守れるかゲーム文化のエコシステム ゲーム実況ネタバレ対策の裏にあった作り手と弁護士の思い

知的財産権・エンタメ
梅田 慎介 株式会社イザナギゲームズ

目次

  1. 映画とゲームが融合した新しいエンターテインメントコンテンツ
  2. ネタバレ防止を狙ってリリース前にアナウンス
  3. 侵害者への法的対応から本人への接触に成功
  4. ゲーム会社のガイドラインを読む前に押さえておきたい著作権法の前提
  5. ゲーム文化のエコシステムを維持するために

予告編を見て気になっていた映画の結末を偶然、動画投稿サイトで知ってしまったら……、それでもあなたは映画館に足を運び、映画を観たいと思いますか。

今、動画投稿サイトでは、プレーするゲームにユーザーが自ら実況し、視聴者とゲーム体験を共有する「ゲーム実況」が一大ジャンルを形成。ユーザー同士が技を競い合う対戦ゲームでは販売増につながる効果が期待できる一方で、ストーリー性の強いアドベンチャーゲームでは、ゲーム映像がそのまま配信される「ネタバレ」による売上の機会損失が問題となっています。

ゲームのプロモーションと著作権保護という、相反する2つの目的を両立させることは可能なのでしょうか。

2020年6月にリリースされたゲーム『デスカムトゥルー』では、発売から数か月の間に動画投稿サイト上に、「ネタバレ」を含むゲーム実況動画が300本以上配信されました。違法なゲーム実況を行った人物の特定と接触に成功した中島 博之弁護士とイザナギゲームズ代表取締役/プロデューサーの梅田 慎介氏に話を聞きました。

映画とゲームが融合した新しいエンターテインメントコンテンツ

まずは『デスカムトゥルー』というゲームの特徴を教えてください。

梅田氏:
今回の作品では映画とゲームの融合を目指しました。日本のアドベンチャーゲーム界のトップクリエーターである小高 和剛さんと組み、映画とゲームが融合した「インタラクティブコンテンツ」を出したいと思いました。そのため価格も1,960円に設定しています。

『デスカムトゥルー』公式ウェブサイトより

『デスカムトゥルー』公式ウェブサイトより

映像のクオリティが非常に高いにもかかわらず、価格が低く抑えられている点に新鮮な驚きを感じました。

梅田氏:
映画で視聴する価格を目指したのです。物語のルートは大きく分けて2つあり、それぞれのルートをスタートしてからエンディングまでおよそ2時間。これも映画と同じくらいの長さをイメージしています。そこにインタラクティブ性を入れて没入感を高めながら、ゲーム的な遊び方もできるのが、今回の『デスカムトゥルー』という作品です。

主演の本郷奏多さんや栗山千明さん、佐藤二朗さんをはじめ、俳優陣も実に豪華な顔ぶれですね。

梅田氏:
大手の芸能事務所の協力を得ながら、キャスティングにも力を入れました。

『デスカムトゥルー』の以前にも映像とゲームを融合させたインタラクティブな作品はあったのでしょうか。

梅田氏:
いくつかありますが、静止画ベースでストーリーが進んでいくものが一般的でした。我々は今回、フルムービーにチャレンジしています。監督には「日向坂46」のミュージックビデオなどを撮られた安藤隼人さんを迎え、一線級の映像クオリティを追求しました。

かなりの額の制作費を投下されたと推察します。

梅田氏:
予算規模では映画と遜色ないレベルだと思います。

ネタバレ防止を狙ってリリース前にアナウンス

そもそも「ゲーム実況」とはどういうものなのでしょうか。

中島弁護士:
ゲーム実況とは、たとえば、ゲームのプレー画面をそのまま動画投稿サイトにアップロードしたり、ゲームの実況にテロップをつけて攻略動画として配信するものなど、ゲームの種類や配信者によって様々なパターンがあります。

『デスカムトゥルー』をリリースするにあたって特に注力されたことの1つに、「ネタバレ対策」があったとうかがいました。詳しく教えていただけますか。

梅田氏:
制作段階で小高さんから中島先生を紹介していただき、ネタバレ対策について相談していました。中島先生からは、我々が新しいインタラクティブコンテンツづくりに挑戦している以上、著作権の問題はしっかりと定義しておいたほうが良いというアドバイスをいただきました。

イザナギゲームズ代表取締役/プロデューサー 梅田 慎介氏(左)、東京フレックス法律事務所 中島 博之弁護士

イザナギゲームズ代表取締役/プロデューサー 梅田 慎介氏(左)、東京フレックス法律事務所 中島 博之弁護士

中島弁護士:
事前に何も注意せずに、大量の違法アップロードに事後対応するより、事前にアナウンスをしておいたほうが、侵害が減って対応コストも減るだろうという思いもありました。

梅田氏:
そこで、作品のリリース前に「弊社の事前承認のない違法な動画のアップロードについて、中島弁護士とともに対応をしていくことになりました。」という表現の書面を中島先生と連名で発表しました 1

Twitterでのリリース

Death Come True Official(デスカムトュルー公式)Twitter画面

プレー動画のアップロードと生放送の公開禁止がTwitterで発表されるとゲームファンの間では賛否両論が飛び交った。

侵害者への法的対応から本人への接触に成功

それでも、リリース直後からネタバレ動画のアップロードが相次ぎました。

中島弁護士:
6月下旬の発売から11月までの間に、300件以上の違法アップロード動画を確認しました。「注意書きはあるけどバレないだろう」といったケースや、「注意書きなど関係ない。俺が宣伝してやっているんだ」といった勝手な判断で違法アップロードをするケースもありました。

中島先生はどのような対応をとったのでしょうか。

中島弁護士:
ゲーム実況に関しては、まず、発売されたばかりのゲームのエンディングを最速で見せようという投稿者が大勢現れます。一般的に発売直後のゲームのエンディング映像やムービーシーンは視聴回数を稼ぎやすいためです。そのため、イザナギゲームズさんと私が協力してパトロールを行い、アップロードされた動画のリストを作りました。発売後の1、2か月は特に集中的に削除請求などの対応をしました。

東京フレックス法律事務所 中島 博之弁護士

今回は、違法なゲーム実況を行った人物が特定できたそうですね。

中島弁護士:
Youtube, LLCはアメリカにある会社ですので、アメリカの法律に則って、アメリカの裁判所に申立てを行い、情報開示に関する裁判所命令を取得して、YouTube側から削除していただいたという流れです。

その投稿者との接触にも成功されました。どのように本人と接触されたのでしょうか。

中島弁護士:
本人の身元がわかった段階で、まずは私がメールで連絡しました。

中島弁護士が送ったメールの内容(抜粋)

貴殿が警告を殊更に無視してライブ配信を続行したことなどから、悪質性が高いとして著作権侵害を受けたことに対し刑事告訴を検討しております。反省等がある場合、直ちに当職まで連絡ください。

中島弁護士:
すると、侵害者本人から「すみません」と返事がきました。まずは本人に直接会ったうえで、その後の対応を決めることになりました。そして、会社の方と私とで面談を行いました。結果的には、本人の反省態度等を踏まえて刑事告訴は見送りました。

多くの違法アップロードが確認されたなかで、なぜその投稿者の投稿をより悪質と判断されたのでしょうか。

中島弁護士:
作品の冒頭で主演の本郷奏多さんが、動画の違法アップロードに関してアナウンスをしています。

主演の本郷奏多さんが「Death Come Trueでは、ネタバレ防止のため、プレイ動画、生放送公開の自粛をお願いしております。より多くのお客様に本作を楽しんでいただくため、ご理解、ご協力をよろしくお願い致します。」とユーザーに向かって呼びかける

作品冒頭では、主演の本郷奏多さんが「Death Come Trueでは、ネタバレ防止のため、プレイ動画、生放送公開の自粛をお願いしております。
より多くのお客様に本作を楽しんでいただくため、ご理解、ご協力をよろしくお願い致します。」とユーザーに向かって呼びかける。

中島弁護士:
これを聞いて、侵害者本人は「ゲーム実況できないんだって。困ったな」ということをずっと話していました。そして、視聴者に対して「どうする? やる?」といったことを言い、しばらく悩んだあとに「まあ、やろっか」といった感じで違法アップロードを行い、エンディング近くまでの映像を長時間にわたってそのまま配信し続けていた点が、特に悪質性が高いと判断しました。

その人物はこれまでにもゲーム実況を行ってきたのでしょうか。

中島弁護士:
主に対戦型ゲームの実況をしてきた方で、ストーリー性のある作品の実況は初めてだったようです。

対戦型ゲームの場合、実況動画のアップロードに対してゲーム会社は一般的にどのような対応をとるのでしょうか。

中島弁護士:
基本的に、対戦型ゲームはゲーム体験を売りにしており、1戦1戦、違う試合が対戦相手と展開されます。そのため、ネタバレがあったから買わないという人がおそらく存在しません。その点が、ストーリー性がありエンディングのあるゲームとは違う点です。対戦型ゲームの場合は、ユーザーにゲーム実況を配信してもらったほうが、ゲームのファンのコミュニティが盛り上がりますし、新たなユーザー獲得にもつながります。eスポーツなどもそうですが、対戦型ゲームではゲーム実況を推奨している面があると思います。

今回、侵害者が特定されたことや、違法アップロードされた実況動画が数多く再生されたことについて、ゲーム会社の立場からどのように感じていましたか。

梅田氏:
「ゲーム実況は全面的にやって良い」という誤った意識があまりにも広がってしまっていると感じています。我々は今回、映画的なインタラクティブコンテンツを製作しました。「映画を実況しても問題ないと思いますか」と聞けば、ほとんどの人は「NO」と言うでしょう。

ゲーム会社のガイドラインを読む前に押さえておきたい著作権法の前提

それではここで、ゲーム実況者の立場からゲーム実況を考えてみたいと思います。まず、実況者は何をモチベーションにゲーム実況を行うのでしょうか。

中島弁護士:
広告収入を稼ぐことのほか、承認欲求を満たすといったことが、モチベーションとしてあげられると思います。実は私もゲーム愛好家で、「Xbox 360」のリアルタイムストラテジー(RTS)というジャンルのゲームで、世界3位だったことがあります。たとえば、2対2のオンラインゲームでスーパープレーをしても、そのプレーの映像を見られるのは、私と味方、対戦相手の合計4人だけです。でも、それを他の誰かにも見てもらいたい、意見をもらいたいと思う気持ちは、私自身もよくわかるのです。

しかし、ストーリー性のあるゲームの実況は、先ほど梅田さんが例にあげた映画実況と何ら変わりません。他人の著作物である映像をそのまま流し、自分の承認欲求を満たしながら、お金も稼ぐという行為ですから、到底許される行為ではありません。

ゲーム実況でのネタバレに関して、各ゲーム会社はどのように対策しているのでしょうか。

梅田氏:
それぞれのゲーム会社がガイドラインを出して対策を講じています。しかし、ユーザーがガイドラインの内容を理解するのが面倒であったり、理解しきれていないケースも少なくないようです。実効性のあるルールのあり方については今、中島先生とともに模索していますが、そのなかに、「ガイドラインをわかりやすくする」というアイデアがあります。ゲームの対象年齢を表示するCEROレーティングマーク 2 のようなイメージで、Aというマークは「すべて実況可」、Bは「一部実況可」、Cは「すべて実況不可」として、Bの場合はどこが実況して良いかを明記するというものです。

それはわかりやすいですね。

中島弁護士:
ゲーム実況に関しては、「任天堂がOKしている」といった風潮がありますが、それは間違っています。任天堂のガイドライン 3 をよく読むと、最初に「ガイドラインを守って実況されたものに関しては、著作権侵害を主張しない」といった内容が書いてあります。

任天堂「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」
(2018年11月29日)(抜粋)

任天堂は、個人であるお客様が、任天堂が著作権を有するゲームからキャプチャーした映像およびスクリーンショット(以下「任天堂のゲーム著作物」といいます)を利用した動画や静止画等を、適切な動画や静止画の共有サイトに投稿(実況を含む)することおよび別途指定するシステムにより収益化することに対して、著作権侵害を主張いたしません。ただし、その投稿に際しては、このガイドラインに従っていただく必要があります。あらかじめご了承ください。

中島弁護士:
「著作権侵害を主張いたしません」という表現から読み取れるように「許諾します」ということではなく、これは「お目こぼしをしています」という建て付けなのです。ゲームの映像は、もともと法律で「映画の著作物」4 として扱われます。許諾なくアップロードすれば、映画の違法アップロードと同様に著作権侵害となります。

つまり、ガイドラインがあろうがなかろうが、映像をそのまま無許可で動画投稿サイトにアップロードした場合は違法になるという大前提があります。ただ、あまりにもゲーム実況が増えてきた状況に対して、任天堂は「ガイドラインを遵守する限り、侵害処置はしません」という立場を示しているのではないかと思います。また、任天堂はこれからも拡大するであろうゲーム実況市場の健全な発展のためにも、ガイドラインを策定しているのではないかと思います。

「ガイドラインを出しているから、そのゲーム会社はOKしている」と見られがちですが、そうではないのです。ストーリーのネタバレにあたる映像の配信やムービーシーンを繋ぎあわせただけの配信については、ガイドラインを出しているゲーム会社も「NO」いうことは明記していることが多いです。そこの理解が追いついていない部分があるようです。

ゲーム文化のエコシステムを維持するために

最後に、作り手と法律家の立場からユーザーへのメッセージをお願いします。

梅田氏:
ユーザーの皆さんにお伝えしたいのは、我々はユーザーの皆さんの権利を侵害したいとは、まったく思っていないということです。クリエイターの作品をお金を払って楽しんでいただいている皆さんには、本当に感謝しかありません。ゲーム文化は、クリエイターさんにきちんと利益が還元され、我々パブリッシャーにも一生懸命作って売ったメリットがあり、また次の作品を作ることができるというエコシステムです。ゲーム実況をするときは、ゲームのタイプによっては映画と同じ性質の作品もあるということだけ意識していただければありがたいですね。

イザナギゲームズ代表取締役/プロデューサー 梅田 慎介氏

エコシステムが壊れてしまえば、ストーリー性のあるゲームは作りにくくなりますね。イザナギゲームズでは今後、どのようなコンテンツを生み出していきたいとお考えですか。

梅田氏:
次回の『冤罪執行遊戯ユルキル』という作品は、漫画『賭ケグルイ』の原作者である河本ほむら先生に原作を担当していただいたストーリー性重視の作品なのですが、『スターソルジャー』や『雷電』のような、シューティングゲームのパートがあります。今回は、「ネタバレにつながるストーリーパートの最終章のみ実況禁止だけど、あとは全面的に実況OK」としようと考えています。

すべてのゲームが「実況NG」というわけではないのですね。

梅田氏:
我々としても、ゲームの種類によっては、「どんどん実況してください」と言いたいものもあります。もちろん、「ここだけはやめてください」とか「この作品は全面的にやめてください」というケースはありますが、決してユーザーさんを抑え込んだり、ゲーム実況そのものを否定しているわけではないのです。その点はユーザーの皆さんにお伝えしたいと思います。

中島弁護士:
いろいろなコンテンツがネットを通じて無料で⼿に⼊る時代になったことで、昔と⽐べて著作権に対する価値観、特に著作物に対価を支払うという認識や、クリエイターに対するリスペクトの意識が変わってきているのかもしれません。しかし私は、絵が描けないので、クリエイターの皆さんをとてもリスペクトしていますし、素晴らしいコンテンツには相応の対価が支払われ、クリエイターに還元されてほしいと思っています。不適切なコンテンツの利用がなくなり、ゲーム⽂化が豊かなものになるよう、私も法律家の⽴場から今後もお⼿伝いできればと思います。
(写真:弘田 充、取材・文・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)

『デスカムトゥルー』公式ウェブサイト

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