不動産・M&A取引におけるアスベスト・石綿のリスクと実務上の留意点(2020年法改正対応)

不動産

目次

  1. はじめに
  2. アスベストに関する規制
  3. 不動産取引・M&A取引におけるアスベスト・石綿のリスクと実務上の留意点
    1. 建物売買時の買主・売主のリスク
    2. 建物売買契約後の買主のリスク
    3. 土地売買時の売主のリスク

はじめに

 不動産取引やM&Aで買収した会社が保有する土地や建物に環境有害物質が含有されており、これによって買主から対策費用についての賠償請求がなされたり、当該建物を使用する者らから健康被害を理由とする損害賠償請求がなされたりするなどの紛争となる事例が多くみられます。そのなかでも多くのトラブルがみられるのがアスベスト(石綿)です。
 アスベスト(石綿)耐熱性、耐薬品性に優れており機械的強度もあることから、かつては、吹付耐火被覆、スレート、プラスチックタイル、煙突の内貼材、空調ダクトのフレキシブル継手、パッキン、通気配管用のセメント管などに使用されていました
 アスベストは重大な健康被害を生じさせる可能性があり、アスベストが露出する建物で勤務していた者が悪性胸膜中皮腫に罹患した事例でテナントビルのオーナーの責任を認めた最高裁判決(最高裁平成25年7月12日判決・判時2200号63頁)1 やアスベスト製品の製造工場で勤務していた者らが石綿肺・肺がん・中皮腫等の石綿関連疾患に罹患した事例で労働基準法等に基づく規制権限を行使しなかったことを理由に国家賠償を認めた最高裁判決(最高裁平成26年10月9日判決・判タ1408号32頁)2 が出るなど大きな問題となっています。
 また、アスベスト(石綿)の飛散防止対策を強化するために、改正大気汚染防止法が2020年5月29日に成立するなど、有害な環境汚染としてさらに広く認知されるに至っています。

 以下では、不動産取引やM&A取引の際に問題になることが多いアスベスト・石綿(アスベストによる土壌汚染)に関する規制とM&A取引時や土地・建物取引時における実務上の留意点について解説します。
 なお、本稿で紹介する裁判例はごく一部のものであり、その他数多くの裁判例が存在することにはご留意ください。

 本稿は、2020年8月時点までに入手した情報に基づいて執筆したものであり、また具体的な案件についての法的助言を行うものではないこと、とりあげる裁判例について必ずしも賛同するものではないことに留意してください。

アスベストに関する規制

 アスベストの規制は複数の法律によって規律されています。具体的には、アスベストを取り扱う労働者の健康確保を目的とする労働安全衛生法等の規制が存在しており、一般環境への汚染防止を目的とする大気汚染防止法のほか、建築基準法廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」といいます)等により建築物の建築、解体・改修の際におけるアスベストの厳格な管理が求められています。

法令名 条文
労働安全衛生法 55条、施行令16条1項4号、同9号 等
石綿障害予防規則 6条~10条 等
じん肺法 2条1項3号、施行規則2条、別表24号 等
大気汚染防止法 2条8項(施行令2条の4)、2条12項等 3
建築基準法 28条の2、別表第二(る)1項30号
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法) 施行令2条の4第5号ト、施行規則1条の2第9項、1条の3の3、7条の2の3等
特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法) 施行令別表第一33号

 2006年(平成18年)9月からは、労働安全衛生法施行令の改正により、アスベストおよびアスベスト含有物(重量の0.1%を超えて含有するもの)の製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止されることになりました(労働安全衛生法55条、労働安全衛生法施行令16条1項4号、同項9号)。その半年前の同年3月には、石綿による健康被害の救済に関する法律(以下「アスベスト新法」といいます)が施行されました。同法は、アスベストによる被害者等の迅速な救済を図ることを目的として(アスベスト新法1条)、医療費等の支払等について規定しています(アスベスト新法3条以下)。アスベスト新法の制定に伴い、大気汚染防止法、建築基準法および廃棄物処理法等が改正されています。
 これらの詳細については、猿倉健司「アスベスト・石綿による規制と土壌汚染の法的責任(2020年法改正対応)」、井上治・猿倉健司「所有地から発見された石綿(アスベスト)に関する法令上の規制」も参照してください。

 また、2020年(令和2年)5月29日に改正大気汚染防止法が成立し、原則として石綿含有建材の有無にかかわらずすべての建物について解体・改修の前に業者が石綿の有無を調べ、都道府県などに報告することを2年以内に義務化することとなりました(事前調査結果の報告)。また、石綿を使用した建材(これまでは規制の対象ではなかった成形版等)も新たに規制の対象としてすべての石綿含有建材に拡大し、アスベスト(石綿)の飛散防止対策を強化することとしています 4
 報道では、かかる法改正によって飛散防止策が必要な解体・改修工事は現在の20倍に増える見込みであることも指摘されています 5

不動産取引・M&A取引におけるアスベスト・石綿のリスクと実務上の留意点

 不動産(土地・建物)を売買・賃貸借する場合や、企業売買(M&A)によって当該企業の資産である不動産(土地・建物)が譲渡される場合、取引の当事者には様々なリスクが生じ得ます。
 なお、上記のとおり、紹介する裁判例は数ある裁判例のごく一部のものであり、その他数多くの裁判例が存在することにご留意ください。

建物売買時の買主・売主のリスク

 まず、建物売買において、対象建物にアスベストが含有していた場合には、買主・売主に法的リスクが生じます
 たとえば、ある建物を譲渡した売主は、当該建物にアスベストが含有されていたこと(またはその説明義務違反)を理由として、買主に対して損害賠償責任を負うリスクがあります(東京高裁令和元年5月16日判決・判例地方自治461号58頁)。
 なお、この事例で留意すべきは、売主にアスベストについての説明義務違反が認められたことはもとより、買主にも過失があるとして過失相殺により4割もの減額が認められているということです(約8,683万円の損害のうち過失相殺によって約3,473万円のみが認められています)。

東京高裁令和元年5月16日判決・判例地方自治461号58頁

【事案の概要】
土地建物の売買契約締結後に解体予定の建物にアスベストが残存していたことが判明した等として、アスベスト除去費用等の支払義務が認められた事案
【判示の概要】
  • 売主、買主となる入札参加事業者が適切に決めた入札価格で入札することができるよう、物件調書の記載により入札対象である不動産に関する基本的な情報を正しく提供すべきであり、入札参加事業者として通常求められる知識・能力を有していれば本件建物に使用されたアスベストがすべて除去済みであるとの誤解を生じないような態様で、建物のアスベストに関する情報を提供する信義則上の義務(説明義務)を負っていたというべき
  • 買主は、物件調書の記載や内覧会での応対等により、建物のアスベスト除去費用の負担がないとの誤解を生じて前記の入札価格で入札をすることを決めて売買契約を締結したことになるから、売主に説明義務違反があった
  • 売買契約では、原則として買主が自ら対象物件の情報を収集することが求められていたことを考慮すると、買主と売主の過失の割合は6割:4割である

 これに対し、下記裁判例(東京地裁平成24年8月9日判決・判例秘書L06430159)においては、契約時点(平成11年)における取引実務や調査実務を根拠にして売主の説明義務を否定していますが、近時になるに至りアスベストの危険性の社会的認知や調査・取引実務は進んでいることから、今後の実務においては売主の説明義務が、以前よりもより認められやすくなっているということに留意すべきです。

東京地裁平成24年8月9日判決・判例秘書L06430159

【事案の概要】
土地建物を購入した契約の8年後に建物の建替え時に、同土地に高濃度のヒ素が存在し同建物にアスベストが使用されていたことが判明した等として、不法行為に基き、ヒ素除去・アスベスト除去費用等の支払を求めた事案
【判示の概要】
  • アスベスト建材使用の有無は、平成11年当時、建物の取引価格に重大な影響を与える事由であったとは解されない
  • なお、買主は、昭和30年ころ建築された建物を病院として使用するために購入するにあたり、アスベスト建材使用の有無を被告に聞き、または、自ら調査するなどして確認することなく売買契約を締結していることからも、売買契約締結当時、昭和30年代に建築された建物であれば売買にあたってアスベスト使用の有無を調査するのが通常であったとはいえない
  • 売主に、売買契約締結の際、建物のアスベストの現況を調査し、事前にアスベスト除去工事を行うか、または、本件建物がアスベストを含有することを買主に説明する義務があったとはいえない

建物売買契約後の買主のリスク

 ある建物を取得しそれを賃貸した場合、買主は、当該建物の賃借人らから賃貸借契約等に基づき、建物内のアスベストの対策工事ないし同工事費用相当額の支払いを求められるリスクがあります(東京地裁平成27年12月4日判決・判例秘書L07031302)。
 対策工事の具体的方法については(また工事相当額の費用を算出するにあたっては)、基本的に、複数ある工法の中から合理的な手法が選択されることになります。各手法にかかる費用には大きな幅があることから、どのような方法を採るかによって経済的な負担が大きく変わってくることになります。対策工法の選択については、対象物件その他の条件によっても異なり、専門家の意見を踏まえて慎重に決定することが必要となります。実際の紛争においても、専門家の意見が対策方法の選択に決定的な影響を与える場合があります。

東京地裁平成27年12月4日判決・判例秘書L07031302

【事案の概要】
建物の賃借人が賃貸人に対し、賃貸借契約上の修繕義務に関する合意に基づき、建物から検出されたアスベスト等の対策工事の実施、賃貸人に代わって支払った修繕費用約1,770万円の支払等を求めた事案
【判示の概要】
  • 労働安全衛生法施行令および石綿障害予防規則が0.1%を超えるアスベスト含有物の製造・使用を全面的に禁止しているところ、建物の梁やデッキの各吹付材からこれを超えるアスベスト含有物が検出されたことから、建物の所有者兼賃貸人としてアスベストの飛散防止処置を講じる義務を負う
  • アスベスト飛散防止処置には、除去工法、封じ込め工法ないし固化工法および囲い込み工法の3工法があるところ、封じ込め工法ないし固化工法を実施すると既存耐火被覆材の剥落をさらに進める恐れがあること、除去工法はアスベスト含有建材が完全に除去されるので、最も確実に建物を安全にする工法であるものの、外壁に面した柱等と外壁間の耐火被覆材は外壁を取り外さないと撤去できないという短所があること、囲い込み工法は計画の自由度が制限されるのみならず、建物の取り壊し時には改めて除去工事が必要になるという短所があることを併せ考えると、外壁を取り外さなければ耐火被覆材を撤去することができない部分については囲い込み工法を、その他の部分は除去工法を採用するのが相当である

 上記裁判例においては、各工法には以下のようなメリットデメリットがあると指摘されています。

メリット デメリット
除去工法 アスベスト含有建材が完全に除去されるので、最も確実に建物を安全にする工法である 壁に面した柱等と外壁間の耐火被覆材は外壁を取り外さないと撤去できない
封じ込め工法ないし固化工法 既存耐火被覆材の剥落をさらに進める恐れがある
囲い込み工法 計画の自由度が制限される
建物の取り壊し時には改めて除去工事が必要になる

 また、建物の賃貸人は賃借人らから、アスベストの存在を説明する義務違反や、賃貸借契約上の使用収益義務(民法601条)および修繕義務(民法606条1項)の違反を理由とする損害賠償請求や、賃貸借契約の錯誤無効が主張されるリスクがあります(東京地裁平成21年4月30日判決・判例秘書L06430159)。

東京地裁平成21年4月30日判決・判例秘書L06430159

【事案の概要】
建物賃貸借契約における賃借人から賃貸人に対し、アスベスト除去工事期間などの説明義務違反、建物にアスベストが存在するために同建物を全く使用収益することができなかったとする賃貸借契約上の債務不履行、賃貸借契約の錯誤無効などの主張がなされた事例
【判示の概要】
  • 建物賃貸借契約締結にあたり、対象建物にアスベストが用いられている場合、アスベストが人の健康に重大な影響を及ぼす可能性のあることが社会常識となっている昨今、貸主としては、アスベストの存在や調査等により知り得た情報があるのであれば、それを事前に借主に情報提供すべき信義則上の義務を有するというべきであり、かかる義務は、本件賃貸借契約締結時である平成17年10月の時点でも同様であったと認めるのが相当である
  • しかし、一方で、貸主としては、アスベストの存在および認識していた事実を借主に伝えれば、借主において、アスベストに関する工事の選択肢(完全除去工事、封じ込め等)や工事費用、工事期間等を事前に調べて、賃貸借契約を締結すべきか否かを判断する機会を十分に与えられたことになると思われるので、貸主が現状で認識していない事実についてまでもさらに調査をして、借主に対して情報提供をする義務までは負担していないと解するべきである

 さらに、建物の買主(建物の所有者ないし当該建物を賃貸した賃貸人)は、直接の契約関係にない者との間でも、工作物責任(民法717条1項)に基づき、建物内のアスベストに起因する健康被害を罹患した者から損害賠償の支払いを求められるリスクがあります(大阪高裁平成26年2月27日判決・判タ1406号115頁(最高裁平成25年7月12日判決・判時2200号63頁 6 の差戻し控訴審))。

大阪高裁平成26年2月27日判決・判タ1406号115頁

【事案の概要】
文房具の販売等を業とする会社が建物を店舗として賃借して営業していたところ、昭和45年から平成14年まで勤務していた者同店舗で稼働していた取締役店長(A)が貸建物内で稼働中、建物内部に吹き付けられたアスベストの粉じんに曝露したため悪性胸膜中皮腫に罹患し自殺を余儀なくされたとして、その相続人が建物の所有者・賃貸人(承継人Y)に対し、工作物責任(民717条1項)等に基づいて損害賠償(合計約6,000万円)が認められた事案
【判示の概要】
  • 遅くとも、昭和62年中に全国紙が相次いで吹付けアスベストの危険性を報道し、これに呼応して各地で吹付けアスベストの除去工事が行われるようになったこと、建設省が同年11月に建築基準法令の耐火構造の指定から吹付けアスベストを削除したこと、環境庁・厚生省が昭和63年2月に都道府県に対して吹付けアスベストの危険性を公式に認め建物所有者への指導を求める通知を発したことなどから、同時期頃には、建築物の吹付けアスベストの曝露による健康被害の危険性およびアスベストの除去等の対策の必要性が広く世間一般に認識されるようになり、同時点で、本件建物は通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになった
  • 石綿粉じん曝露と中皮腫などの石綿関連疾患との間には累積曝露量が多くなればなるほど発症のリスクは確実に高まるという関係が認められることなどを根拠に、石綿粉じん曝露と取締役店長の中皮腫発症との間の因果関係は高度の蓋然性をもって立証されている

土地売買時の売主のリスク

 上記3−2と同様に、ある土地を譲渡した売主は、当該土地下の土壌中にアスベストが含有されていたことを理由として買主から損害賠償の支払いを求められるリスクがあります
 土壌中のアスベストが法令により直接規制されることがないとしても、不動産(土地)取引の相手方(土地の買主)に対して損害賠償責任を負うことがあることには留意が必要です。

 たとえば、廃棄物処理法においてアスベスト含有廃棄物の規制基準が規定された後に土地売買契約がなされたところ、同土地内からアスベスト含有物(スレート片)が発見されたケースで、瑕疵担保責任を理由に約59億円もの損害賠償請求が認められた裁判例があります(東京高裁平成30年6月28日判決・判時2405号23頁)7
 また、土地上の建物内のアスベストの有無に関し正確な情報を提供すべき義務があったにもかかわらず、アスベストの有無に関し誤った情報を提供していたとして、情報提供義務違反を認めた裁判例もあります(大津地裁平成26年9月18日判決・判例秘書L06950444)。

 他方で、土壌汚染対策法で規制されていない有害物質を理由とする損害賠償等の請求が否定された裁判例もあります。たとえば、東京地判平成24年9月27日・判時2170号50頁のほか、土壌中から発見されたトルエン・キシレンについて、法令上の規制対象ではなかったことを理由に「瑕疵」にあたらないと判断され、売主に対する対策費用の請求が認められなかった裁判例などがあります(東京地裁平成22年3月26日判決・ウエストロージャパン2010WLJPCA03268023)。

 これらの裁判例によれば、契約時点で法令等の規制対象とはなっていない有害物質については、原則として「瑕疵」「契約不適合」にはあたらないと判断される可能性が高いことになります。もっとも、法令上の規制対象となっていない環境汚染や廃棄物(基準が明確ではない場合も同様です)の取り扱いについて、売買契約書等においてどのように規定するのかによって取引当事者が負う責任が変わりうるため、慎重な対応が必要となります。

 なお、土壌中から発見されたアスベスト含有物について、対象地の売買契約の錯誤無効を認めたケースもあります(東京地裁平成27年4月13日判決・判例秘書L07030486)。
 仮に売買契約書において、瑕疵担保責任(契約不適合責任)制限特約があるなど、契約文言から一見すると売主に対する責任追及が難しそうに見える場合であっても、具体的な事案によってはそうとは限らないことは、十分認識しておく必要があります

 その他、数多くの裁判例が近時続々と出ていますが、これらの詳細については、猿倉健司「アスベスト・石綿による規制と土壌汚染の法的責任(2020年法改正対応)」、井上治・猿倉健司「購入した土地から石綿(アスベスト)が発見された場合の土地売主に対する責任追及」も参照してください。


  1. 事案の内容は後述 ↩︎

  2. 石綿(アスベスト)製品の製造・加工等を行う工場において、石綿製品の製造作業等または運搬作業に従事したことにより、石綿肺・肺がん・中皮腫等の石綿関連疾患にり患したと主張する元従業員らが、石綿関連疾患の発生またはその増悪を防止するために労働基準法および労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことが違法であるなどと主張して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案 ↩︎

  3. なお、2014年(平成26年)より、吹付け石綿等が使用されている建築物の解体、改造、補修作業の実施の届出義務者の変更等、石綿飛散防止対策が強化されているので注意が必要です。 ↩︎

  4. 環境省プレスリリース「大気汚染防止法の一部を改正する法律案の閣議決定について」(令和2年3月10日)》 ↩︎

  5. 共同通信「「アスベスト対策強化の改正法成立 工事前の調査・報告義務化」(2020年5月29日) ↩︎

  6. 最高裁平成25年7月12日判決・判時2200号63頁は、「吹付け石綿を含む石綿の粉じんにばく露することによる健康被害の危険性に関する科学的な知見及び一般人の認識並びに様々な場面に応じた法令上の規制の在り方を含む行政的な対応等は時と共に変化していることに鑑みると、Y(建物の所有者・賃貸人)が本件建物の所有者として民法717条1項ただし書の規定に基づく土地工作物責任を負うか否かは、人がその中で勤務する本件建物のような建築物の壁面に吹付け石綿が露出していることをもって、当該建築物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになったのはいつの時点からであるかを証拠に基づいて確定した上で、更にその時点以降にA(取締役店長)が本件建物の壁面に吹き付けられた石綿の粉じんにばく露したこととAの悪性胸膜中皮腫の発症との間に相当因果関係を認めることができるか否かなどを審理して初めて判断をすることができるというべきである」として、本件建物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになったのはいつの時点からであるかを明らかにしなかった二審について審理不尽を理由に破棄し差し戻しました。 ↩︎

  7. 被告から物流ターミナルの建設を目的として平成19年12月に土地を買い受けた原告が、土地から発見されたスレート片が石綿を含有していたと主張して、スレート片の撤去および処分費用並びに建設工事が遅れたことに伴う追加費用等の支払を求めた事案 ↩︎

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する