近時増加する地盤不良・基礎不良による大規模建築物の傾斜問題と土地売主・建設業者の責任(前編)

不動産

目次

  1. はじめに
    1. 地盤・基礎不良に関する紛争の増加
    2. 地盤・基礎不良による影響の重大性
  2. 地盤と基礎に関する建築基準法令
    1. 構造耐力上安全な基礎の確保
    2. 地盤の許容応力度および基礎杭の許容支持力の調査

はじめに

地盤・基礎不良に関する紛争の増加

 近時、マンションの基礎杭が支持地盤に到達しておらずに傾斜してしまった例など、建物基礎の設計施工や地盤改良工事の不良による紛争が大きく報道されています(最近の例でいえば、北九州の例など)。その他にも同様の裁判例が数多くみられるなど、紛争となるケースは後を絶ちません。
 また、平成23年の東北地方太平洋沖地震(東日本大地震)の際などには、千葉県浦安市で大規模な液状化被害が生じたことが大きく報道されました。特に埋立地に近い立地であるなど軟弱地盤であるような場合には、地盤面の陥没・亀裂が発生したり、地下の給排水管・ガス管・排水枡等の損傷、土間コンクリートやブロック塀等の外構や建物基礎のひび割れ、建物の雨漏り、建物の傾斜等の不具合が生じることもあります。

地盤・基礎不良による影響の重大性

 特に大規模建築物における地盤・基礎不良は、建物居住者等の生命身体の安全に関わる可能性も高いため、ただちに補修工事を実施し、入居者の募集停止等の措置をとる必要があります。対応が遅れたことにより居住者等に実際に危険が生じてしまったような場合、さらなる被害の拡大やそれに伴う重大な信用の毀損を招くことになります。
 また、大規模な建築物(マンションや団地、商業ビル等)や補修対象となる物件が多数に及ぶ場合には、補修工事にきわめて多額の費用がかかる場合があり、問題となる箇所の補修にとどまらず建替えを実施する場合等、その費用が数百億円に及ぶ例もあり、経済的なインパクトもきわめて大きなものとなります。
 その他、所管官庁の大臣、都道府県知事、市町村長から、様々な行政処分・行政指導等がなされる可能性もあります。

 建築基準法に違反する不祥事事案のポイントについては、以下を参照してください。

 以下、本稿においては、地盤と基礎および液状化に関する建築基準法令について簡単に解説したうえで、土地取引における当事者の責任について2回にわたって説明します。

地盤と基礎に関する建築基準法令

 基礎は、建築物の重量等の鉛直荷重や、地震力等の水平荷重を地盤へ伝達し、不同沈下(建築物の各部が不均一に沈下する現象)を防ぐ役割を担います。
 建築基準法においては、建築物は、「自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造のもの」として決められた各基準に適合したものでなければならないとされています(建築基準法20条1項)。

構造耐力上安全な基礎の確保

(1)法令により求められる構造耐力上安全な基礎の確保

 建築物の基礎については、「建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない」と規定されています(建築基準法施行令38条1項)。
 建築物の基礎の構造は、「建築物の構造、形態及び地盤の状況を考慮して国土交通大臣が定めた構造方法を用いるものとしなければならない」とされており、特に、高さ13mまたは延べ面積3,000㎡を超える建築物で、当該建築物に作用する荷重が最下階の床面積1㎡につき100kNを超えるもの(たとえば、マンションや団地建物、商業ビル等が考えられます)の場合、建築物の基礎の構造は、基礎の底部(基礎杭を使用する場合は、当該基礎杭の先端)を良好な地盤に達することとしなければならないとされています(同条3項)。

【建築基準法施行令38条(基礎)】(抜粋)
  1. 建築物の基礎は、建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない
  2. 建築物には、異なる構造方法による基礎を併用してはならない。
  3. 建築物の基礎の構造は、建築物の構造、形態及び地盤の状況を考慮して国土交通大臣が定めた構造方法を用いるものとしなければならない
    この場合において、高さ13メートル又は延べ面積3000㎡を超える建築物で、当該建築物に作用する荷重が最下階の床面積1㎡につき100キロニュートン(kN)を超えるものにあっては、基礎の底部(基礎ぐいを使用する場合にあっては、当該基礎ぐいの先端)を良好な地盤に達することとしなければならない
  4. 前二項の規定は、建築物の基礎について国土交通大臣が定める基準に従った構造計算によって構造耐力上安全であることが確かめられた場合においては、適用しない。

(2)法令等に規定される基礎の種類

 構造耐力上安全な基礎を確保するための構造方法については、地盤の長期許容応力度(後述)ごとに採用することができる基礎の種類(基礎杭を用いた構造、べた基礎または布基礎)が規定されています(建設省告示1347号)。


【建築物の基礎の構造方法及び構造計算の基準を定める件(建設省告示1347号)】(概要)

第1
1 建築基準法施行令38条3項に規定する建築物の基礎の構造は、基本的に、地盤の長期に生ずる力に対する許容応力度に応じる。
20kN/㎡未満 基礎ぐいを用いた構造
20kN/㎡以上30kN/㎡未満 基礎ぐいを用いた構造またはべた基礎
30kN/㎡以上 基礎ぐいを用いた構造、べた基礎または布基礎

 基礎杭を用いた構造、べた基礎または布基礎の特徴については、概要以下のとおりです。


【基礎の概要】

種類 概要 特徴 地盤状況
布基礎 基礎の立上り箇所(建物の外周壁や柱等の下)に、Tの字を逆にした断面形状の鉄筋コンクリートが連続して設けられた基礎。
  • ベタ基礎に比べ鉄筋とコンクリートの量が少ないが、べた基礎の方が施工の手間が掛からない。
  • ベタ基礎より布基礎の方が重量が軽くなるため、地盤に掛かる負荷が少ない。
良い地盤
(30kN/㎡以上)
べた基礎 基礎の立上り箇所(建物の外周や柱の下)だけでなく、底部全体が鉄筋コンクリートになっている基礎。
  • 建物底部全体を鉄筋コンクリートで支えるため、不同沈下を起こしづらくなる。
  • 布基礎に比べてコンクリートと鉄筋の使用量は増えるが、施工に手間がかからない。
やや軟弱地盤
(30~20kN/㎡)
杭基礎 基礎の下に深く杭(基礎ぐい)を打ち込み、構造物を支える基礎。
  • 支持杭(主に先端支持力によって荷重を支える)と摩擦杭(主に杭の側面と地盤との間に働く周面摩擦力によって荷重を支える)がある。
  • 摩擦杭は、支持層がかなり深い場合に採用されることがある。
軟弱地盤
(20kN/㎡未満)

出典:宮崎県ウェブサイト

 もっとも、どの基礎を採用するかは建物の構造や重量等とも関係することには留意する必要があります。たとえば、木造の戸建て住宅のような場合にはべた基礎が採用されることが多くみられますが、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の建築物の場合には、建物自体の重量や建築コスト等との関係から布基礎等が用いられることもあります。

(3)地盤改良が必要となる場合

 地盤支持力が20kN/㎡以下の場合には杭基礎を採用する必要がありますが、「基礎ぐいは、構造耐力上安全に基礎ぐいの上部を支えるよう配置すること」が必要であるとされています(建設省告示1347号・第1第2項)。そのため、基礎杭を用いた構造を採用する場合には、杭の下部の地盤の強さ、杭の上部に加わる建物の荷重をそれぞれ調査・計算する必要があります。
 また、建設省告示1347号(第1第2項)に規定されている本格的な基礎杭を用いた構造規格とするには、かなりの費用がかかることから、地盤改良した上でべた基礎布基礎が採用されることもあります。
 地盤改良の方法としては、表層改良工法(表層の地盤を掘削し、石灰・セメント等の固化剤を混ぜて埋戻し転圧して固める方法)や柱状改良工法(基礎の下に位置する箇所に柱状に穴を空けて、安定した地盤までセメントを注入して固める方法)等の方法を用いるのが一般的です。

地盤の許容応力度および基礎杭の許容支持力の調査

(1)法令により求められる地盤の許容応力度の調査

① 地盤の許容応力度

 地盤の許容応力度(構造物の外力に対する安全性を確保するために定められた、対象となる部材に許容できる応力度(単位面積当たりに作用する応力の大きさ)の限界値)や基礎杭の許容支持力は、国土交通大臣が定める方法によって地盤調査を行い、その結果に基づいて定めなければならないとされています(建築基準法施行令93条)。
 同条ただし書きの表(以下の表)に記載される地盤(岩盤、粘土質地盤、砂質地盤、ローム層等)の許容応力度については、地盤の種類に応じて当該表に記載された数値によることができるとされていますが、当該数値はあくまで一般的な安定地盤を前提に設定されたものであり、地盤調査を行う前の予備的な設計のための判断材料とするか、安定した敷地上の小規模な建築物の設計に用いることが望ましいとの指摘もあります(逐条解説建築基準法編集委員会編『逐条解説建築基準法』404頁(ぎょうせい、2012))。

地盤 長期に生ずる力に対する許容応力度(1㎡つきkN) 短期に生ずる力に対する許容応力度
(1㎡つきkN)
岩盤 1000 長期に生ずる力に対する許容応力度のそれぞれの数値の2倍とする。
固結した砂 500
土丹盤 300
密実な礫層 300
密実な砂質地盤 200
砂質地盤(地震時に液状化のおそれのないものに限る。) 50
堅い粘土質地盤 100
粘土質地盤 20
堅いローム層 100
ローム層 50

※ 長期応力:設計用の長期荷重(常時の固定荷重、積載荷重(積雪荷重を含む場合もあり)等を組み合わせた、長時間にわたり作用する荷重)による応力値。

※ 短期応力:長期応力に地震、暴風、積雪等の非常時の荷重による応力を組み合わせ合成した応力値。

※ ニュートン(N):力の単位。質量1kgの物体に作用して1m/s2の加速度を生ずる力。

② 地盤調査・判定の方法

 地盤の許容応力度および基礎杭の許容支持力を定めるための地盤調査や判定の方法(計算式等)については、「地盤の許容応力度を定める方法」、「改良された地盤の許容応力度を求める方法」等が、告示(国土交通省告示1113号)で示されています。
 ここでは、液状化のおそれがある地盤の場合もしくはスウェーデン式サウンディング(後述)により自沈層がある場合には、「建築物の自重による沈下その他の地盤の変形等を考慮して建築物又は建築物の部分に有害な損傷、変形及び沈下が生じないことを確かめなければならない」と規定されています。
 また、地盤の許容応力度を確かめた場合であっても、液状化等で支持性能が不足するおそれがあると判断される場合には、地盤の有害な変形を生じないことを確かめなければならないと指摘されています(国土交通省国土技術政策総合研究所『建築物の構造関係技術基準解説書 2020年版』(全国官報販売協同組合、2020)参照)。

(2)具体的な地盤調査方法

 具体的な地盤の調査方法としては、ボーリング調査、標準貫入試験、静的貫入試験、平板載荷試験等があげられます(国土交通省告示1113号・第1)。
 地盤調査において一般的に行われているスウェーデン式サウンディング(SWS)試験は、原位置における土の静的貫入抵抗を測定し、その硬軟もしくは締まり具合または土層の構成を判定する試験であり、静的貫入試験にあたると考えられます。

【主な調査手法の概要】

調査方法 概要 長所 短所
スウェーデン式サウンディング試験(SWS試験) スクリューポイント(鋼鉄製シャフト)を回転させることにより地盤に貫入させ、25cm貫入に必要な荷重と回転数を測定することで抵抗値を求める
  • 試験装置・方法が容易
  • 試験結果をN値に換算できる
  • 深度方向に連続してデータが取れる
  • 蓄積データが多い
  • 礫・ガラ等は貫入困難
  • 調査深度は10m程度
  • 土質分類に一定の熟練を要する
ボーリング標準貫入試験 一定の深度ごとにサンプラー(鋼鉄製パイプ状のもの)を回転させながら孔を開け(ボーリング)、その位置から30cm地中に貫入させるために打ち込む打撃回数(N値)を測定することで抵抗値を求める
  • 土を採取することで土層の確認ができる
  • 適用範囲が広い
  • 蓄積データが多い
  • 作業スペースが大きい(4m×5m程度)
  • 費用が高額
平板載荷試験 直径30cmの鋼板に荷重を段階的に載せて、沈下量を測定することで地盤支持力を求める
  • 地盤支持力を直接確認できる
  • 作業スペースが大きい
  • 費用が高額
  • 深度方向の調査が困難

※ 「N値」:地盤の強度等を知るための試験結果数値。標準貫入試験値とも呼ばれるN値は、質量63.5kgのドライブハンマーを76cmの高さから自動落下させ、ボーリングロッド頭部に取り付けたノッキングブロックを打撃し、ボーリングロッド先端に取り付けた標準貫入試験用サンプラーを地盤に30cm打ち込むのに要する打撃回数のこと。


 以上、前編では、地盤と基礎および液状化に関する建築基準法令その他の規制の概要について解説しました。後編では、かかる規制の内容を踏まえて、地盤・基礎の不良に関する紛争と土地売主・建築請負業者の責任、および液状化による地盤耐力の欠陥と土地売主の責任について、裁判例等の実例を具体的に解説します。

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