医薬品卸談合刑事告発事件 − 公取委による刑事告発の動向・罰則とコンプライアンス上の留意点

競争法・独占禁止法

目次

  1. 事案の概要
    1. 公取委による刑事告発
    2. 刑事告発の対象とされた事実
  2. 解説
    1. 行政調査と犯則調査
    2. 刑事告発の基準
    3. 刑事罰と課徴金・課徴金減免制度
  3. コンプライアンス上の留意点
    1. 違反行為の防止とすみやかな発見
    2. 公取委調査への協力(調査協力減算)
    3. 業界団体への参加のあり方
    4. 取引停止

 2020年11月、公正取引委員会は、医薬品の入札をめぐって大手医薬品卸業者4社が談合を繰り返した疑いが強まったとして、犯則調査権限に基づく家宅捜索を実施。同年12月9日には、公正取引委員会は家宅捜索を行った4社のうち1社を除く3社と、その従業員7名を検事総長に告発しました。

 本稿では、独占禁止法の実務に詳しい平山 賢太郎弁護士が、本事案をもとに、公正取引委員会による刑事告発の動向と罰則、企業のコンプライアンス上の留意点を解説します。

事案の概要

公取委による刑事告発

 公正取引委員会(公取委)は、独立行政法人地域医療機能推進機構(地域医療機構)が発注する医薬品の入札談合事件について調査を行ってきたところ、独占禁止法(独禁法)に違反する犯罪があったと思料して、2020年12月9日、医薬品卸業者であるアルフレッサ株式会社、株式会社スズケンおよび東邦薬品株式会社の3社ならびにこれら3社の地域医療機構向け営業担当者7名を検事総長に告発しました。

刑事告発の対象とされた事実

 地域医療機構は、地域医療機構が運営する57病院における医薬品購入契約について、医薬品群(製薬会社および用法による区分)ごとに一般競争入札を実施していました。

 被告発会社3社および同業他社1社(合計4社)の従業員は、東京都内の貸会議室等における面談等の方法により、①4社それぞれの受注予定比率を設定し、同比率に合うよう医薬品群ごとに受注予定事業者を決定するとともに、②当該受注予定事業者が受注できるような価格で入札を行うことなどを合意したうえ、同合意に従って受注予定事業者を決定するなどしていました。

 公取委は、当該行為は入札に係る各契約の受注に係る取引分野における競争を実質的に制限したので、独禁法89条1項1号・95条1項1号(不当な取引制限罪)に該当すると思料し、検事総長に刑事告発しました。

解説

行政調査と犯則調査

 独禁法の規定に違反する疑いのあるカルテル・談合(不当な取引制限)に対して、公取委は、①行政調査(立入検査、報告命令等)を経て行政処分である排除措置命令および課徴金納付命令を行うほか、②刑事告発を念頭とした審査の必要がある場合には犯則調査手続を用いることがあります。排除措置命令および課徴金納付命令は事業者のみを対象とするのに対し、犯則調査手続を経て行われる刑事告発は事業者のみではなく個人(役員・従業員)も対象とするという点に大きな特徴があります。

 なお、犯則調査と行政調査はいずれか一方しか行われないというものではありません。公取委は、犯則調査を経て刑事告発を行った場合には、通常、さらに行政調査に基づいて排除措置命令および課徴金納付命令を行っています

刑事告発の基準

 公取委は “告発基準 1 ” を公表し、独禁法違反事件のうち以下のものについて、積極的に刑事処分を求めて告発を行うこととしています。

  1. 国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質・重大な事案
  2. 違反行為が反復して行われ、排除措置に従わないなど行政処分では法目的を達成できない事案

 刑事告発は本件を含めこれまで24件行われており、最近はおおむね2年に1件程度です(このほか、犯則調査が行われたものの刑事告発に至らなかった案件もあります。)。刑事告発対象案件の選定においては、上記の告発基準に加えて、犯則審査のリソース(人員)の限界など様々な事情が考慮されているのではないかと推察されます。

公正取引委員会の刑事告発数(平成元年度以降)

年度 告発数 年度 告発数
平成元年度 - 平成17年度 2
平成2年度 - 平成18年度 2
平成3年度 1 平成19年度 1
平成4年度 1 平成20年度 1
平成5年度 - 平成21年度 -
平成6年度 1 平成22年度 -
平成7年度 - 平成23年度 -
平成8年度 1 平成24年度 1
平成9年度 - 平成25年度 1
平成10年度 1 平成26年度 -
平成11年度 1 平成27年度 1
平成12年度 - 平成28年度 -
平成13年度 - 平成29年度 1
平成14年度 - 平成30年度 -
平成15年度 1 令和元年度 -
平成16年度 - 令和2年度 1

出典:公正取引委員会公表資料より作成

 本件における刑事告発の対象事業者のなかには、談合に関与したとして公取委から2001年に排除勧告(現在の排除措置命令に相当するもの)を受けた事業者が含まれていますし、公取委による前回の刑事告発(大成建設らに対する件〔2018年3月23日〕)2 から2年以上が経過していました。本件は、内容とタイミングの両面において、刑事告発の対象とすることに相応の理由がある事案だったということができるでしょう。

刑事罰と課徴金・課徴金減免制度

(1)刑事罰

 本件において、公取委は検事総長に対して刑事告発を行いました。したがって、検察官による起訴と裁判所における公判手続を経て、被告発従業員に対して懲役および罰金刑(独禁法89条。懲役5年以下・罰金500万円以下)が、また被告発会社に対して罰金刑(独禁法95条〔いわゆる両罰規定〕。罰金5億円以下。併合加重により5億円を超える場合もあります)が、それぞれ科される可能性があります。

 なお、独禁法違反の刑事事件において役員・従業員が実刑判決を受けた例はなく、これまでのところ、すべての被告人に執行猶予付の判決が言い渡されています。

(2)排除措置命令・課徴金納付命令

 本件において公取委は、事業者に対して行政調査を行い排除措置命令や課徴金納付命令を行うものと見込まれます。
 排除措置命令は、違反行為をすでに取りやめている旨を関係者に通知すること、類似の行為を将来繰り返さないこと(将来不作為命令)等を主な内容とするものですが、関与者を営業部門に配属しないことを命じるなど人事異動に関する命令が加えられる例もあります。

 課徴金納付命令の額は、違反行為関連売上の10%(最大3年分)を基本とし、様々な加算・減算要素による加減算を経て算定されます(なお、2019年独禁法改正〔2020年12月25日施行〕により、独禁法違反の実行期間が改正法施行日以後に終了する事案の課徴金は上記と異なる方法によって算定されることとなりました)。

(3)課徴金減免申請

 ところで、公取委公表文 3 によれば、告発の対象となった事業者3社の従業員に加えて、「前記同様の事業を営む他の事業者…に所属して前記同様の業務に従事していた者」も談合行為に関与していたとのことです。「前記同様の事業を営む他の事業者」は、調査開始前(立入検査の前)に公取委に対して課徴金減免申請を行ったのではないかと報道されています。

 談合・カルテル行為について調査開始前かつ1番目に課徴金減免申請を行った事業者は独禁法の規定に基づき課徴金の免除(100%減額)を受けますが、公取委は、課徴金の免除のみならず刑事告発に関しても、調査開始前の1番目の申請者およびその従業員等を刑事告発の対象から除外するという方針を明らかにしています。さらに、課徴金減免申請制度導入時の国会審議において、法務省は、公取委が告発を行わなかったという事実を検察官は “十分考慮することとなる” と説明しています。
 以上のことから、調査開始前かつ1番目に課徴金減免申請をした事業者およびその役員・従業員は(調査に協力している限り)刑事罰が科されないと理解されています

コンプライアンス上の留意点

違反行為の防止とすみやかな発見

 独禁法(談合・カルテル)コンプライアンスの基本は、まずは違反行為の予防・抑止であり、各社それぞれコンプライアンスマニュアルを作成し、社内研修を行うなどして、独禁法順守を徹底しているものと思います。

 ただし、役員・従業員が独禁法遵守を心掛け、独禁法違反に手を染めないと誓っていても、同業他社から誘われて執拗な要求に屈して談合・カルテルに巻き込まれてしまうこともあり得るでしょう。談合・カルテルに巻き込まれてしまいそうになり辛い立場に追い込まれている役員・従業員が、躊躇することなく上司や法務・総務部門に報告できるような、相談しやすい窓口づくりが重要です。

 談合・カルテルへの関与が発見されるきっかけは実に多様ですが、実際のところ、立入検査を受けた事業者が社内調査を実施して “別件” を発見するなど、公取委による何らかのアクションがきっかけとなる例がかなり多いように感じます。したがって、法務・総務部門は、事業者に対する公取委のアクションやメッセージの趣旨を的確に理解する能力が問われます。このほか、会社から役員・従業員に貸与されているパソコンやメールサーバーを日々検索して談合・カルテルへの関与を発見することもあり得ますが、私用スマホ等を同僚や同業他社との連絡のため用いることができる時代ですので、この方法による独禁法違反行為の発見には限界があるように感じます。

 独禁法違反の可能性がある談合・カルテルを発見した場合には、課徴金減免申請をすべきか否か検討する必要が生じます。課徴金減免申請制度の導入から15年が経過し、様々な経験が実務家の間に蓄積されていますので、経験に基づいて具体的な対応を検討すればよいでしょう。

公取委調査への協力(調査協力減算)

 2019年改正独禁法(2020年12月25日施行)により、調査協力に基づく課徴金減算の制度が導入されました。この制度は、その実質は刑事事件における司法取引に似ていますが、形式上は課徴金減免制度の改正という方法により導入されました。

 調査協力に基づく減額は、従来から運用されている課徴金減免申請を行った事業者しか利用することができません。課徴金減免申請は独禁法違反行為を行ったことを認めなければ利用できませんので、結局、違反行為者であることを認めなければ調査協力に基づく減額を得ることもできないといえます。

 調査協力に基づく課徴金減額の制度は、課徴金リスクを低減させる新制度として注目されており、積極的に活用すべきという声もよく聞きます。しかし、違反事業者ではない事業者にとっては、課徴金リスクは本来ゼロです。それにもかかわらず違反行為への関与をすすんで認めることとして課徴金納付命令を受けることとなれば、その事業者は支払う必要のなかった課徴金を支払うこととなります(さらに、発注者から入札指名停止等の制裁を受けるでしょう)。近年は、立入検査を受けた事業者であっても排除措置命令、審判審決等において違反行為者から外される事例も珍しくありませんので、立入検査を受けても慌てることなく、違反行為への関与の有無を冷静かつ瞬時に見極めることが、本来あるべきリスク管理体制であるといえます。

 なお、以上の対応のほか、刑事告発後に刑事訴訟法における司法取引制度(協議・合意制度。刑事訴訟法350条の2以下)を利用することも考えられます。しかし、刑事告発の時点では公取委および検察官のもとにはすでに相応の証拠が揃っているでしょうから、( “別件” を発見して司法取引を打診するのでもない限り)被告発会社やその従業員等がこの制度を活用できる余地は限られるように感じられます。

業界団体への参加のあり方

 談合・カルテル事件においては、業界団体の諸会合が合意形成の重要な場であることが少なくありません。したがって、業界団体会合への参加について会員企業各社が社内報告・参加承認申請を徹底し、他方で業界団体事務局も会合内容を適切に監視するという、両面からの対策が重要であるといえるでしょう。

 もっとも、膨大な数の会合参加承認申請等が行われれば個々の内容を十分にチェックできず承認制度が形骸化してしまいかねませんので、承認申請の範囲を適切に設定するなど工夫が必要です。他方で、業界団体では独禁法に詳しい弁護士を会合に同席させて監視するという取り組みも時折みられますが(日本医薬品卸売業連合会「2021年重点事項」がその一例です)、談合・カルテル形成の場を会合前後の立ち話や懇親会等へと移行・潜行させない取り組みも重要でしょう。

取引停止

 官公需の談合事件においては、発注者が入札資格停止処分を行うことが通常であり、本件においても、地域医療機能推進機構が被告発会社3社に対して指名停止措置(24か月)を講じました(ほか1社に対する措置は留保されています)4 。なお、本件のような寡占業界における事件では、指名停止処分を受けた事業者しか供給できない商品が少なからず存在するものですので、実務上は、商品供給が途絶しないよう例外措置を設けることがあります。

 また、取引先(本件では医薬品メーカー、病院などが想定されます)にとっては、独禁法違反行為をした企業と取引を継続することはコンプライアンスの観点から問題があるかもしれません。そこで、取引停止や大幅縮小を検討する取引先が現れることが想定されます。
 しかし、裁判所の判決や公取委の排除措置命令がまだ行われておらず、それゆえ確定していない時点においては、取引停止をするか否かに関する最終的な決定を行うことは時期尚早であり、判決等の確定を待つべきであるように感じます。他方で、被告発会社など違反行為者とされた事業者は、特に違反行為への関与を否認している場合には、可能な限り詳細に取引先に対して説明を行い、取引停止措置を少なくとも当面の間思いとどまるよう取引先に対して要請することが必要となるでしょう。

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