オンライン診療・オンライン服薬指導、電子処方箋の概要と異業種からの参入傾向 オンライン医療サービスへの参入における注意点(前編)

その他
森田 樹理加弁護士 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 平井 健斗弁護士 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業

目次

  1. はじめに
    1. オンライン診療について
    2. オンライン服薬指導について
    3. 電子処方箋について
  2. 近時の傾向 - 異業種の参入
  3. 異業種からの新規参入時の注意点

はじめに

 オンライン医療を利用することで、従来対面または書面で実施されていた医療サービスについて、患者が医療機関等に足を運ばずに実現することが可能となります。最近は、新型コロナウイルス問題により、このようなオンライン医療が急激に脚光を浴びています。

 オンライン医療には、①オンライン診療(医師による診療行為のオンライン化)、②オンライン服薬指導(薬剤師による服薬指導のオンライン化)、③電子処方箋(処方箋の電子化)という3つの要素があり、オンライン医療を可能とするためには、これらの要素を押さえることが重要となります。

オンライン医療

オンライン診療について

 従来、患者の居宅等との間の遠隔診療については、無診療治療等の禁止を定める医師法20条の規定から、原則として診察は対面診療であることと解されていました(いわゆる「対面診療の原則」)。

 しかし、厚生労働省通知の発出等により徐々に規制緩和され、現在では、厚生労働省が策定した「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下「オンライン診療指針」といいます)により限定的な状況下におけるオンライン診療が容認されており、さらに、令和2年4月10日には、新型コロナウイルスの全国的な蔓延を踏まえて、厚生労働省医政局医事課、厚生労働省医薬・生活衛生局総務課事務連絡「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」(以下「本0410事務連絡」といいます)が発出され、オンライン診療指針では原則として認められていなかった初診からのオンライン診療が認められるなど、オンライン診療を保険診療として利用できる範囲が拡大されています

オンライン服薬指導について

 薬剤師法では、薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売または授与の目的で調剤したときは、患者または現にその看護にあたっている者に対し、必要な情報を提供し、および必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならないとする、いわゆる服薬指導に関する規定が定められています(同法25条の2)。

 加えて、令和2年9月における改正法施行前の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下「薬機法」といいます)には、薬局開設者は、薬剤師に、対面かつ書面を用いた服薬指導を行わせなければならないとの定めがあり(改正前薬機法9条の3第1項)、原則として、医薬品の交付を受ける際には、薬局にて薬剤師による服薬指導を対面で受けることが求められていました。

 ところが、平成28年9月に改正された国家戦略特別区域法及び厚生労働省関係国家戦略特別区域法施行規則において、上記の対面による服薬指導の義務に対する特例として、国家戦略特区における遠隔服薬指導が初めて可能となりました。平成30年には、国家戦略特区の愛知県、福岡市および兵庫県養父市において、初の遠隔服薬指導薬局が認定されており、令和元年には、同じく国家戦略特区の千葉市においても遠隔服薬指導が実施されています。

 また、オンライン診療と同様に、本0410事務連絡において、電話や情報通信機器を用いた遠隔での服薬指導が(国家戦略特区に限らず)全国的に認められました。これに加えて、令和2年9月1日に施行された改正薬機法9条の3第1項により、法律上もテレビ電話等を用いた遠隔での服薬指導が可能となりました(なお、本0410事務連絡と改正薬機法では、オンライン服薬指導が認められる要件に違いがあります)。

電子処方箋について

 処方箋についても、医師法22条に定める医師の処方箋交付義務を根拠に、書面での処方箋交付が原則とされてきましたが、厚生労働省は、平成28年3月に関連省令を改定するとともに「電子処方せんの運用ガイドライン」を策定し、これにより同年4月より電子処方箋が解禁されています(同ガイドラインは令和2年4月に改訂されています)。


オンライン医療に関する指針、ガイドライン

対象 指針、ガイドライン 概要
オンライン診療 オンライン服薬指導 電子処方箋
厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(平成30年3月(令和元年7月一部改訂)) 平成30年度診療報酬改定でオンライン診療に対する評価が新設されたことを受けて、保険診療および自由診療として実施されるオンライン診療の運用ガイドラインとして定められたもの。オンライン診療に関して、最低限遵守する事項および推奨される事項並びにその考え方を示し、安全性・必要性・有効性の観点から、医師、患者及び関係者が安心できる適切なオンライン診療の普及を推進することを目的に、無診察治療などを禁じる医師法20条や個人情報保護法などとの関係上、オンライン診療の実施にあたって遵守すべき事項が整理されている。
厚生労働省医政局医事課、厚生労働省医薬・生活衛生局総務課事務連絡「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」(令和2年4月10日) 新型コロナウイルス感染症が拡大し、医療機関の受診が困難になりつつあることに鑑みた時限的・特例的な対応として、電話や情報通信機器を用いた診療や服薬指導等の取扱いを定めている。
厚生労働省保険局医療課事務連絡「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その10)」(令和2年4月10日) 上記事務連絡に基づき電話や情報通信機器を用いた診療や服薬指導等を実施する場合の診療報酬の取扱いを定めている。
厚生労働省「電子処方箋の運用ガイドライン(第2版)」(令和2年4月30日) 地域に電子処方箋に対応した薬局がある場合において、フリーアクセスを確保し、かつ患者が自分自身の処方情報を確認できることを前提として、これまでの処方箋電子化の実証事業の成果等も踏まえ、電子処方箋に係る運用を整理している。

近時の傾向 - 異業種の参入

 令和2年7月17日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針 2020」(いわゆる「骨太の方針2020」)でも、「オンライン診療について、電子処方箋、オンライン服薬指導、薬剤配送によって、診察から薬剤の受取までオンラインで完結する仕組みを構築する。」との記述があるように、政府もオンライン医療を積極的に推し進める姿勢を示しており、オンライン医療は今後さらに発展していくものと思われます。

 もっとも、個々の医療機関や薬局が独自にオンライン医療の仕組みを作るのは難しいことから、非医療業界であるITや通信事業系など異業種からの参入が見られます。以下は、近時のオンライン医療サービスへの代表的な参入事例です。

近年の異業種からのオンライン医療サービスへの参入事例

企業名 参入サービス概要
ヘルスケアテクノロジーズ株式会社
(ソフトバンク株式会社のグループ会社)
オンライン健康医療相談や病院検索、一般用医薬品などの購入がワンストップでできるオンライン健康医療相談サービス「HELPO(ヘルポ)」を提供
LINEヘルスケア株式会社 ワンストップで診療が可能なオンライン診療サービス「LINEドクター」を提供予定
ANAホールディングス等 国内初のオンライン診療、オンライン服薬指導、ドローンによる処方箋医薬品配送という一連のサービスの実証実験を実施
株式会社ジュピターテレコム ケーブルテレビを活用したオンライン診療の実証実験を福岡と東京で実施
株式会社MG-DX
(株式会社サイバーエージェントの子会社)
オンライン服薬指導に必要な予約受付や処方箋確認、服薬指導までをワンパッケージで提供する、薬局・ドラッグストア向けのデジタル化支援サービス「AI薬師」を提供

 上記のとおり、今後ますます異業種からのオンライン医療サービスへの参入が予測されるところですが、ここで注意しなければならないのは、医療業界には、他の業界にはみられないような多くの規制があり、サービスの差別化を図って付加価値を付けようとすると、その内容によっては規制に抵触するおそれがあるということです

異業種からの新規参入時の注意点

 異業種からの新規参入時に注意すべき項目としては、医療機器/医行為該当性、オンライン診療指針、保険適用、広告規制、個人情報の取扱いなどがあげられます。概要は下表のとおりですが、本稿の後編では特に注意が必要と思われるポイントについて説明します。

 なお、医療業界は許認可が必要な事業が多いですが、自らオンライン診療や調剤行為、服薬指導を実施するのではなく、単にオンライン診療やオンライン服薬指導の場となるプラットフォームを提供するのみであれば、それ自体に必要とされる許認可はありません


異業種からの新規参入時に注意すべき規制等

項目 概要/注意点
許認可の要否 オンライン診療、オンライン服薬指導の場となるプラットフォームの提供のみであれば基本的に許認可は不要。
開発アプリ(プログラム)の医療機器/医行為該当性 オンライン医療サービスに関するアプリを開発する場合、当該アプリが疾病の治療、診断等に寄与する程度によっては、医療機器に該当する可能性がある。医療機器に該当する場合、薬機法に基づく許認可が必要となる。
また、事業者または開発アプリが医行為に該当するサービスを提供するものである場合、医師法違反となる点にも注意する。
オンライン診療指針
(オンライン診療と遠隔健康医療相談)
オンライン診療は、オンライン診療指針の適用を受けるが、医行為に至らない遠隔健康医療相談についてはオンライン診療指針の規制を受けないため、参入障壁の低い遠隔健康医療相談事業からスタートすることも1つの選択肢として考えられる。
保険適用 オンライン診療に公的医療保険(社会保険、国民健康保険など)を適用するためには、オンライン診療指針を遵守することに加え、別途定められている保険適用の要件を満たす必要がある。日本の診療は、原則的に保険診療を前提として行われているため、保険診療も事業の対象とするか、自由診療のみを対象とするかもビジネス上のポイントとなりうる。
広告規制 医療機関等の広告については、医療機関等ではない一般の事業者や個人であっても医療法における広告規制の適用を受けるため、サービスに医療機関等の広告(口コミ等)を含める場合、医療法違反とならないように広告の内容や表示方法に注意する。具体的な規制内容については、「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針」(医療広告ガイドライン)を確認する。
個人情報の取扱い 患者の情報には、要配慮個人情報が含まれる可能性があるため、個人情報保護法に抵触しないよう特に注意する。具体的な注意点については、医療・介護関係事業者向けに発出されている「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」を確認する必要がある。

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