令和6・7年政治資金規正法改正の概要と変更点
その他
目次
政治資金規正法は、政治団体の届出や政治資金の収支の公開、政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受の規正等について定めた法律です。自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる収支報告書の不記載問題を契機として、令和6・7年にかけて政治資金規正法の改正が相次いで行われました。
3つの改正法によって行われた改正の概要は、国会議員関係政治団体の代表者の責任や政治資金監査の強化等、デジタル化の推進による透明性向上、政治資金パーティーに関する規正強化、政策活動費に関する対応など、7項目にわたります。本稿では、これらの改正項目について解説します。
政治資金規正法改正の概要
改正の背景と経緯
令和5年11月頃から、自由民主党のいわゆる派閥などの一部が、政治資金パーティーの対価に係る収入の一部を収支報告書に記載していなかったこと、また、派閥に所属する一部の国会議員の政治団体が派閥から受け取った寄附の一部を収支報告書に記載していなかったこと等が問題とされました。これを受け、令和6年1月26日に召集された213回常会では、政治資金規正法(以下単に「規正法」といいます)の改正が重要なテーマとなり、「政治資金規正法の一部を改正する法律」(令和6年法律第64号。以下「第1弾改正法」といいます)が成立しました。
また、令和6年10月27日執行の衆議院総選挙後、216回臨時会においては、いわゆる政策活動費を禁止する「政治資金規正法の一部を改正する法律」(令和7年法律第1号。以下「第2弾改正法A」といいます)が成立するとともに、第1弾改正法の附則に規定された項目等の検討結果として提出された法案のうち、「政治資金規正法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第2号。以下「第2弾改正法B」といいます)が成立しました。
213回常会 | 令和6年法律第64号 | 第1弾改正法 |
216回臨時会 | 令和7年法律第1号 | 第2弾改正法A |
令和7年法律第2号 | 第2弾改正法B |
なお、第2弾改正法の審議中の令和6年12月17日に、衆議院政治改革に関する特別委員会理事会が行った「企業・団体献金禁止法案については、衆議院政治改革特別委員会において精力的に議論を行い、令和6年度末までに結論を得る。」との申合せに基づき、今国会(217回常会)では、企業・団体献金のあり方が議論されているところですが、本稿執筆時点において成立した法律はなく、以下では、上記3つの改正法について説明します。なお、文中意見にわたる部分は、すべて筆者の私見であることをお断りします。
主な改正項目
主な改正項目は以下のとおりです。
改正項目 | 施行日 | 適用開始 | 改正法 |
---|---|---|---|
① 国会議員関係政治団体の代表者の責任の強化等 |
令和8年1月1日 | 令和8年分収支報告書 | 第1弾 |
② 政治資金監査の強化 |
令和8年1月1日 ※ 3号国会議員関係政治団体(政策研究団体)の届出は令和7年10月1日 |
令和8年分収支報告書 | 第1弾 |
③ 政治資金の透明性の向上のためのデジタル化の推進 |
収支報告書等のインターネット公表:令和8年1月1日 | − | 第1弾・第2弾B |
オンライン提出義務・データベース化:令和9年1月1日 | データベース化:令和10年4月1日 | ||
④ 政治資金パーティーに関する規正強化 |
対価の支払方法の制限:令和8年1月1日 | 開催・対価支払共に令和8年1月1日以後 | 第1弾・第2弾B |
対価支払者の氏名等の公開基準額の引下げ・外国人等の対価支払禁止:令和9年1月1日施行 | 開催・対価収受共に令和9年1月1日以後 | ||
⑤ いわゆる政策活動費に関する対応 |
渡切り経費支出の禁止:令和8年1月1日 政党から公職の候補者個人への寄附禁止:令和9年1月1日 |
− | 第1弾・第2弾A |
⑥ 国会議員関係政治団体から寄附を受けたその他政治団体の透明性確保 |
令和8年1月1日 | 令和8年分収支報告書 | 第1弾 |
⑦ 政党選挙区支部の代表者による当該支部への寄附の税制優遇適用除外 |
令和8年1月1日 | 令和8年1月1日以後の寄附支出 | 第2弾B |
今後の関係政省令の改正等
今後、令和6・7年政治資金規正法改正法の施行に向けて、政府において、規正法施行令、規正法施行規則等の関係政省令の改正が行われるとともに、政治資金適正化委員会において、政治資金監査に関する具体的な指針(政治資金監査マニュアル)の改定が行われることが予定されています。
国会議員関係政治団体の代表者の責任の強化等【第1弾改正法】
代表者の監督内容の具体化・罰則の強化
令和8年1月1日施行・令和8年分収支報告書から適用
今般の政治資金問題の要因の1つとして、「代表者である国会議員の責任範囲が不明瞭であった結果として、言い逃れを許容していた 1」点が挙げられました。この点について、改正前の規正法では、収支報告書等に不記載等があった場合において、政治団体の代表者が当該政治団体の会計責任者の選任及び監督、すなわち選任と監督の双方について相当の注意を怠ったときに限って刑事罰の対象とされており(25条2項)2、政治家本人の責任を問いにくい規定とされていたことが、問題とされました。
そこで、
- 国会議員関係政治団体の代表者は、収支報告書の記載に係る会計責任者の職務が規正法の規定に従って行われるよう、当該国会議員関係政治団体の会計責任者を監督しなければならないとされたうえで(19条の12の2)、
- 国会議員関係政治団体の代表者は、随時又は定期に、㋐会計帳簿、明細書、領収書等、領収書等を徴し難かった支出の明細書等、振込明細書、残高確認書及び差額説明書が保存されていること、㋑会計帳簿には収入及び支出の状況が記載されており、かつ、会計責任者が当該会計帳簿を備えていることを確認しなければならないこととされました(19条の12の3)。
- そして、
イ 国会議員関係政治団体の会計責任者は、収支報告書を提出するときは、あらかじめ、当該国会議員関係政治団体の代表者に対し、収支報告書が規正法の規定に従って作成されていることについて、収支報告書及びこれに併せて提出すべき書面を示して説明しなければならず(19条の14の2第1項)、
ロ 国会議員関係政治団体の代表者は、②の随時・定期の確認の結果及び③イの会計責任者の説明の内容並びに登録政治資金監査人の政治資金監査報告書に基づき、当該国会議員関係政治団体の会計責任者が規正法の規定に従って収支報告書を作成していることを確認し、その旨を記載した確認書を会計責任者に交付しなければならず(19条の14の2第2項)、
ハ 国会議員関係政治団体の会計責任者は、収支報告書を提出するときは、ロにより代表者から交付された確認書を収支報告書に添付しなければならず、この交付された確認書の添付をしなかった者は、50万円の罰金に処することとされました(19条の14の2第4項及び25条5項関係)。
- そのうえで、収支報告書の不記載等があった場合において、確認書を交付せず、又は確認をしないで確認書を交付した者は、刑事罰の対象とされました(25条3項)。
あわせて、会計責任者が説明をせず、又は虚偽の説明をした場合や、代表者による確認を妨げた場合について、刑事罰の対象とされるとともに、(25条4項)、会計責任者が妨げたことにより確認ができなかった代表者については、刑事罰の対象から除かれました(25条3項)。この趣旨については、「御懸念は、いわゆる会計責任者等のおとり行為あるいは裏切り行為に対するものだと思っております……監督義務違反に対する罰則の強化を図る中で、その悪用により、有権者の判断による選挙結果を覆す公民権停止が発動されることがないようにすることは極めて重要だと考えております」3 と答弁されています。
なお、この改正事項に関して、「検討過程におきましては、連座制の導入も検討いたしましたものの……法律の専門家から規正法への導入は困難であるとの指摘がございました。すなわち、第一に、近代刑法の根本原理である責任主義、これは責任なければ刑罰なしとの法理でございますけれども、そういった法理から刑罰における連座制は否定されること、第二に、公選法上の連座制は、選挙運動が悪質で、当選に至るプロセスに瑕疵があった場合に、刑罰や公民権停止ではなく、当選無効、立候補制限となるものであるとの指摘でございました。したがいまして、規正法違反の場合は、そもそも選挙それ自体とは関係がなく、公選法と同様の連座制を設けることは法理として困難であるとの指摘がございました。そこで、今回の改正案におきましては、より実効的な再発防止策といたしまして、第一に、日常的に会計実務を担い専門性を有する会計責任者に収支報告書を記載させ、第二に、会計責任者に収支報告書について説明をさせ、そして第三に、高度の専門性を有する政治資金監査人の政治資金監査を受けた上で、第四に、代表者が確認をすることとし、かつ、代表者、会計責任者の双方に罰則付きの義務を課すこと、さらに最後に、第五にといたしまして、不記載等に係る収入の国庫納付制度を設けることともいたしました」4 と答弁されています。国会議員関係政治団体の代表者による確認書の交付については、その義務違反につき刑事罰だけでなく公民権停止の対象ともされており、国会議員の失職という効果も有するという点で、公職選挙法の「連座制」と共通の効果を有していると考えられます。
収支報告書の不記載等に係る収入等の国庫納付
令和8年1月1日施行・令和8年分収支報告書から適用
国会議員関係政治団体の収支報告書に記載すべき収入の金額の全部・一部の記載がなかった場合又は収支報告書に記載すべきでない支出の金額の記載があった場合において、当該収支報告書が公表されている間に、当該国会議員関係政治団体がそれらに相当する金額の範囲内の金銭を国庫に納付するときは、その納付による国庫への寄附については、公職の候補者等の寄附の禁止等の規定(公職選挙法199条の2~199条の5)は、適用しないこととされました(19条の16の2)。
この趣旨については、「収支報告書の不記載、虚偽記入などがあったときは、このような金銭につきましては、政治団体による国民へのおわびの意思、いわば贖罪として国庫に寄附することができますよう、国会議員関係政治団体が不記載、虚偽記入相当額の範囲内の金銭を国庫に納付するときは、その納付による国庫への寄附について、公選法の寄附禁止の適用を除外する」と答弁されています 5。また、この対象や実効性については、「具体的にどのような場合に国庫納付をするかなどにつきましては、各党の党内ルールにより規定されるものと考えております。……その違反に対しては、党則、党規律規約に基づき処分の対象となることから、法律で納付を強制しなくてもその実効性は十分に確保することができる、このように考えております」6 と答弁されています。
なお、検討の過程では、収支報告書の不記載等に係る収入について、刑事罰の没収の対象とし、強制的に国庫納付させる制度も検討されたとされています。この点については、国会審議において、「適法な資金である以上、憲法29条の財産権の侵害にも当たり得る」7、「刑事法の体系上限界がある」8 との発言があったところです。加えて、後者については、政府参考人から、「刑罰としての没収に関する基本規定である刑法19条1項……の規定の趣旨は、危険なものが犯人の手元にとどまることにより、再び犯罪行為と関連を持つに至るのを防止すること及び犯罪による利得を剥奪することにあるなどと解されております。政治団体が寄附等を取得した場合、その時点でその金銭は適法なものでございますところ、それを政治資金収支報告書に記載しなかった場合等においても、その不記載額等に相当する金銭については、不記載罪等の犯行に直接用いられたものではないことなどから、仮にこれを刑罰として没収することとした場合には、刑法等の刑事法において没収の対象とはされていない類型の財産を没収することとなります。そのため、政治資金収支報告書の不記載額等に相当する金銭を刑罰として没収することについては、現行の刑法を中心とした刑事法体系上整合すると言えるのかなど、様々な観点からの慎重な検討を要するものと考えられます」9 と答弁されています。
政治資金監査の強化【第1弾改正法】
国会議員関係政治団体の範囲の拡充
令和8年1月1日施行・令和8年分収支報告書から適用。ただし、届出は令和7年10月1日から施行
政策研究団体(5条1項1号)については、政治資金監査の対象となる国会議員関係政治団体の定義から明示的に除外されており(改正前19条の7第1項)、「適用される規制がそもそも甘かった点」が、今般の政治資金問題の一因とされました 10。
そこで、政策研究団体も、国会議員関係政治団体に含め、政治資金監査等の適用対象とされました(19条の7第1項3号)。
政治資金の預貯金保管、政治資金監査の拡充等
令和8年1月1日施行・令和8年分収支報告書から適用
「不正の温床になり得る現金での管理というものが法律上も許容されていたこと」ことや、「国会議員関係政治団体であったとしても、これまで外部監査の対象が支出のみで、収入がその対象外であった、それゆえに分からなかった、こういったことがあったこと」が、今般の政治資金問題の一因とされました 11。
そこで、
- 国会議員関係政治団体の政治資金については、国債証券等又は金銭信託による運用に係るものを除き、銀行その他の金融機関への預貯金の方法により保管するものとされ(19条の8の2)、
- ㋐国会議員関係政治団体の会計責任者は、政治資金監査を受けるまでの間に、収支報告書に記載すべき翌年への繰越しの金額が、収支報告書に記載すべき年の12月31日等における預貯金口座の残高を確認することができる「残高確認書」に記載された残高の額と一致しているかどうかを確認しなければならないこととされるとともに、㋑国会議員関係政治団体の会計責任者は、㋐の確認により翌年への繰越しの金額が預貯金口座の残高の額と一致しないことが判明したときは、政治資金監査を受けるまでの間に、その旨及びその理由を記載した「差額説明書」を作成しなければならないこととされたうえで(19条の11の2第2項)、
- 登録政治資金監査人による政治資金監査において確認する事項として、「残高確認書及び差額説明書に基づいて翌年への繰越しの状況が収支報告書に表示されていること」を追加することとされました(19条の13第2項5号)。
この点については、「収支報告書におきまして、収入の総額というのは、前年からの繰越額と本年の収入額を加えたもの、そこから支出の総額を引いた金額が翌年への繰越しの金額となります。本改正案におきましては、国会議員関係政治団体につきまして、保有する金銭について、まず、銀行等への預貯金の方法での保管を義務づけると同時に、その預貯金口座の残高の額が翌年への繰越しの金額と一致をすることを確認することにより、収入全体についても適切な政治資金監査が行われる」12 と答弁されています。
政治資金の透明性の向上のためのデジタル化の推進【第1弾改正法・第2弾改正法B】
収支報告書等のオンライン提出義務
令和9年1月1日施行
政党本部・政治資金団体の収支報告書並びに国会議員関係政治団体に係る収支報告書、政治資金監査報告書及び確認書について、オンライン提出が義務付けられました(14条3項、19条の15)。
収支報告書等のインターネット公表・データベース化
総務大臣・都道府県選挙管理委員会は、すべての政治団体に係る収支報告書、政治資金監査報告書及び確認書を、インターネットを利用する方法により公表しなければならないとされるとともに(20条1項及び2項)、オンライン提出が義務付けられた政党本部・政治資金団体・国会議員関係政治団体について、その収支報告書に係るデータベースをインターネットを通じて一般の利用に供しなければならないこととされました(20条5項)。
このデータベースについては、「名寄せのようなことも可能となるように、代表者や会計責任者の氏名など、記載された情報に含まれ、データベースを構成する情報になることから、可能になるような制度設計というふうに考えております。また、我が党といたしまして、今回の法案で整備することとしているデータベースにおきましては、収支報告書の記載事項のうち個人寄附者に係るものを除いた全ての事項について文字情報で検索できる機能を持たせることを想定しております。これによりまして、例えば、寄附をした団体であるとかそういうことを検索をいただけるとその一覧が分かるというふうな検索機能もございますし、訂正履歴につきましても収支報告書に表示されて公表が既になされておりますので、そちらにつきましてもデータベースで修正履歴というのが分かるというふうな形で考えているところであります」13 と答弁されています。
インターネット公表・データベースにおける個人寄附者等の取扱い
収支報告書をインターネットで公表する際、個人寄附者等(寄附をした者・政治資金パーティーの対価の支払をした者であって、個人であるもの)の住所に係る部分については、都道府県、郡及び市町村の名称に係る部分に限って行うものとすることとされました(20条3項)。具体的には、「A県B市(政令指定都市にあっては、A県B市C区)」と記載されることが想定されます。
この趣旨については、「現行法におきましては、個人寄附者等については、一定額を基準として、その氏名及び住所の全てを収支報告書に記載し公開していますが、これにより、例えばその住所に政治信条の異なる者が押し寄せるなど、個人寄附者等が具体的に迷惑を被ったり、また、自らの氏名及び住所が完全に公開されることをちゅうちょして寄附を行わない個人がいらっしゃると承知をしております。また、昨今のプライバシー、個人情報保護についての意識の高まりを受けて、例えば選挙の立候補者の告示の際の住所、また株式会社の取締役等の住所につきましては、その一部に限って公表することとされております。これらの点に鑑みますと、改正案では、政治団体に関して、浄財を提供する個人寄附者等のプライバシー、個人情報を保護する、そういった観点から、収支報告書に記載された個人寄附者等の住所に係る部分をインターネットで公表するときには都道府県及び市町村の名称に限る部分に限定して公表を行うということにいたしました」14 と答弁されています。
なお、この措置は、当分の間、オンラインで収支報告書を提出した場合又は紙で収支報告書を提出する際に住所限定報告書を併せて提出した場合に限り、適用するとの経過措置が定められています(第1弾改正法附則5条3項及び4項)。これは、全国で約6万の政治団体が存在することや、収支報告書のオンライン提出の現状に鑑みると、提出された収支報告書のすべてについて、その公表までに、総務省や都道府県の選挙管理委員会が個人寄附者等の住所の一部を除外することは極めて困難との実態があることから定められたものと考えられます。
あわせて、収支報告書に係るデータベースの対象からも、個人寄附者等の情報を除いており、この趣旨については、「プライバシーに配慮する観点から、個人の寄附者等に係る事項については、対象から除外することとしております」15 と説明されています。
政治資金パーティーに関する規正強化【第1弾改正法・第2弾改正法B】
政治資金パーティーの対価支払者の氏名等の公開基準額の引下げ
令和9年1月1日施行・開催・対価収受共に同日以後のものについて適用
収支報告書における政治資金パーティーの対価の支払をした者の氏名等の公開基準額につき、現行の「20万円超」から「5万円超」に引き下げることとされました(12条1項1号ト及びチ)。なお、原案では、公開基準額が「10万円超」とされていましたが、衆議院の委員会修正で、「5万円超」とされました。
この点については、「政治資金パーティーの対価の公開基準額を検討する上におきましては、政治活動の透明性を確保するという点と、一方で、個人情報、プライバシーの保護に配慮した上で政治参加の機会を確保し、政治資金についての多様な出し手、様々な収入を確保する必要性、公に知られてもよいという特定の組織や団体等に過度に依存してよいのかという点、こうした政治活動の透明性確保とプライバシーの保護という両面のバランスを考慮する必要があると考えております。加えまして、政治資金パーティーはそもそも寄附とは異なり、対価性があるという点を勘案する必要があると考えております。そこで、改正案の原案におきましては公開基準額を10万円超としていたところでございますけれども、可能な限り幅広い合意を得ることが望ましいことから、我が党以外の各党が5万円超への引下げを求める中で、我が党としてもこれに賛同することとし、そのような衆議院修正に至ったものであります。委員御指摘のとおり、政治活動の透明性確保とともに政治参加の機会の確保は重要でございまして、公開基準の多寡だけを捉えるのではなく、政党と所属する議員との関係や在り方、民主主義の構造の議論を含めて、より深い議論が必要になると考えております」16 と答弁されています。
政治資金パーティーの対価の支払方法の制限
令和8年1月1日施行・開催・対価支払共に同日以後のものに適用
何人も、政治資金パーティーを開催する者の預貯金口座への振込みによることなく、政治資金パーティーの対価の支払をすることができないこととするとともに、政治資金パーティーを開催する者は、口座振込み以外の方法によってされる政治資金パーティーの対価の支払を受けることができないこととされました(22条の8の2第1項及び第2項)。
この趣旨については、「今回の一連の事案においては、やはり現金での取扱いが広く行われていた、そのことが極めて大きな背景になったのではないかと考えております。そこで、本改正案におきましては、国会議員関係政治団体の政治資金について、銀行等への預貯金の方法により保管することを義務付けております。また、特に政治資金パーティーの対価の支払については、御党からの御提案からもございましたように、原則としてその開催者の銀行振り込みによる方法によらなければその対価の支払ができないことを規定しております。これらの規定により、収入につきましては預貯金通帳等に記録が残るようになるため、その記録を活用することにより収支報告書に記載のない収入の発生を防ぎ、収支報告書の記載の正確性を担保することで政治資金の透明性の向上が図られるものだと考えております」17 と答弁されています。
この口座振込み義務については、政治資金パーティーの開催日に開催場所においてする対価の支払等については、口座への振込み以外の方法によってすることができることとされましたが(22条の8の2第3項)、この場合であっても、政治資金の透明性を確保する観点から、口座への振込み以外の方法によって当該対価の支払を受けた者は、遅滞なく、その政治資金パーティーの対価に係る金銭を開催者の預貯金口座に預け入れるものとされています(同項)。
外国人・外国法人等による政治資金パーティーの対価支払の禁止等
令和9年1月1日施行・開催・対価収受共に同日以後のものに適用
何人も、外国人・外国法人等から政治資金パーティーの対価の支払を受けてはならないこととされました(22条の8第4項)。この趣旨については、「外国人等による寄附の禁止…と同様に、我が国の政治や選挙が外国人や外国の組織、外国の政府など、外国の勢力によって影響を受けることを未然に防止する趣旨」18 と答弁されています。
この規定に違反した場合の罰則は設けられていませんが、「罰則を設けなかった理由としては2つございまして、1つは、パーティー券の販売の実態を踏まえますと、いきなり罰則や公民権停止という対象になるのはややちょっと問題があるのではないかということが一点、また、機微に触れる事項でもありまして、相手方の国籍を聞くということを法律的に義務づけることに問題があると考えられたようなことから、こちらについては罰則を設けず、一方で、実効性を担保するために、パーティー券の対価の支払いをする者に対して、外国人、外交法人等からパーティーの対価の支払いを受けることはできませんよということを書面で通知するということ《筆者注:改正後22条の8第6項》をもって実効性ということを考えております」19 と答弁されています。
いわゆる政策活動費に関する対応【第1弾改正法・第2弾改正法A】
いわゆる政策活動費の使途公開とその禁止
令和8年1月1日施行
いわゆる「政策活動費」については、改正前の規正法に特段の規定が設けられていたわけではなく、その概念や趣旨については「各党によって様々な呼称で呼ばれておりますが、この政策活動費、自民党における政策活動費を、党に代わって党勢拡大や政策立案、調査研究を行うために、党役職者の職責に応じて支出しているところですが、この使途を広く公開すれば、我が党の活動と関わりのある個人のプライバシー、あるいは企業、団体の営業秘密を侵害するということ、あるいは党の戦略的な運営方針が他の政治勢力や諸外国に明らかになったりする、こうしたことで不都合が生じる」とされていたのみです 20。この政策活動費については、令和6年の予算委員会等で、支出の相手方として党役職者が記載されているため、政治資金の透明性の観点から問題がある旨の指摘がなされました。
そこで、第1弾改正法では、政党からの支出で金銭によるものを受けた所属国会議員が当該支出を充てて政治活動に関連してした支出の使途を公開する制度(第1弾改正法による改正後の規正法13条の2)を設けることとされました。しかし、その後臨時会において成立した第2弾改正法Aにより、政治団体の経費の支出は、当該政治団体の役職員又は構成員に対する渡切りの方法によってはすることができないものとされ(8条の2の2)、政策活動費が禁止されました。これに伴い、この使途公開の規定も削除されました。
この「渡切りによる経費の支出」については、同趣旨の内容である第2弾改正法Bの提出者の「精算や返納を前提としない、その当事者の裁量で使うことが許されるものを渡し切りと申し上げています。それを禁止することによりまして、全て、政党から所属構成員に対しての支出については、最終の支出先の支出として公表されるようになるということでございます」21 との答弁を受けて、第2弾改正法Aの提出者から「同じでございます。償還や返済を要しないものとして、渡してそこで終わりということでございまして、先ほど各省においてもあった、幾つかの省においてもありました。そういうものだと思います」22 と答弁されています。あわせて、「調査委託の契約は、調査をしてもらって、それに対する報告をしてもらう、そういう関係に対して対価としてお金を払い、そして、それは所得ですから税金も払ってもらっている、こういうことでございますので、報告書をもらうということに対する対価です」、「渡し切りによるものをしてはならないというふうに言った法律の渡し切りには当たらない、あくまでも業務委託に対する対価として支払っているものというふうに思っています」23 と答弁されています。
政党から公職の候補者個人に対してされる寄附の禁止
令和9年1月1日施行
野党提出法案では、政策活動費を禁止する観点から、政党がする公職の候補者個人への政治活動(選挙運動を除く)に関する金銭等による寄附を禁止することとされていたところ、衆議院の委員会修正により、この内容が第1弾改正法に盛り込まれました(改正前21条の2第2項の削除)。
公開方法工夫支出に関する議論
なお、第2弾改正法Bの原案では、政党本部の支出のうち、公開方法工夫支出(公開されることにより特別の支障が生じるおそれがあるためその公開の方法に工夫を必要とする安全・外交秘密関連支出、法人等業務秘密関連支出及び個人権利利益関連支出に該当する支出)については、収支報告書に記載すべき事項の一部に代えて、その支出が公開方法工夫支出である旨の記載をすることができることとしていました。この趣旨については、「渡し切りによる支出が禁止されて最終的な支出を公開することに伴いまして、現実の政治活動の中では、外交上の秘密、支出先の法人の業務上の秘密、あるいは支出先の個人のプライバシーに関わる情報を公開しますと、国益を害したり相手方との信頼関係が崩れたりするおそれがあるため、公開方法工夫支出制度を提案し、その該当性については国会に設ける政治資金委員会において監査をするという仕組みを提案させていただきました。したがいまして、政策活動費と公開方法工夫支出は全く別のものとして提案をさせていただいたところでございます」24 と答弁されています。
もっとも、この点は、衆議院の委員会修正で削除されました。この趣旨については、「外交上の活動は官房機密費でやるべきだという御意見、また、政策立案に当たって個人の意見を聞く場合でも謝金などの支出をする必要はないというような意見、こうしたものが多くありましたことを踏まえまして、我が党としましては、本国会中に成案を得るという観点から、そして何より政治改革を前進させることが第一と判断した結果、修正に至ったものでございます」25 と答弁されています。
国会議員関係政治団体から寄附を受けたその他政治団体の透明性確保【第1弾改正法】
令和8年1月1日施行・令和8年分収支報告書から適用
令和6年の予算委員会等では、収支報告書におけるより詳細な支出の記載等が求められる国会議員関係政治団体から、国会議員関係政治団体以外のその他政治団体への多額の寄附について、政治資金の透明性の観点からは問題ではないかとの指摘がなされました。
そこで、その他政治団体の政治資金の透明性を確保する観点から、国会議員関係政治団体以外の政治団体(政党及び政治資金団体を除く)のうち、各年中において次のいずれかに該当する寄附の金額が1,000万円以上となった政治団体は、その年及びその翌年において国会議員関係政治団体であるものとみなして、国会議員関係政治団体の特例に係る規定(これに係る罰則を含む)を適用することとされました(19条の16の3第1項)。
- 同一の国会議員関係政治団体(②の国会議員関係政治団体を除く)から受けた寄附の金額(国会議員関係政治団体に係る公職の候補者が同一の者である2以上の国会議員関係政治団体から受けた寄附にあっては、その金額の合計額)
- 同一の第3号国会議員関係政治団体(政策研究団体等)から受けた寄附の金額
基準額を1,000万円とした趣旨については、「みなし国会議員関係政治団体でございますが、寄附という外形的な行為のみで厳格な規制の掛かる国会議員関係政治団体とみなすと、そういった趣旨の規定であります。この寄附という行為自体は、国会議員と関係が深い政治団体に対して行うものに限られず、単に支援対象である政治団体に対して行うこともあり得るということであります。このために、対象とする金額の設定によっては、明らかに国会議員関係政治団体と同レベルとは言えないような団体にまで国会議員関係政治団体の特例が適用されてしまう、こういった懸念もあります。そこで、みなし規制が適用される寄附の基準額については、このような明らかに国会議員関係政治団体と同視できる、こういったものに限定をするという趣旨から、寄附の金額を1,000万円以上としたところであります」26 と答弁されています。
政党選挙区支部の代表者による当該支部への寄附の税制優遇適用除外【第2弾改正法B】
令和8年1月1日施行・施行日以後の支出につき適用
公職の候補者が、選挙区の区域等を単位として設けられる政党支部のうちその代表者が当該公職の候補者であるものに対して、政治活動に関する寄附をする場合においては、寄附金控除の特例及び所得税額の特別控除の適用対象とならないものとされました(租税特別措置法41条の18)。なお、例えば都道府県連のように、選挙区の区域ではなく行政区画を単位として設けられている政党支部は、この改正の対象には含まれないものと解されます。
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令和6年5月23日 衆議院・政治改革に関する特別委員会・鈴木馨祐議員 ↩︎
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平成21月12月11日 質問主意書に対する政府答弁書 ↩︎
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令和6年6月10日 参議院・政治改革に関する特別委員会・小倉將信議員 ↩︎
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令和6年6月10日 参議院・政治改革に関する特別委員会・小倉將信議員 ↩︎
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令和6年5月23日 衆議院・政治改革に関する特別委員会・小倉將信議員 ↩︎
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令和6年5月23日 衆議院・政治改革に関する特別委員会・小倉將信議員 ↩︎
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令和6年5月23日 衆議院・政治改革に関する特別委員会・木原誠二議員 ↩︎
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令和6年5月23日 衆議院・政治改革に関する特別委員会・小倉將信議員 ↩︎
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令和6年5月23日 衆議院・政治改革に関する特別委員会・吉田雅之政府参考人(法務省大臣官房審議官) ↩︎
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令和6年5月23日 衆議院・政治改革に関する特別委員会・鈴木馨祐議員 ↩︎
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令和6年5月23日 衆議院・政治改革に関する特別委員会・鈴木馨祐議員 ↩︎
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令和6年5月24日 衆議院・政治改革に関する特別委員会・小倉將信議員 ↩︎
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令和6年12月23日 参議院・政治改革に関する特別委員会・国光あやの議員 ↩︎
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令和6年6月11日 参議院・政治改革に関する特別委員会・本田太郎議員 ↩︎
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令和6年12月11日 衆議院・政治改革に関する特別委員会・長谷川淳二議員 ↩︎
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令和6年6月17日 参議院・政治改革に関する特別委員会・藤井比早之議員 ↩︎
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令和6年6月11日 参議院・政治改革に関する特別委員会・本田太郎議員 ↩︎
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令和6年12月24日 参議院・政治改革に関する特別委員会・長谷川淳二議員 ↩︎
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令和6年12月17日 衆議院・政治改革に関する特別委員会・国光あやの議員 ↩︎
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令和6年2月5日 衆議院・予算委・岸田文雄内閣総理大臣 ↩︎
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令和6年12月13日 衆議院・政治改革に関する特別委員会・長谷川淳二議員 ↩︎
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令和6年12月13日 衆議院・政治改革に関する特別委員会・大串博志議員。
なお、この答弁は、福島伸享委員の「かつては会計法上こうした渡し切りという制度があって、これは、例えば、郵便局とか法務局出張所、在外公館等の特殊な経理を必要とする官署において、事務の全部又は一部の支弁を会計法上の煩雑な手続を省いて行わせるため、主任の職員に返納を要しないものとして支給される金銭。あらかじめお金を渡して、この中でやっておいてというのが渡し切りということなんですけれども、立憲、自民、それぞれこの定義でよろしいんでしょうか」との質問に対するものです。 ↩︎ -
令和6年12月13日 衆議院・政治改革に関する特別委員会・大串博志議員 ↩︎
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令和6年12月24日 参議院・政治改革に関する特別委員会・長谷川淳二議員 ↩︎
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令和6年12月24日 参議院・政治改革に関する特別委員会・長谷川淳二議員 ↩︎
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令和6年6月12日 参議院・政治改革に関する特別委員会・鈴木馨祐議員 ↩︎

衆議院法制局法制企画調整部基本法制課長