近時増加する地盤不良・基礎不良による大規模建築物の傾斜問題と土地売主・建設業者の責任(後編)

不動産

目次

  1. 地盤・基礎の不良に関する紛争と土地売主・建築請負業者の責任
    1. 地盤不良や地盤沈下が生じたことを理由とする土地売主の責任
    2. 地盤調査の懈怠・対策工事の懈怠を理由とする建築請負業者の責任
  2. 液状化による地盤耐力の欠陥と土地売主の責任
    1. 液状化現象の特徴
    2. 液状化判定調査、対策の概要
    3. 液状化被害が生じた土地についての売主の責任
  3. さいごに

 前編では、地盤と基礎および液状化に関する建築基準法令その他の規制の概要について解説しました。後編となる本稿では、かかる規制の内容を踏まえて、地盤・基礎の不良に関する紛争と土地売主・建築請負業者の責任、および液状化による地盤耐力の欠陥と土地売主の責任について、裁判例等の実例を具体的に解説します。

地盤・基礎の不良に関する紛争と土地売主・建築請負業者の責任

 前編1−1で説明したとおり、売買対象地や建物建築工事の対象地について地盤不良や基礎不良のために、地上建物が傾斜・倒壊し、または壁面や基礎に亀裂が入るなどして、紛争に発展する例は数多くみられます。
 このような場合、地盤不良や基礎不良の生じた土地建物の売主は、買主に対して瑕疵担保責任・契約不適合責任等を負う場合があります。また、地上建物の設計者や施工者等は、地盤調査を行ったうえで地盤の性状に応じて適切に地盤補強等を行ない、当該軟弱地盤に対応することのできる基礎を選択、施工する義務等を負うため、発注者等に対して損害賠償責任を負うことがあります。

 地盤や基礎に関するトラブルの原因としては、以下があげられます。

  • 軟弱地盤であること自体の欠陥
  • 地盤調査の欠陥
  • 地盤対策工事の懈怠
  • 地盤改良工事・基礎工事の選択ミス
  • 地盤改良工事・基礎工事の施工不良等

 特に、大規模な建築物(マンションや団地、商業ビル等)の地盤不良や基礎不良については、補修工事にきわめて多額の費用がかかる場合があるほか、建替えを実施する必要がある場合等もあることから、その費用が数百億円に及ぶ例もあるなど経済的なインパクトもきわめて大きなものとなります。
 以下、詳細について説明します。

 なお、大規模建築物(商業ビルや共同住宅)の基礎杭が支持地盤にまで到達しておらず建物が傾斜したケース等における責任については、「建築基準法違反の設計・施工事案から考える、不正の早期発見と調査等のポイント」を参照してください。

地盤不良や地盤沈下が生じたことを理由とする土地売主の責任

 地盤不良や基礎不良によって対象地の地耐力が不十分となり、建物の不同沈下が生じる場合のほか、地盤面の陥没・亀裂、地下の給排水管・ガス管・排水枡等の損傷、土間コンクリートやブロック塀等の外構や建物基礎のひび割れ、建物の雨漏り等の不具合が生じることもあります。
 一般に、土地の売買においては、建物建築が念頭に置かれており、売買目的物としての土地は、基本的に建物の存立を維持できる機能(崩落、陥没等のおそれがなく、地盤としての安定した支持機能を有していること)が求められます(東京高裁平成15年9月25日判決・判タ1153号167頁)。
 そのため、土地売主について、地盤不良や基礎不良を理由として以下のような責任が認められています。

(1)地盤不良であることを理由とする損害賠償

  • 地盤改良工事を実施しないままこれらの箇所に建物の荷重がかかると地盤沈下が発生する可能性が高いような軟弱地盤である場合、対象地の売主は買主に対して瑕疵担保責任を負うことがあります(名古屋高裁平成22年1月20日判決・裁判所ウェブサイト等)。
  • なお、この点に関し、地盤沈下による建物の被害が生じた土地には基本的安全性を欠く瑕疵があるとされ、土地の売主等は契約関係のない第三者に対しても不法行為責任を負うと判断された事例もあります(仙台高裁平成22年10月29日判決・判例秘書L06520591)。

(2)地盤不良を理由とする土地売買契約の解除

  • 建物の基礎工事について抜本的なやり直しが必要となり、経済的合理性が認められる範囲内で修補できないような場合に、契約の解除が認められこともあります(東京地裁平成13年6月27日判決・判タ1095号158頁等)。

(3)地盤の状況についての調査・説明義務違反を理由とする損害賠償

  • 対象地の地盤の状況について、土地売主の説明責任を認めた例があります(東京地裁平成25年3月22日判決・Westlaw2013WLJPCA03228003等)。

 売主としては、売買契約書や重要事項説明書において認識している地盤状況から地盤改良を要する(可能性がある)場合にはその旨を明記することを検討する必要があります。そのうえで、売買代金の減額や瑕疵担保責任・契約不適合責任の免除等の条件について検討することが必要となります。また、事後的に紛争になった場合に備え、具体的な協議の過程を記録化しておくことも重要になります。
 他方で、買主としては、地質調査や地盤調査を実施する際には、埋立地・沖積地・谷地等に該当するか、過去に切土・盛土等造成工事を行った履歴があるか等を調査することが必要となります。事案に応じ専門業者への調査を依頼する必要もあります。

地盤調査の懈怠・対策工事の懈怠を理由とする建築請負業者の責任

 建物を建築するにあたって土地の地盤強度等の調査や、地盤強度に対応する建物の基礎の構造をとるような措置または地盤の改良措置を十分に検討しなかった場合、地盤調査・対策が不十分であった場合には、建物建築業者に賠償責任が認められるケースがあります(福岡地裁平成11年10月20日判決・判時1709号77頁等、東京地裁平成29年3月24日判決・判タ1459号231頁、大阪地裁平成23年3月15日判決・欠陥住宅判例集6巻546頁等)。

  • 基礎の長期許容支持力が安全ではなくこれに対応するための杭基礎等の特別な基礎工事が実施されていなかったことを理由に、地盤に対応する基礎が施工されなかったと判断された事案があります(神戸地裁洲本支部平成18年3月31日判決・欠陥住宅判例集4巻316頁)。
  • 重要な構造部分において建築確認を受けた建築物の計画書、設計図書と異なる工事が実施されたような場合、使用される鉄筋量が少なくなっているような場合には、建物建築業者等の責任が認められることがあります(最高裁平成15年11月14日判決・民集57巻10号1561頁等)。
  • 設計図書その他で合意された基礎の根入れの深さや基礎の幅に反した施工がなされたことを理由に損害賠償が認められることもあります(長野地裁諏訪支部平成18年5月11日判決・欠陥住宅判例集4巻528頁等)。
  • 基礎コンクリートの強度不足やかぶり厚不足(建築基準法施行令79条等)の施工を理由に損害賠償が認められることがあります(東京地裁平成19年6月29日判決・Westlaw2007WLJPCA06298011等)。もっとも、かぶり厚不足があればただちに瑕疵・契約不適合にあたるというわけではなく、瑕疵・契約不適合にあたるかどうかを判断するためには、コンクリート強度や耐久性にどのような影響を与えるのか等についての具体的な検討が必要となります。

液状化による地盤耐力の欠陥と土地売主の責任

液状化現象の特徴

(1)液状化現象とは

 液状化現象とは、大きな地震が発生した場合等に、地盤が揺さぶられることで一時的に液体のようになる現象です。裁判例において、以下のように説明されています。

(参考)【液状化とは】(東京地裁平成16年2月12日判決・判例秘書L05930583参照)

 液状化とは、大きな地震が発生した場合等に、地下水位が高く緩い砂地盤において粒子間の水圧が急上昇して強度を失い、液体のようになる現象をいう。
 液状化は、水分を含んだ緩い砂質の地盤で発生しやすい現象であり、このような地盤では、地震が発生する前には、砂粒同士が接触していることによって建築物を支えているが、地震が発生して地盤が強い振動を受けると、それまでに互いに接して支え合っていた砂粒が崩れ、より詰まった状態に変化しようと移動する。このとき、砂粒の間に含まれている水は、周りの砂から力が加えられ、水圧(間隙水圧)が上昇するが、砂粒間の圧力と間隙水圧が等しくなると、砂粒が浮き上がり液体状になる。このような状態が液状化であり、砂地地盤又は地中に支持されていた構造物は支えを失い、地上の重い構造物は沈下し、軽い構造物は浮上する。
 液状化が発生した場合には、一般的に、地中の間隙水や砂が地上に噴き出すことがあり、噴出した砂または間隙水の体積の分だけ、地盤全体の体積が減少することから、地盤沈下が起こることがある。このように、液状化現象は、地盤が液体状になる現象であるから、地盤上又は地中に支持されていた構造物は支えを失い、被害を受けることとなる。
 一般に、粘土で構成された地盤は、粘土が粘着力を有することから、粒子相互の接触が失われるということは起こりにくく、液状化現象は起こりにくいとされており、礫で構成された地盤も、粒子が大きいことから、液状化現象は起こりにくいとされている。他方で、液状化は、粒子が細かいシルトで構成された地層、緩く堆積した地層、地下水位が高い地層等で発生しやすいとされており、海辺や埋立地ではこれらの条件がそろっていることが多く、大きな地震が起こった場合に液状化が発生しやすい。

出典:浦安市液状化対策技術検討調査委員会「浦安市液状化対策技術検討調査報告書」(平成24年3月)43頁

(2)液状化現象による被害

 液状化現象が発生した場合、地中の間隙水や砂が地上に噴き出すことがあり、噴出した砂または間隙水の体積の分だけ、地盤全体の体積が減少することから、地盤沈下が起こることがあります。このように、液状化現象は、地盤が液体状になる現象であるから、地盤上または地中に支持されていた構造物は支えを失い、被害を受けることとなります。
 湾岸付近の埋立地等において地盤改良工事が不十分であった場合や適切な基礎(杭)が設置されなかった場合に、大きな地震を契機に地盤の液状化が生じ、地下の給排水管・ガス管・排水管等の損傷、土間コンクリートやブロック塀等の外構や建物基礎のひび割れ、建物の雨漏り、建物の傾斜等の不具合が生じることがあります。
 同現象は、いわゆる新潟地震(昭和39年)で建物の倒壊や架けられて間もない橋が崩落する等の被害が出たことではじめて注目されたもので、最近では、平成23年の東北地方太平洋沖地震(東日本大地震)の際に、千葉県浦安市で大規模な液状化被害が生じています。
 同市によると、液状化は市の8割超の約1,455ヘクタールに及び、住宅は一部損傷を含め約9,000棟が被害を受けたとされています。
 マンションや商業施設等の大型の建物では、基礎杭を堅固な支持層まで到達するように打つ(杭基礎)ことで被害を免れましたが、個人の宅地や街路については、建物が傾く等したほか、共用部分を含む敷地内の多くの場所で液状化により砂が噴出して地面が陥没し、共用部分の吸水管・ガス管が破損する等の大きな被害を受けたと報道されています。

液状化判定調査、対策の概要

(1)液状化対策に関する法令等

 建築基準法19条2項では、「湿潤な土地、出水のおそれの多い土地又はごみその他これに類する物で埋め立てられた土地に建築物を建築する場合においては、盛土、地盤の改良その他衛生上又は安全上必要な措置を講じなければならない」とされています。
 また、構造計算を必要とする建築物(建築基準法20条1~3号、同法6条1項1~3号)については、「地震時に液状化するおそれのある地盤の場合」に「建築物の自重による沈下その他の地盤の変形等を考慮して建築物又は建築物の部分に有害な損傷、変形及び沈下が生じないことを確かめなければならない」とされています(国土交通省告示1113号・第2)。
 そのため、実務的には、ハザードマップによる調査やSWS試験を用いて土質と地下水位を確認することにより、液状化によって発生する地表面の変状の程度を推定すること等による液状化判定、その他ボーリング調査による液状化判定等が行われています。

(2)液状化の対策方法

  1. 地盤改良工事
    液状化対策には、液状化現象発生を防止するものと、液状化現象発生を前提とした構造物対策が存在しますが、液状化現象発生を防止するためには地盤改良工事を実施する必要があります。
    上記地盤改良工事には、大別して、( i )締固め、( ii )固化(セメント系の固化剤で地盤を固化する。)、( iii )排水(高い透水性の材料を柱上または壁状に打設して、間隙水圧の上昇を消散させる。)の3種類の工法が存在し、その中でも、( i )の締固め工法の1つであるSCP工法は、軟弱地盤中に砂を圧入し、締め固めた砂柱を造成して地盤の密度を高め、強度増加を図るものであり、液状化対策工法として多くの実績を残していることが指摘されています。

    なお、宅地造成に関しては、都市計画法(法33条、同施行令28条)や宅地造成等規制法の規制が問題となる場合があります。盛土をする場合、地盤に雨水や地下水等が浸透して、緩み、沈下、崩壊や滑りが生じないように、おおむね30cm以下の厚さの層に分けて土を盛り、ローラー等を用いて締め固め、必要に応じて地滑りを防ぐくい等の措置を講ずることが義務付けられています。

  2. 構造物についての対策
    他方で、液状化現象発生を前提とする対策としては、地中壁、杭基礎およびべた基礎の設置等の手法が存在します(昭和63年発刊の日本建築学会「小規模建築物基礎設計の手引き」、平成20年発行の「小規模建築物基礎設計指針」参照)。

液状化被害が生じた土地についての売主の責任

 埋立地等において、土地建物の売買や建築請負に際して必要な液状化対策を行っていない場合、売主や工事請負人等は瑕疵担保責任・契約不適合責任等の責任を負う可能性があります。
 液状化対策が必要となる場合として考えられるのは、当事者間で明示的に合意がある場合のほか、建築当時の技術的知見に照らし、建物の構造・規模、地域、用途等の具体的な事情から液状化対策が必要とされる場合があります。液状化対策工事が必要な場合には、建築当時の法令・技術的知見や、建物規模・構造、用途等に照らして、適切な工法が選択される必要があります。
 なお、東日本大震災による液状化が生じた浦安市では、同市所在の分譲住宅の買主らが、売主等の地盤改良義務の懈怠により液状化被害を被ったとして損害賠償を求めた一連の事案において、売主の責任はいずれも否定されています(最高裁平成28年6月15日決定・判例集未搭載)。この裁判例では、東日本大震災において千葉県浦安市に到達した地震の規模は震度5強だったようですが、これまでの専門的知見に照らしても予測できない長時間の揺れを伴う特異な地震(長時間地震動)やこれによって液状化が生じることが予見不可能であったことが売主等の責任を否定する理由とされています。
 もっとも、このような大地震や建物被害を経た現時点においては液状化に関する知見が当時よりも高まっており、今後は同種の事案であっても責任が肯定される可能性はあります。そのため、売主としてはその時点の知見に基づき適切に液状化に対する調査対策を実施しておくことが有効であると考えられます。

さいごに

 以上、2回にわたり、前編においては、地盤と基礎および液状化に関する建築基準法令その他の規制の概要について、後編においては、かかる規制の内容を踏まえて、地盤・基礎の不良に関する紛争と土地売主・建築請負業者の責任、および液状化による地盤耐力の欠陥と土地売主の責任について、裁判例等の実例を具体的に解説しました。

 地盤不良・基礎不良の問題は、地上建物および居住者の生命身体の安全性に直結する問題であり、その対策費用も極めて高額となり、数百億円単位に膨らむ例もみられます。そのため、企業として慎重に対応すべき問題であることはいうまでもありません。

 以上の詳細については、井上治著『不動産再開発の法務〔第2版〕 – 都市再開発・マンション建替え・工場跡地開発の紛争予防 – 』(商事法務、2019年)、53~56頁、355~361頁も参照してください。

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