ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集

コーポレート・M&A

目次

  1. 本事例集策定の背景
  2. 本事例集の内容の概要

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.179」の「特集」の内容を元に編集したものです。


 2月3日、経済産業省は、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」(以下「本事例集」)を公表しました。

本事例集策定の背景

 経済産業省は、2020年2月に企業がハイブリッド型バーチャル株主総会(注)を実施する際の法的・実務的論点と、その具体的取扱いを明らかにした「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下「実施ガイド」)を公表しました。
 2020年6月の株主総会では、新型コロナウイルス感染症拡大防止策の一環としても実施ガイドの活用に注目が集まり、上場会社のうちハイブリッド「出席型」は9社、ハイブリッド「参加型」は113社で実施されました(三菱UFJ信託銀行調べ)。 そして、ハイブリッド型バーチャル株主総会の更なる実務への浸透を図るため、本事例集が策定・公表されました。本事例集を参考にしつつ、企業の状況や株主のニーズ等を十分に踏まえ、実施に向けた具体的な検討が進むことが期待されています。
 

(注)ハイブリッド型バーチャル株主総会は、取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所で株主総会(リアル株主総会)を開催する一方で、リアル株主総会の場に在所しない株主がインターネット等の手段を用いて遠隔地から参加・出席することを許容する形態です。議決権行使や質問等ができるハイブリッド「出席型」と、審議等を確認・傍聴することができるハイブリッド「参加型」の二つの類型があります。

本事例集の内容の概要

 本事例集では、企業がハイブリッド型バーチャル株主総会の実施を検討する際の論点と、その論点に関する考え方および2020年株主総会における実施事例が示されています。

① 参加型・出席型共通の主な論点について

論点 論点に関する考え方 2020年株主総会における実施事例
1 取締役等の
バーチャル出席
議長を含む、取締役や監査役等についても、株主に対する説明義務を果たすための環境を確保しながら、インターネット等の手段により出席する事例もみられた。 新型コロナウイルス感染症対策の一環として、議長を含めたすべての役員は、ウェブ会議システムを通じて遠隔から出席し、リアル会場には来場しなかった。(ソフトバンクグループ)
2 株主のバーチャル
参加・出席の事前登録
 通信の安定性等を確保するためにも、バーチャル参加・出席を希望する株主に対し、事前登録を促すことも考えられる。
 この場合には、全ての株主に登録の機会を提供するとともに、登録方法について十分に周知し、株主総会に出席する機会に対する配慮を行うことが重要。
自社の株主専用サイトURLを招集通知に記載し、バーチャル出席を希望する株主からは当該サイトにおいて事前申込を受け付けた。株主総会当日、事前申込済の株主のみが、当該サイトからバーチャル出席用サイトへ遷移できる仕様とした。(グリー)


② 出席型の主な論点について

論点 論点に関する考え方 2020年株主総会における実施事例
1 配信遅延への対応 議事進行を円滑に行うためにも、例えば、
①議決権行使の締切り時間をあらかじめ告知すること、
②議決権行使から賛否結果表明までの間に一定の時間的余裕を持たせることといった運用方法等が考えられる。
議決権行使の締切時間を設定した。時差を考慮すると、余裕を持った締切時間の設定が必要であり、5分間の締切時間を設定し、その間、ムービーを流すことで対応した。
(パイプドHD)
2 通信障害対策  実施ガイドでは、会社が通信障害のリスクを事前に株主に告知し、かつ通信障害の防止のために合理的な対策をとっていた場合には、決議取消事由には当たらないと解することも可能であると示している。
 事前の議決権行使により株主の意思が事前に表明されることから、事前の議決権行使を促すことが重要であるが、具体的な対策については個別の事情等に応じて検討する必要がある。
  • 株主への事前の告知
    「通信環境の影響や大量アクセスにより、議決権行使サイトがつながりにくくなったり、インターネット中継の映像が乱れる等、通信障害や通信遅延が発生する可能性がある」旨を招集通知等に記載した。また、可能な限り、事前に議決権行使を済ませた上で出席するように推奨した。(パイプドHD)
  • システム等の環境整備
    事前登録制を採用し、当該登録者数をもとに必要なサーバーを構築した。(ソフトバンクグループ)
  • 通信障害発生時の対処シナリオの準備等
    通信障害が発生した場合のシナリオを用意した上で、短時間で復旧可能であれば休憩後に再開とし、また復旧が困難と判断した際には、リアル出席株主のみで議事進行する旨を議場に諮った上で、リアル会場のみで株主総会が成立するように準備していた。(ソフトバンクグループ)
3 本人確認
(なりすまし対策を含む)
 基本的にはID・パスワード等を用いたログイン方法が相当。
 個別の事情等に応じ、例えば、株主に固有の情報(株主番号、郵便番号等)を複数用いること等によって本人確認を行うといった運用方法も考えられる。
 一定数以上の議決権を有する株主について、より慎重な本人確認を実施することも可能と考えられる。
  • ID・パスワードを用いる方法
    リアル会場においても本人確認書類の提示を求めることはなかったため、議決権行使書に記載したID・パスワードを入力することにより、ログインできるようにした。(パイプドHD)
  • 株主固有の情報を用いる方法
    「株主番号(4桁+4桁)」、「郵便番号」、「株式数」にて認証を行う仕様とした。(Zホールディングス)
4 株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係  株主意思をできる限り尊重し、無効票を減らすという観点から、当日の採決のタイミングで事前の議決権行使と異なる議決権行使が行われた場合に限り、事前の議決権行使の効力を破棄することが考えられる。
 一方で、リアル株主総会の実務と同様に、ログインをもって出席とカウントし、それと同時に事前の議決権行使の効力を取り消すといった方法も見られた。
 議決権行使の効力関係は、あらかじめ招集通知等で株主に通知しておくことが必要。
  • 当日に議決権行使があった場合に事前の議決権行使の効力を破棄
    事前の議決権行使をしている場合の優先順位は、 ①バーチャル出席中の議決権行使、②事前のインターネットによる議決権行使、③議決権行使書用紙の郵送による行使の順序とした。バーチャル出席中に議決権行使をしなかった場合には、事前の議決権行使の効力は取り消さず維持する取扱いとした。(パイプドHD)
  • ログイン時点で事前の議決権行使の効力を破棄
    事前に議決権行使した株主が、株主総会当日の朝9時以降、一般のライブ中継配信ページとは別の出席専用サイトにアクセスした時点で事前の議決権行使の効力を破棄した。(Zホールディングス)
5 質問の受付・回答方法  恣意的な運営は許容されない。実施ガイドでは、例えば、1人が提出できる質問回数や文字数、送信期限などの事務処理上の制約や、質問を取り上げる際の考え方といった運営ルール等を示している。
 また、事前の質問受付を実施したり、適正性・透明性を確保するための措置として、後日、株主の関心の高かった質問で、受け取ったものの回答できなかった質問の概要を公開するなどの工夫を行うことが考えられる。
  • 質問の回数制限、文字数制限等
    プルダウンで報告事項、第1号議案などを選択し、テキストボックスに質問を入力後、送信をクリックすることで質問ができる仕様とした。質問は1人1問までとし(従来の議事采配との平仄)、文字数を200文字までとした。(Zホールディングス)
  • 事前の質問受付の実施、事後に質問等を公表
    事前の質問受付を実施し、株主の関心が特に高い事項については、株主総会当日に回答した。また、総会後に自社サイトで質問と回答をセットで公表した。
    (グリー)
6 動議の取扱い  実施ガイドでは、原則として動議の提出については、リアル出席株主からのものを受け付けることで足りると示している。
 ただし、バーチャル出席株主からの動議の受付も可能とすることも考えられる。
  • 動議の提出はリアル出席株主に限定
    「バーチャル出席株主の動議は、取り上げることが困難なため受け付けない」旨等を招集通知等に記載した。
    (富士ソフト)
  • 動議の提出はバーチャル出席株主も可能
    動議の受付は、株主総会当日の一定の時間(質疑応答開始後◯分後)までを期限とした。(ソフトバンクグループ)
問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部会社法務・コーポレートガバナンスコンサルティング室
03-3212-1211(代表)

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