導入する際の検討ポイントについて取り上げました。制度設計についてはこうした点を検討することになりますが、同時に必要となるのが、労働時間の状況の把握などの運用面です。
確実な制度の運用を考えれば、勤怠管理システムにおいて、終業時のタイムカードの打刻の際に、翌日の勤務開始可能時刻が表示されるような仕組みや、インターバルが取得できていないルール違反の勤務が行われた場合にはアラートが出るような仕組みを用意できるとよいでしょう。
2019年4月1日からの努力義務化において、本制度を導入する企業の増加が予想されます。より安心・安全に働くことができる環境整備のため、労使での積極的な議論が望まれます。
なお、厚生労働省が平成30年12月にまとめた「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会」報告書)も参考になるため、内容の確認をおすすめします。

社会保険労務士法人 名南経営