BNPL(Buy Now Pay Later/ 後払い決済)とは? 法規制やクレジットカードとの違い
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目次
BNPL(Buy Now Pay Later/ 後払い決済)とは
BNPL(Buy Now Pay Later)とは、商品の購入時における代金の支払を不要とし、後から当該代金の支払をすることを可能とする決済サービス(後払い決済サービス)を総称した概念である。
Buy Now Pay Later の流れ
主にクレジットカードを保有していない若年層や、ECサイトからの情報漏えいを懸念する消費者に、ECサイト上での取引に係る便利な決済手段として利用されているサービスである。もっとも、近年は実店舗での決済手段としても利用可能なサービスも出現している。
海外においては、Klarna(スウェーデン)がユニコーン(企業価値が10億ドルを超える未上場企業)として存在感を発揮し、BNPL市場の拡大を牽引している一方で、国内においては先行してサービス提供を開始していたネットプロテクションズや今春の資金調達によりユニコーンの仲間入りを果たしたPaidyが業界を牽引している。また、国内では本年5月11日に自主的な業界団体(日本後払い決済サービス協会(会長:(株)ネットプロテクションズ代表取締役社長 柴田紳))が設立されており、取引環境の整備との調和を図った市場の拡大が期待される。
このように、現在取扱高においても利用シーンにおいても拡大傾向を見せているBNPLであるが、本稿においては主としてクレジットカードとの違いを意識しつつ、法規制の適用関係の観点から整理することを試みたい。
後払い決済に関する各種法規制の整理
BNPLは、法律上の概念ではなく、明確な定義はない。
他方、類似する後払い式の決済サービスとして割賦販売法において下記がそれぞれ定義されている。
- 包括信用購入あっせん(同法2条3項)
- 個別信用購入あっせん(同法2条4項)
- 二月払購入あっせん(同法35条の16第2項)
経済産業省に備える「包括信用購入あっせん業者」「個別信用購入あっせん業者」の登録簿への登録
「包括信用購入あっせん」および「個別信用購入あっせん」については、これを業として営むにあたっては、経済産業省に備える登録簿への登録を受けなければならない(同法31条、35条の3の23)。
「二月払購入あっせん」については、消費者に対する決済手段の提供を行う事業に関しては特段の登録等を受ける必要はない。
経済産業省に備える「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」の登録簿への登録
「包括信用購入あっせん」および「二月払購入あっせん」については、当該決済サービスに係る加盟店契約の締結を業として営むに当たっては、経済産業省に備える「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」の登録簿への登録を受けなければならない(同法35条の17の2)。
犯罪による収益の移転防止に関する法律
「包括信用購入あっせん」または「二月払購入あっせん」(両者を合わせて「クレジットカード等購入あっせん」という(割賦販売法35条の16第1項2号))に該当する場合には、犯罪による収益の移転防止に関する法律の適用を受けることとなり、当該決済手段にかかる基本契約の締結(クレジットカード等の交付等を内容とする契約の締結)をするに際して、顧客に対する取引時確認を実施する義務等、同法に規定される特定事業者としての義務を果たす必要が生ずる。
法規制の適用を受けないためのBNPLのサービス設計
BNPLとして決済サービスを提供するにあたって、各種規制法の適用を受けないサービスとして事業を営む場合には、下表のとおり個別与信型のマンスリークリア方式の決済サービスとして設計をすることが必要となる。
マンスリークリア方式とは、商品の売買契約の締結から二月を超えない範囲内においてあらかじめ定められた時期までに当該商品代金を受領する方式をいう。
※ 個別信用購入あっせんについては消費者向けのサービス提供と加盟店向けのサービス提供について、それぞれ別々の登録制があるわけではない。「個別信用購入あっせん業者」としての登録を受けさえすれば、両方の業務を行うことが可能。
マンスリークリア該当性について
割賦販売法上、「包括信用購入あっせん」についても「個別信用購入あっせん」についても定義除外が設けられている。
消費者・加盟店間での商品の売買契約の締結から二月を超えない範囲内においてあらかじめ定められた時期までに決済サービス事業者が消費者から当該商品代金を受領する場合(いわゆる「マンスリークリア」に該当する場合)には、当該後払い型の決済サービスはそれぞれ「包括信用購入あっせん」または「個別信用購入あっせん」の定義に該当しない。
ここでいう「二月」とは暦に従って計算されるものであり、60日を意味するものではない点に注意が必要である。また、「二月」の起算点については初日不算入の原則(民法140条)が妥当することとされているため、たとえば4月1日に決済サービスが利用された場合6月1日中に利用代金の受領をすることとなっていれば「二月」を超えない範囲にとどまると解される 1。
個別与信型か包括与信型か(クレジットカード等購入あっせん該当性)について
区別基準の枠組み
BNPLとして後払い決済サービスを設計するにあたって、利用代金の回収サイクルをマンスリークリアに該当するように設計したとしても、上表のとおり与信審査の仕組みが包括与信型である場合、犯罪収益移転防止法の適用を免れず、また加盟店向けのサービス提供(すなわち加盟店契約の締結)をするにあたって、割賦販売法上の規制の適用を受けることとなる。
したがって、犯罪収益移転防止法および割賦販売法における加盟店管理規制の適用を受けないサービスとして組成するためには、個別与信型の決済サービスとして与信審査の仕組みを設計する必要がある。
そこで、後払い決済サービスにおいて、サービス利用者に対する与信審査の仕組みが包括与信型と評価されるか個別与信型と評価されるかの区別の基準が問題となる。
この点、割賦販売法上の「包括信用購入あっせん」は包括与信型、「個別信用購入あっせん」は個別与信型のサービスと評されるところ、同法においてはそれぞれ以下のように定義されている。
かかる定義の比較より、両者は、決済事業者が販売業者(加盟店)に対して商品代金等の支払を行うとともに、利用者(消費者)から当該代金等をあらかじめ定められた時期までに受領する行為という点で共通しており、相違点は「カード等」の付与およびその利用の有無であることが確認できる。
したがって、「カード等」の付与およびその利用の有無が包括与信型と個別与信型の区別基準として機能するものと解される。
「カード等」の有無
割賦販売法上、「カード等」は、「それを提示し若しくは通知して、又はそれと引換えに、特定の販売業者から商品…を購入(…す)ることができるカードその他の物又は番号、記号その他の符号」と定義されている(同法2条3項1号)。
かかる定義からは、「カード等」とは、「それを提示等すること(カード等自体の有効性の審査)によりあらかじめ認められた金額以内での商品の購入が可能となる機能を付与されたもの」を意味すると解される。
したがって、後払い決済サービスの提供に関し、利用者に対しアカウント等を発行する場合であっても、当該アカウントの提示 2 およびその有効性の確認のみで当該利用者に対し後払い決済サービスの利用を承認するものではなく、当該個々の取引の都度、当該取引に関する情報を取得し、かかる情報を基礎とした個別の審査を実施した結果として後払い決済サービスの利用を承諾するか否かの判断を実施するサービス設計となっている限りにおいて、当該後払い決済サービスは、「カード等」を用いない個別審査型の決済サービスであると評し得るものと考える。
最終的には個別の決済サービスごとに具体的な事実関係を踏まえた判断が必要となる点は否めない。たとえば、個々の取引の都度、利用者の支払履歴や住所その他の属性情報、他のサービスの利用状況(自社で多様なサービス提供をしているようなケース等において想定される)、決済対象商品、金額その他の情報を取得したうえで、自社における与信審査の仕組みに当てはめて利用可否の判定をしているようなケースについては、あくまでも総合衡量のうえでの判断となるものではあるが、個別審査型であるとの評価がなし得るものと解される。
おわりに
上述のとおり、現状として個別与信型のマンスリークリアによる後払い決済サービスとしてサービス設計がなされている限りにおいて、BNPLについては法規制が課されない事業領域であると解される。
したがって、事業者においていわゆるBNPLに該当するものとして後払い式決済サービスを組成しようとするにあたっては、与信審査の仕組みをどのように構築するかによって法規制の適用の有無が大きく変わり得るという点を認識することが重要であると考える。
そして、現行法に基づいた理論的な帰結については上述のとおり、与信審査モデルを基準にして検討すべきである。ただし、マンスリークリア該当性については与信期間を基準とした形式的な判断がなし得る一方で、個々の決済サービスにかかる与信審査の仕組みが包括与信型であるか個別与信型であるかについての判断は必ずしも明確かつ形式的な振り分けがなされるものではない。
この点は、場合によっては法改正が必要な問題ともなり得るものの法解釈の安定性や事業遂行の安定性を確保する観点から、1つの解決すべき課題として評価し得るものと思われる。
すなわち、与信審査手法が包括与信型か個別与信型かの違いが割賦販売法上の加盟店管理規制(クレジットカード番号等取扱契約締結事業者としての登録の要否)の適用の有無の判断に帰結する 3 点で、事業遂行上、重要な要素として位置づけられることも踏まえると、両者の区別基準について割賦販売法の適用領域を画する判断基準としての明確化が図られることが今後期待される。
もっとも、この点に関しては、与信審査モデルのみに着目して加盟店管理規制の適用の有無を画する基準とするのではなく、後払い決済サービスのビジネスモデル全体を捉えたうえでの判断を行うことが可能となるような追加的な判断基準を採用することについて検討をする余地もあり得るのではないかと考える。
加盟店管理規制は悪質加盟店の排除を目的としつつも、カード番号等の漏えい事故の発生による消費者の財産的被害の発生を重大なリスクとして捉えている。このことに鑑みると、後払い決済サービスのうち、口座振替型ではなく請求書払い形式を採用するサービスについては、万が一アカウント情報が漏えいしたとしても、当該アカウントにかかる個人についての財産的被害の発生には直結しないことから、係る決済手法を踏まえたリスクの差分 4 を考慮して規制法の適用範囲を画する考え方を導入することも1つのアイデアとしてはあり得るように思われる。そして、このような考え方は規制体系のあり方についてリスクベース・アプローチの導入を掲げる産業構造審議会における議論の方向性 5 にも合致し得るのではなかろうか。
この点(口座振替か請求書払いかという相違点)については、現行の割賦販売法の解釈論を超える内容を含み、またクレジットカードについても請求書払い方式が否定されるものではないことを踏まえると、現行法の適用範囲を画する際の理論的な整理には必ずしも影響しないものではあるものの、サービス設計上、口座振替による支払方法がそもそも予定されていないような後払い決済サービスについては、当該サービスに対し加盟店管理規制を及ぼすべき必要性の有無を判断するにあたっての事実上の考慮要素とすることはあり得るように思われる。
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経済産業省商務情報政策局商務・サービスグループ商取引監督課編(令和2年).割賦販売法の解説(平成28年改正対応版)(一社)日本クレジット協会 43頁 ↩︎
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なお、アカウント型の決済サービスではない場合であっても、顧客に対して一定の識別符号を付与した管理を行っている場合には同様の議論が妥当し得る。 ↩︎
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犯罪収益移転防止法の適用の有無にも影響する点は前述のとおりである。 ↩︎
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あらかじめ登録した銀行口座当から利用代金の引き落としがなされることと、利用代金についての債務を負担しているとされ、請求書の送付がなされることについては、後者の場合、事実上、支払停止の抗弁が常に機能し得ることになる点等を踏まえても財産的被害に係るリスクの程度には事実上の差分があるものと考える。 ↩︎
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産業構造審議会 商務流通情報分科会 割賦販売小委員会 当面の制度化に向けた整理と今後の課題 ~テクノロジー社会における割賦販売法制のあり方~(令和元年12月20日)4頁参照 ↩︎

弁護士法人片岡総合法律事務所